第12話 チート級の武器

俺達はオリジンンの市場にて、セカンダリに着くまでに必要なものを揃えた。

 どうやら、セカンダリまでは一本道の舗装された道があるらしく、一日も歩けば着くことができるらしい。

 ギルドで購入した冒険者スターターセットという保存食と水、雑貨が入っている物を二つ分購入し、俺達はセカンダリに向かうことにした。

 ギルドで手続きをしていたら時刻は昼前くらいになってしまったが、俺達なら夜になる前に着くことができるだろう。

 妹は伝説の剣を装備したことで、筋力が上がっているはず。俺も上手く魔法をかけることができれば、筋力の増強くらいならできるはずだ。

 そうなると、すぐにでもセカンダリには着くことができそうだ。

「なんか反応可笑しくなかった?」

オリジンの街を出ると、妹がそんなことを口にした。

はやり、俺の感じていたことは間違ってはいなかったようだ。

「だよな。なんか気を遣われていた気がする」

「セカンダリで何かあったとか?」

「そうとしか思えないな。とりあえず、向かってみようぜ。あ、その前にすることがある」

「なに?」

「剣の試し切りと、魔法の試し打ち。俺達の武器がモンスター相手にどれだけダメージを与えられるのかを把握する必要がある。道中で試してみようぜ」

 そうセカンダリの街の様子も気にはなるが、自分達の今後の生活も考えていかなくてはならない。

これからこの先、俺達が冒険者としてどれだけお金を稼ぐことができるのか。それを知る必要があるのだ。

そのためには、現状の俺達の力を確かめる必要がある。

 その旨を妹に告げ、セカンダリまでの道のりを歩くこと数分。

 街の外はただのどかな道が続いていた。

 田畑しかない田舎道といった様子で、今にも猪なんかが出てきそうな道だった。舗装されていると聞いていた道は、石畳になってはいたが所々穴が開いておりぼこぼこしている。

周囲の草むらを歩くよりはマシと言ったレベルの舗装技術。

 この世界には重機などはなかったはずだから、この石畳は一から人力で造られたということだろう。結構な労力の上に成り立っている道だと思うと、ぼこぼこだとか文句も言っていられない。

「それにしても、モンスターっていないな」

 街を出て数分経つというのに、モンスターが襲ってくるようなイベントは発生していなかった。

 やはり、もう少し街から離れる必要があるのかもしれない。

 日本でも野生の動物がいるのは田舎の山奥とかだしな。モンスターも好き好んで人前に出てくることもないか。

 ここら辺で出るモンスターと言えば、農家を荒らすモンスターぐらいなものだろう。チート級の武器を装備している俺達であれば、死ぬことはないと思う。

 初めての戦闘にはちょうどいい難易度だろう。

「ん? なんかいるな」

 田畑が続く道を歩いていると、人間の下半身くらいの大きさの動物が目に入った。四足歩行で灰色。外見は猪なのだが、俺の知っている猪とは違うようだ。

 顔先に角が生えている。一つの角が伸びているが、そこまで鋭利ではない。角で刺すというよりは、カブトムシのように持ち上げるための物に見える。サイと猪の中間のような動物だろう。

そのモンスターが田畑の野菜を荒らしていた。

「あれがモンスター?」

「多分な」

 そこまで穏やかそうなモンスターには見ないが、特別気性が荒いという訳でもない。大きさ的にも手ごろだろう。

 突進してきそうなモンスターということもあり、攻撃を受けきれなかったら大怪我をする恐れもある。

俺が遠距離から攻撃してしまうのが手っ取り早いだろう。

そう思い、魔法を使おうと片手をそのモンスターの方に向けた。

「私が行く」

 何かしらの魔法を唱えようとしたとき、妹が一歩前に出た。

 積極的な妹の態度に少し驚く。このまま妹に任せてしまってもいいのだが、猪みたいなモンスターの角が気になる。

「いや、危ないんじゃないか? 突進されたら大変だろ」

「物理耐性? なんか防御力が上がってるんでしょ? それなら問題ないし」

「いや、まだ確証を得たわけじゃないし、今は体を張る場面でもないだろ」

「それに、まだ私は試せていていないしね」

 その妹の発言から積極的なのではなく、自分の力を把握したいという考えからの行動だということが分かった。

 昨日、チート級の武器を手に入れた俺達だったが、装備をしても伝説の武器を装備しているという実感が湧いていない。

俺はその場で魔法が使えることを試せたが、妹はまだ剣を装備しただけで試せてはいなかった。

もっと安全そうなモンスターで試し切りして欲しかったが、妹の反応を見る限りここで引くことはないだろう。

「分かった。でも、何かあったらすぐ逃げろ。俺が援護するから」

「……うん」

 そう言い残すと、妹はそのモンスターに向かって駆けだした。駆け出したのが見えた次の瞬間、妹の姿が消えた。

「え?」

 何が起きたのか分からない。そう感じた次の瞬間には、豚のような大きな鳴き声が上がっていた。

 そちらに視線を向けると、先程まで田畑を荒らしていたはずのモンスターが倒れていた。右足左足を境に、そのモンスターの体が真っ二つに分かれていた。

 そして、そのすぐ側に妹が立っている。

 いつの間にか抜かれた伝説の剣から、みずみずしい赤色液体が滴っていた。

その立ち姿を見て、ようやく現状が理解できた。一瞬のこと過ぎて分からなかったが、目にも止まらぬ速度で妹が目の前のモンスターを一刀両断したということか。

 チート級の武器は装備をすることで、基礎的な力が急上昇する。それは知っていたが、ここまで強くなるなんて知らなかった。

 一瞬、恐怖さえ覚えそうになる妹の後ろ姿。敵ではないことは分かっていても、身構えている自分がいた。

 ただ、ゆっくりとこちらを振り向いた表情が冷酷な顔ではなく、目の前の現象に驚いている女の子の顔だったので、不思議とこちらの力も抜けた。

 なんで切った本人が驚いてるんだか。

 緊迫したような雰囲気が残っていたので、場を和ますように少しだけ妹に笑ってみせた。

「いや、真っ二つかよ、容赦ないな。」

「ちがっ、気が付いたらここにいて、剣振ったら真っ二つになったの!」

 不機嫌な様子ではなく、本気で弁解をしようとする声色。剣を初めて握った女の子がやれる技ではない。

これがチート級の武器の力ということか。普通の冒険者の比じゃないな。

「素早さまで跳ね上がるんだな。一瞬消えたと思ったぞ」

「相手に近づこうと思ったら、いつ間にかここにいて、攻撃される間に切ろうとしたら、モンスターが真っ二つになってた」

「たしかに、綺麗に切り裂いたな」

 真っ二つになったモンスターに一瞥をくれると、その切られたモンスターの断面を拝めることができた。

 昔テレビでみた通販番組。そこで紹介されていた業物の包丁を使ったかのような断面だ。

 妹は動いているモンスター相手に対してそれをやってのけた。

 その切れ味にプラスして、素早さ向上と物理防御向上。もしかしたら、回避能力なんかも上がっているのかもしれない。

『伝説の剣』その名に恥じない働きぶりだ。

「さすが、主人公が使っていただけのことはある」

「うん、こっちで当たりかも」

 少しだけ誇らしげな表情から、妹が満足したことが見て取れる。これで切れ味が悪かったら、俺の魔法のリングと変えてくれと言われていたかもしれない。

 現に、俺が今からでも武器を交換しないかと提案しそうになっているしな。

「もう一匹いるみたいだけど、どうする?」

「え、どこに?」

 妹の指し示す方に視線を向けると、畑の奥の方でもう一頭が畑を荒らしているのが目に入った。先程の妹の剣技を見てか興奮状態のご様子。

 逃げてくれればよかったものを、変にスイッチが入ってしまったようだ。突進のための助走をつけていることから、放置していたら数秒後にはこっちに突っ込んでくるだろう。

「よし、次は俺が試してみよう」

「援護でもしてあげようか?」

「いらないと思うぞ」

 伝説の剣の切れ味を知ってかご満悦な妹。俺を茶化すようことを言ってくるとは、珍しいこともあるようだ。

 こちらがモンスターに手の平を向けると、モンスターはこちらに突進をしてきた。

 スピード自体は素早いが、こちらまで距離がある。冷静に対処をすれば問題はなさそうだ。

 以前、洞窟では火の玉を出すことができた。

 火の玉のイメージと火を連想する言葉に反応し、魔法が出たのだ。このリングはイメージと言霊をトリガーにして、魔法を出す使用になっている。

なぜそう断言できるのか。それは俺がこの世界の作者だから。

 小型のモンスターを狩るのだから、そこまで大きくなくていい。あのモンスターを閉じ込められるくらいの大きさで、火力は強め。

 発する言葉で力の大小が変わるというのなら、このくらいでどうだろうか。

「『火球(かきゅう)』!」

 俺の言葉に反応してか、腕の神経がぴくりと刺激されたのが分かる。イメージしたのはモンスターが丸焦げになるくらいの火の玉。

 腕の神経が刺激された次の瞬間、目の前にいたはずのモンスターが着火した。

「「え?」」

 豚の鳴き声がする中で、俺達の疑問符を口にした言葉が被った。

 おそらく、俺達は火の玉が俺の手の平から出て、あのモンスターに当たるのだろうと想像した。だが、実際に発動した魔法は何もない所からモンスターに着火し、モンスターを丸焦げにする魔法。

確かに、丸焦げにするイメージはしたが、その結果がこうなるとは思ってもいなかった。

 一瞬にして焼かれたモンスターは、炎の消滅と共にその場に倒れ込んだ。

 風に乗って買ってくるのは香ばしい豚肉の香り。

「狩ったモンスターは売るんじゃなかったの? 容赦なさすぎ」

 先ほどの俺の言葉を根に持っていたのだろう。先ほど俺が言った言葉をそのまま返されてしまった。

「……あれだ、晩飯のお供にしようかと」

 こうして俺達はチート武器のチート過ぎる能力の末端を知った。

 色々試せばもっと能力を引き出せそうだが、今回はここまでということで。

 俺も妹もそこらへんにいるモンスターなら、一撃で倒すことができるようだ。

 これなら、しばらくの間は冒険者として生きていくことができそうだ。

 ……丸焦げになったモンスターも、買い取ってくれるのだろうか。

 現時点の不安としては、それくらいのものだった。

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