第11話 職業冒険者
俺達は隣街である『セカンダリ』に行く前にギルドで冒険者登録をすることにした。
昨夜話し合い、隣街に行く途中のモンスターを狩って、それを売ることで日銭を稼ぐことにしたのだ。
宿泊費だって安いものではない。さすがに妹を連れて野宿という訳にもいかないし、ご飯を食べるためにはお金が必要だ。
昨日は気づかなかったが、どうやら大衆酒場の隣にギルドがあったらしい。確かに、掲示板のような物が置かれていた気がする。
酒場では主人公である悟との出会いもあり、てんやわんやでそれどころではなかったのだ。
酒場に入店してみると、右奥の方にカウンターがあるのが見えた。張り紙もあるし、あれがギルドなのだろう。
カウンターには二十代ほどのお姉さんが受付をしていた。西洋風の顔立ちにスレンダーな体つき。ぴんと張ったシャツが体のラインを強調している。
……非常に良く似合っている。
「おはようございます。クエストをお探しですか?」
こちらが話しかけるよりも早く、落ち着いた声で話しかけられた。
見慣れない顔プラス、不思議そうに辺りを見渡し過ぎたかもしれない。優しそうな声色に釣られ、頷きそうになってしまう。
「いえ、とりあえず冒険者の登録に」
「初回登録、ということでよろしかったでしょうか」
「はい。二名分でお願いします」
「かしこまりました。こちらに必要事項の記入をお願いします」
そう言い渡され、二枚の紙をとペンを受け取った。もちろん、書かれている内容はすべて日本語だった。日本語で書かれているのだから、書くのも日本語でいいのだろう。
言語の壁がない世界。ご都合主義万歳である。
記入する欄は名前や年齢といった基本的な情報。書き終えた書類を受付に提出し、二人分の登録料を支払って登録は完了した。
登録料だけで一日分の宿泊費と同等って言うのが痛手だが、背に腹は代えられない。
登録を済ますと、ギルドやクエストについてお姉さんが軽く説明をしてくれた。
クエストを完遂することで成功報酬が払われること、素材の換金ができることなど、基本的に俺が知っている内容の確認といった感じだった。
「以上が大体の説明となっております。何かご不明な点などはありましたか?」
「狩ったモンスターって、買い取ってもらえるんですよね? 運搬に困難なモンスターを狩った場合はどうなるんですか?」
「指定モンスターの場合は、そのモンスターの一部をギルドに届けてもらえれば、こちらで運搬します。お客様の場合は、まだ指定モンスターを討伐されるのは難しいと思いますけども」
登録して初日。お姉さんの目には、冒険に意気込んでいる新米冒険者といった風に映っているのだろう。そう見られていると思うと、少しは恥ずかしい。
「まぁ、登録して初日ですからね」
その感情を紛らわすように咳払いをひとつ。それでも変わらない空気に耐え兼ねて、俺はそのまま言葉を紡いだ。
「指定モンスターっていうはどんなのがいるんですか?」
本来、冒険者としてはクエスト報酬を貰うのが正規の稼ぎ方だろう。そして、そのクエストで生じた戦利品を売ることで副収入とする。
しかし、指定モンスターと呼ばれるものを狩れる冒険者ともなれば話は変わってくる。
放っておくことが危険なモンスターなどは、討伐後の買取価格が高いのだ。
それゆえに、一定の力以上を持った冒険者はクエストを副収入、戦利品やモンスター討伐時の戦利品を主な収入にする。
実際に、悟もそっち側の人間だったしな。
お姉さんの話によると、この街周辺にはまだ指定モンスターがいないとのことだった。
ゲームで言う始まりの街のだから、そんなモンスターがいるはずないよな。
指定モンスターを狩って、一獲千金を狙うのはまた今度の機会ということにしておこう。
「他には何かお聞きしたいことはありますか?」
「あ、セカンダリへの行き方を教えて下さい」
「セカンダリですか? え、なぜセカンダリに?」
俺がセカンダリの言葉を口にした途端、笑顔だった受付嬢の顔色が変わった。それどころか、周囲の雰囲気までもが変わった気がする。
何か口にしてはならない言葉を口にした。禁句でも口にしてしまったかのような独特な雰囲気。
『セカンダリ』。
『オリジン』よりも全体的に発展しており、武器防具もより良い物が造られている。普通の冒険者ならば、オリジンで少し経験を積んでセカンダリに向かうのが普通のはずだ。
行先を答えただけで険しい顔をされるような、そんな怪しい場所ではない。
俺達初心者が向かうには、まだ早いということあろうか。それを心配している雰囲気なのか?
いや、とてもそんな雰囲気ではない。
「知り合いに、会いに行こうかと」
「お知り合いに、ですか」
何かに納得したようではあるが、少し憐れむような表情。なぜこのタイミングでそんな表情をするのだろうか。
ますます訳が分からなくなってくる。
「そうですね。ご健全であることをお祈りいたします」
「え、ああ。ありがとうございます」
何か言葉に引っかかりがある。
しかし、それ以上のことを聞くことができず、俺達はその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます