第14話 配信後の反省

 ヴォルフを仲間にしたのち、ダンジョンを去った。


 得た魔石を売り払うと、割といい金になった。夕食はちょっと豪華なものを買っておいた。


「家だ!」


 配信教師は薄給ではないが、バリバリ稼げるわけでもない。生活費を搾り、娯楽に財産を投じたかった身だったので、住んでいるのはボロアパート。


「いずれこの家ともおさらばだな」


 稼ぎは悪くない。潜る時間が長くなることを加味すればではあるが。


 ベッドに倒れ込み、天井を見上げた。


 ダンジョンで戦った時の感覚が蘇る。モンスターを殺したときに出る血の暖かさ、ひんやりとする空気感、生きるか死ぬかの緊張感。


 どれも久々のもので、刺激的だった。


(ご主人様、かなりお疲れのようですね)


 ……バイオレットか。ダンジョンの外でも、コミュニケーションが取れたのか。


(えぇ。とはいっても、実体化はできませんし、語りかけるのも話を聞くのもちょっと難しいです。プライベートには干渉できないようにしています)


 ……ありがたい。


 ヴォルフの方は、ときおり体の中で吠えている気がしてならない。はっきりと現れないものの、微かに感じ取れる。


 きょうの探索内容については振り返り済みだ。【教育】が当たりさえすれば、という楽観的思考の危うさを痛感した。


 当たりさえすれば、というのは、当たらないと終わりってことだ。

 バイオレットのような幻術にかけられ意識を失えば終わり、見えない敵に襲われたら技を通すのもむずかしい。


 どうにも、ソロで探索するのには限界がある。


 かつてのダンジョン配信者時代では、若さゆえに慢心していた。今回のような綱渡りの戦闘をしても、問題ないと受け流していた。


 命あっての物種。そして、かつて失敗したやり方を踏襲することもない。


 いずれはチームで動くことも視野に入れてもいいだろう。


「仲間、か……」


 使役ファミリアとしている魔族・魔獣たちが仲間でありチームの一員という見方もできるが、俺がダウンすれば中の奴らも動けない。


 やはり必要なのは、別の探索者となる。


「名を馳せていかないと」


(私はご主人様を独占したいのに……)


 ……気持ちは嬉しいよ。でも、より強くなりたい。確定事項ではないし、誰と組むかも未定だし。いまは保留。


(そうおっしゃるのなら)


 探索者としての面はこの辺。


 次は、配信者という立場から見直していこうか。配信サイトから分析ページを開く。


 第一回の配信、再生回数は百回前後。デビューにしては上々ではないだろうか?


 この回数は、色魔サキュバスであるバイオレット目当てできた者によって稼いだものである。自分の実力ではないのを忘れてはならない。


 次回もこの数を上回れるかは怪しいところ。


 コメントもそれなりについている。チャンネル登録につながっている視聴者もちらほら見られた。


「登録者、まだ百人いかず、か」


 そりゃ甘くない。強くても人を惹きつけるだけの力がなければダメだ。何度も配信学校で教えてきたことになる。医者の不養生ではないが、教えられるからといってできるとも限らぬ。


(焦ることはありません。バズは思いもよらぬところから訪れます)


 ありがたい言葉をいただけた。焦ってビクビクしなくていい。甘んじては金が尽きるということは忘れちゃならないけども。


 チャンネル名「テイマー黒仮面」。あまりに凝っていないように見えるが、テイマーは十分人気ジャンル。配信のタイトルとサムネで差別化だ。


 視聴者数がとんでもないダンジョン配信業界。一定度のところまでは、俺の実力を持って吸えば上がれる。


 あるゾーンで伸びにブレーキがかかるのは想定できる。やはりコラボやらバズワードに引っ掛けていくか。


 これまで、テイムの対象は強い魔人・魔獣としていた。仲間の見た目なんて気にしていなかったし、じゃんじゃん探索できればいいという判断だった。


 今回の配信業では、かわいいモンスター狙いでいこうか――。


 バイオレットの反応しかり、ヴォルフが元の姿に戻ったときの温かい空気しかり。


 かわいいは正義。視聴数に、ビジュアルは大きく影響する。


 当たり前だが、大きな気づきだった。どこか差別化を図ろうとするなら、絞るところを絞っていかねばならない。


 倒すものは倒す。いいモンスターを見つければ仲間にする。


 ルッキズムの極みみたいなものだが、立派な戦略のひとつである。許してほしい。


 探索者としての能力、配信のあり方も考えた。あとは改善に改善を重ねるまでである。


 スマホの電源を落とし、近くに置く。


 ややあって、着信音があった。


『渡先輩、元気にしてますか? 今度とお茶でもどうです?』


 後輩からの連絡だった。やはりあいつはこういうやつなのだ。嬉しい限りだ。


 ニヤついていると、バイオレットが割り込んでくる。


(浮気はよくないですよ、ご主人様)


 ……ただの元同僚だよ。


(ならなんでニヤつくのですか)


 ……大事な人と思っていたからかもしれない。変な意味ではなくて、純粋に。

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