第12話 攻略法を見つけて
それでも。
動かないことには始まらない、という考えが頭を占めていた。バイオレットの目があるのを思えば、やる価値はあると踏んだ。
微弱な魔力反応に、強弱があると気づいた。そこから、ヴォルフの位置を特定して撃つ。
魔力の濃度から浮かび上がるのはヴォルフの輪郭。
でかい。狼どころの騒ぎではない。すっぽりと人の体を覆い尽くしてしまうほどの大きさ。
鋭い牙がくっきりと目に映る。捕食者の威厳をまとっていると、改めて思う。
今回は、奴にも狩られる側の立場をわからせてやる必要がある。
……などと考えていると、ヴォルフがいよいよ動き出した。
こちらの周りを囲い込むようにぐるぐると回っている。円の半径は、周回ごとに短くなっていく。このままでは、円は小さくなり、点となる。そこには俺がいる。
仕掛けてくれたのはありがたかった。出方を伺える。構えた指示棒には魔力をぐんと上乗せしておいた。
「いけ!」
こちらもぐるりと回りながら、魔力を解放する。全方位に攻撃を放てば、当たるだろうという算段。
かわされた。高く飛び上がり、向かってくる魔力攻撃から身を逸らした。平面的な戦いではないのだ。
反撃に乗じようと、ヴォルフは急接近する。ようやくきた、大胆な動き。そこまでの自信を生まれさせるものがなんなのか、とくと観察しつつ迎え撃ってやろうではないか。
・ヴォルフどこ
・実体化してきたっぽい?
・ぼんやり見えてきたな
俺の魔力を全体に撒き散らしたことで、奴の姿が鮮明になりつつある。
「ググググガガ……!!」
唸りながら、飛びかかる。
巨体と鋭い牙が具体的なビジョンとして見えると、さすがに体もすくむ。
「指示棒を甘く見るんじゃないぞ」
展開した棒で、ヴォルフが噛み砕きにかかるのを受け止める。棒自体の耐久力は期待できないものの、魔力さえまとわせれば、話は別。
・市販品の指示棒強すぎ問題
・拮抗している、だと……?
・魔力こそパワーってか
拮抗状態が続く。やや押され気味なのはこちらだった。狭い面積に濃密な魔力を込めることを特徴としている指示棒君も、でかい面積でそれなりの魔力を持ったやつに迫られると渋いところがある。
最後に勝つのは、魔力をうまく使える者だ。
こちらの戦術は、なにもひとつだけではない。
「指示棒君と張り合えるとは、なかなかの玉とみた。従えるのが楽しみになってきたよ」
・悪人面なんだよな
・これだからテイマーは
強者にあたるときの快感は計り知れない。よく配信教師の間、雑魚敵で我慢していたと思う。
バイオレットもそうだが、やはり昂る。戦士としての魂が目を覚ます。
「さっ!」
力を一点に込め、跳ね除ける。いったん後退し、体勢を立て直す。
「まずはお前の弱点を見極めるところからだ」
前進と後退を繰り返し、執拗にヴォルフに攻めていく。奴自体には、攻撃してもどうにもならない。求めているのは、隠している弱点。
おそらく岩だ。鎮座している、巨大なもの。
「岩、ここがお前の
突こうとするたび、猛スピードで迫ってくる。ターゲットを見つけるのはたやすかったが、壊すのは簡単ではない。
あまりにも硬い。ただ指示棒と魔力とをぶつけるだけでは、びくともしないのだった。
・硬すぎん? ダイヤモンド?
・弱点はわかっているのに壊せない……もどかしさよ
・どうするどうする
「なにか秘策は……」
相変わらず向かってくるヴォルフに突きを喰らわせる。
ヴォルフを、自分と岩の間に挟んで撃ったとき。
明らかに違う感触が、身体中を巡った。
「なるほど、ヴォルフ。
ここまで辿り着く前に、多くの探索者が圧倒的な力によって捩じ伏せられたのだろう。
仕掛けがわかれば、やることは決まっている。
「ヴォルフ、観念しな」
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