第11話 ヴォルフ攻略戦

「嵐の前の静けさ、かな」


 誰もいない。なにも襲ってこない。不自然極まりない、というのは当然の感覚だった。


 指示棒には触れている。いつでも取り出せる体勢だ。


 ……気配を感じるか、バイオレット?


(微弱ですが。ただ、空間全体からですので、どこにヴォルフがいるかの特定はできかねます)


 ……厄介なことだ。それゆえ強いのだろうけどね。


(引き続き警戒はしておきます。なにかあれば報告します)


 了解、と俺はテレパシーで答えた。


 いちおう魔力で体を包んでおくか。一部分だけに留めておく。余計な魔力消費は長期戦となったときに困る。


 沈黙。耐えること数分。


 ザッ、と地面を削り取る音。音のみで、凹みは生じていない。異様さが増していく。


「動き出したらしい」


 ・怪しい音はそれか?

 ・現れてもあまり伝わらない映像になる予感ガガガ

 ・死ぬなよ……


 唸り声が響く。低く、小さなものであり、魔力で五感を強化していなければスルーしていただろう。


 なにも見えない、接近してこないというのは神経を擦り減らす。凶犬ヴォルフは人間と同じ時間感覚で動いているとも限らない。早く出てこいというのも勝手な話か。


「待ちくたびれている。こちらから仕掛けさせてもらおうか」


 断続的に、異音と唸りは聞こえる。あちらも様子を伺っているのだ。であれば、早計かも知れぬ。

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