第7話 色魔と挑む真の戦い①

「こちらこそ。なかなか末恐ろしいレディのようで」

「あら、あなたのような三枚目に、気障キザなセリフは似合わなくてよ」

「口の減らない色魔サキュバスだったか」


 ・強者感出てきたかな?

 ・サキュバスはやっぱりSなんだわ

 ・ようやく本編開始


「私はこういういい方しかできないの。ごめんなさいね」


 上品に笑っているが、あくまで計算づくだろう。対象の欲求を掻き立てることに特化してきた種族なのだ。遺伝子レベルで染み付いてる。


「幻想世界でのあなた、お見事だったわ。人間としての強さを見た。予想では、あっけなく折れる程度の実力でしかないと踏んでいたのだけれど……」


 ・舐められてて草

 ・やっぱりきついこというじゃないか(感喜)


「人は見かけによらず。実力はいつだって試してみなくちゃわからない。魔人として知恵ある色魔サキュバスに、そこまで頭が回らないとも思えませんが」

「いってくれるじゃない。戯言はこの辺にして……始めましょう?」


 蔑むような目つきを。本能を刺激しない、とはいえなかった。男として残念だ。みっともない。


 それ以上に、この相手に勝ちたいという気持ちが上回っているのもまた、事実だった。


 あっけなく己の世界に持ち込んだこと、同じ精神干渉系の能力持ちとしては悔しいものだ。俺も、色魔サキュバスから学ぶべきところはある。


 一段上のステージに上がるためにも、奴には学習対象となってもらう。


「さきほどのようなワンサイドの状況ではない。ここからは正面でぶつかり合う。その覚悟はいいな?」

「望むところよ。私が夢を見せた探索者のなかで、負けなかった者はいない、とだけいっておきましょう」


 自信満々、といったところか。


「不敗記録、破らせてもらおう!」


 指示棒を右手で握る。


 まずは触れることが第一目標だ。俺の【教育】が、どこまで通用するのか。効果的に決まる部位はどこなのか。戦闘の中で探っていく必要がある。


 もしも討伐不可能だと悟ったらどうするか。


 逃げる、というのがいままでの答えだった。それで探索者を挫折することにつながった。


 リスクを取る、というのがこれからの渡恭平。ある程度の安泰が保証されていたダンジョン配信教師をやめる、という選択をした男である。


 この戦いは、食い扶持のためのものともいえる。逃げてばかりでは飢えてジ・エンド。


 どんな思いが優先されようとも、戦いをやめないのは決まっていた。


「いざっ」


 距離を詰め、魔力を纏わせた指示棒を前に突き出す。


 近づいてくるのを見て、色魔サキュバスは片頬をあげた。


 瞬間移動のように、彼女の姿がブレた。指示棒は虚しくも宙を貫くだけだった。


 ・なんてスピード

 ・サキュバス、ふつうに強くないか


「甘いのね」


 生じた隙をつくように、色魔サキュバスの拳が飛んでくる。紙一重のところで後退し、体勢を立て直した。


「やるじゃないか」

「そちらこそ」


 ただのぽっと出の色魔サキュバスでないことと、改めて痛感するのだった。


「今度はこっち」


 手が伸びる。手のひらを開き、ぎゅっと握りしめた。あたりの空間が歪む。水に絵の具を溶かしたイメージだ。


「まやかしか」


 見えにくい視界にも屈せず、前方に躍り出る。攻撃は、当たる前に外れた。狙った場所には届かず、宙を切るだけだ。


 反撃。魔力の塊が飛んでくる。こちらの魔力で跳ね返そうとするも、一部の魔力がこちらにやってくる。量は多くない。が、触れるだけで頭が飛びそうになる。


「動きがブレたね。色魔サキュバスの体を通した魔力は、魅了の特性を有してる。まともに食らったら、また意識を持っていくことになるけど?」


 接近し、指示棒を突き立てる必要がある【教育】。発動のためには、奴の魔力を受けないようにせねばならない。


 魔力に当てられないようにするには、別の魔力で対抗するまでだ。全体を、薄くて頑丈な膜で覆う。魔力消費が激しく、長くなればボロが出る技だ。


 であれば、短期決戦に持ち込むまで。厳しくなれば、膜の面積をすくなくし、単位面積あたりの強度を増すまでだ。


「終わらせる!」


 膜で覆った体は、色魔サキュバスの眼だけでなく、配信用のカメラにも映っているはずだ。きっと、異様に。


 魔力がオーラのように揺れている。圧倒する。


「なっ!?」


 意表を突いたらしい。魔力の濃さを調整し、派手な色味になっている。


「結果はすでに決まった」


 固まっているうちに、近づく。もちろん、あちらとしても空間に干渉してくるのは見えている。色魔サキュバスは精神干渉系の能力である、というのは承知している。


 であれば、空間に干渉しているように見えるのも、こちらの視覚に働きかけ、錯覚を起こさせているということではないだろうか。気付いたのなら、弱点を潰すまでだ。


「まさか、目を瞑って……」


 目からの情報が自分の行動に異常をきたすというのなら、自ら塞ぐだけだ。たとえあちらが動こうとも問題ない。魔力を高密度、かつ大量に使用しているいま、感覚は冴えまくっている。


 五感だけではない。相手の気配を察知する、第六感もまた、働いているのだ。


 体の動きを推定するに、右に若干ズレが生じた。反撃するための魔力を練っていたのだろう。


 遅い。こちらの指示棒が、色魔サキュバスを突くのが先だ。


「――いけ」

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