第4話 探索者としての過去
カメラの前で強がって見せているが、本当に超ポジティブな状態か、といわれりゃ否だ。
中級者向けのダンジョンとはいえ、生きるか死ぬかの戦いに舞い戻った。いまは望んで潜っているが、一度は挫折し、遠ざけていた道だ。
昔。
ダンジョン配信学校の教師になる前、探索者として頂点を目指していた時期がある。
自分に与えられた天賦の
スキルがなくとも勝てるように。求めたのはそこだった。剣一本でモンスターと渡り合う。スキルばかりに頼るのはいけない、という意識だ。
オリジナルの特殊な力、これに溺れて油断し、死神のお迎えを早々に受けてしまった探索者は数知れず。同じ轍は踏みたくなかった。一点突き抜けて、生ける伝説となりたい。
ダンジョン配信学校に入っている時点で、笑止千万。
生ける伝説?
青い理想だ。抱かざるを得なかったのは、格の違う
ダンジョン配信学校の同期であり、いまもなお、卒業生最強に君臨している。国内ではトップランカー。最前線で活躍を見せている。
天才――いや、鬼才。
周りからは一線を画していた。あいつの一挙手一投足から醸し出されている強者のオーラ。
奴が完全な魔人になったことも、異様な存在感に寄与していたのかもしれぬ。物理法則を無視し、体の損壊などもろともしない、向こうみずの戦闘スタイル。恐れないからこそ傷を負うことはすくない。逆説的だ。
鬼塚にとっては、俺はライバルたり得ない存在だったはずだ。凡百の未熟な探索者もどきとしか見られなかったかもしれない。
俺にとっては別だった。目指すべきゴールであったし、いずれ超えるべきハードルでもあった。
鬼塚に配信の工夫は必要はない。圧倒的な実力が、見るものを巻き込む。自然と日本有数のチャンネルへと膨れ上がった。
第二の鬼塚に――ダンジョン配信学校の方針だ。別のところはもっとマシなキャッチコピーをつけている。
俗で、非現実的で、残酷だ。奴を超えるなんて常人の道ではない。憧れるばかりでは、一生追い越せない壁だ。大概の生徒は、本気になる前に消えてしまう。出そうとしても、生まれ持ってのセンスの差が立ちはだかり、挫折する。
俺も折れた。自分の限界を知らずに、貪欲になりすぎた。結果として、周りが見えなくなり、足をすくわれた。
格上の魔人を前にして、怖気づき、敗走した。逃げる最中に、巻き添えで死人を出した。俺の自業自得であり、以降、最強への道は閉ざされた。
学生時代から蔑んでいた配信教師になるとは、思ってもみなかった。妥協の選択でしかない。
諦めきれていなかった。ダンジョンという界隈から離れようとせず、半端に関わっている。心のどこかで、鬼塚のような「鬼才」が出ないかと淡い期待を抱く。
目の前に広がる現実は、九割以上が兆しの見えぬ学生のみ。見捨てはしていない。大器晩成を見越して、指導には身を入れた。
あくまで、自分の代わりを、生徒に任せていた。思えば、俺が弱い理由がそこに詰まっているともいえる。
なにもかも中途半端だった。教育者として全霊を捧げるのでもなく、全時間を捧げて実力を伸ばすのでもなかった。
哀れだ。
だから、始めた。もう一度、鬼塚の背中を追う。
配信は、鬼塚に早く認知してもらうためのツールだ。彼をひょいと乗り越えていくのは厳しい。たとえちょっと強くなっても、情報は回らないからな。
配信の狙いは他にもある。探索者としての自信を取り戻すことだ。
現在は辛辣なコメントが続いているが、いずれは逆になる。まだ弱いから、舐められる。魅せ方がなっていないから、過小評価を受ける。
強いだけではない。美しくありたい。
……と、いうのが、
一歩先に進むためには、魔人に対する恐怖心やトラウマを克服することにある。魔人全般がダメなのではない。血の気が引いてしまうレベルの凶悪な敵が、鬼塚と被るのだ。
鬼塚は憧れの対象であり、ついで恐怖の対象でもあった。
いままでは、モンスターばかり
このダンジョンには、魔人が潜んでいるという。彼ら彼女らは人間ではない。ダンジョンにいるような魔人の場合は、「高い知性を持った人型モンスター」と形容するのがいい。
初回配信、魔人に【教育】をふっかけるのも悪くない。指示棒の中にはいないが、俺の
強い相手には、
・フリーズした?
・次はなに
いけない。考えごとをしすぎたようだ。
「お待たせしました。次は魔人と戦いたいと思います! 出会えればの話ですけどね」
・行き当たりばったりで草
・大丈夫かぁこの配信者
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