第4話 たちつてとが覚醒する!

「地面が揺れている...みんなが危ないよ」


椅子に紐でぐるぐる巻きにされている。手が届けば、放送室の隠しコマンドで皆を応援できるのに!


「...っていうか、放送室の隠しコマンドって何それって話だよね。無茶苦茶過ぎるよ、この学校」


「四天王、はひふへほ...かなりの強敵だ」


「あいうえお、みんな。私が助けるから」


「そうはいかない」


「誰!」


縛られた椅子ごと振り返り、放送室のドアから顕れた何者かを確認する。


「そう暴れるな。私は三人めの四天王、真美夢女藻(まみむめも)。保険の先生よ」


「まみ、むめも...」


セーターの上にラフに白衣を羽織り、下半身はワイドめなパンツスタイル。


「はひふへほ先生に貴方のことを見るよう命じられたの。精々、お仲間が朽ち果てて行くのをここで見ていなさい」


「っ...!」


まみむめものコマンド入力により、放送室の低い天井の角に設置されている薄型テレビに映像が映し出される。


「みんなっ!!」


ドカーン!!凄まじい爆発音と白煙の中から、三人が吹き飛ばされる。


「ヤバイぜ!」


「くっ、先程の四天王の159%相当の強さです!」


「うう~ん、強いねぇ...ゲホッ、ゲホッ」


「おーーーっほっほっほっほ!!!これが罪の痛み!さぁ、大人しく這いつくばり、ペナルティとして『原子番号119番元素見つけるまで帰れません』に参加しなさァい!」


「だからできそうにもないことを押し付けるなって!」


「俺っちも同意だぜ。そもそも、はひふへほ!さっきも言ったが、その為に校舎を爆破するのは罪じゃないのかだぜ!」


「おほほほ、笑止!貴方たちだってビーム兵器や鞭を使った筈ザマス」


「けどぉ~、それは正当防衛じゃな~い?」


「そもそも貴方たちが遅刻しなければそもそもこんなことは起きていませんわ。これは必要経費ザマス!」


「んなことで納得できるかいこの野郎だぜ!」


「悔しいが論破できない。やはり、力ずくで突破する他無いようだ。奴のデータを集めなくては...」


「させませんザマス。」


「なっ、いつの間に僕が首から吊り下げていた愛用のパソコンに爆弾が!」


「どんだけ丁寧に説明すんのさぁ~。」


「うわぁぁぁああああ!!」


バコォオオオン!!派手な音がして、パソコンが吹き飛ぶ。


「たちつてとー!!だぜ!!」


「たちつてと君!クソッ、白煙のせいで視界が...」


「よくも...」


「たちつてと?」


「よくも我がお手製のパソコンを...許さん!」


白煙の中から、血走る目をしたたちつてとがはひふへほを睨む!


「来た、これは土壇場の覚醒のパターン!勝った、ノリバト完だぜ!」


「ばかっ、そんなこと言ったら...」


「うるさいザマス。『ニトログリセリンボム』」


「うぎゃああああああ!!」


「たちつてとーーー!!」




-----




「嘘っ、このパターンで瞬殺とかあるの?」


「だいぶ苦戦しているようね、貴方のお仲間は」


「くっ...真美夢女藻、この縄をほどけ!」


「ほどけといわれてほどく奴が何処にいるって言うの?私は四天王としてこの学校を統治する役割がある」


「仮にも保険の先生なら、目の前で生徒が傷付いているのに何も手出ししないの?」


「...それが教師のつとめだから。さあ、もう二対一だよ」




-----




「はぁ...はぁ...だぜ...」


「やるねぇ~...もうリロードできる輪ゴムもないし限界かな」


「口ほどにも無いザマスねぇ。さぁ、大人しくペナルティを...ん?あらあら」


校内の鐘が鳴る。


「今から授業の時間ですわね。行かなくちゃ」


「そうか...教室に行くんだ。ねぇ、みんな」


むくり。たちつてとが起き上がる。


「ああ、そうだな。授業に...」




-----




「夢から醒めるときが来たようね。四天王揶揄夜(やゆよ)、それから校長の羅裏流玲炉(らりるれろ)も。」


「どういう、こと...」


「貴女自身も、本当は判っているはず。この世界は...この世界に生き残った十人だけが意識を電脳世界に移しただけの、茶番劇の世界だと」


教室に、ヒトなど居ない。


かつて滅びを悟り正気を失った私たちは、何度も繰り返した。自分と異なる人物を演じるロールプレイを。


あるときは、勇気ある新人警官と、華麗なる手口でお宝を盗む怪盗たちの物語を。


またある時は、異世界に生きる勇者と魔王の物語を。


「幾度となく十人で繰り返した。この、五十音を分割した名前も、『設定』に過ぎない」


空虚なる教室を見つめ、項垂れる四天王と生徒の映像が、薄型テレビから流れる。


「...残酷ですよ。真美夢女藻先生。この劇場から逃れても、私たちに居場所なんて...だからこそ演じるしかないのに...」


「そうだ。だからこそ我々は倒さねばならない。私たち十人での心中を試みる、『最後の砦』である男。『ワヲン』を」









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