第4話 瞬間 春〜東風3


 5


 小学生に花を見るなんて風情はない。

 仲良い男子、もしくは女子に分かれ、たわいなくさわぐだけ。


 桜の花をみるのは数人の女子たち。 

 一部はキレイとかいって、スマホをいじる。


 その気持ちもわかる。桜がゆったりと散りはじめる景色は、桜しべふるという季語のまま。


 そんな中でも、渡辺は1人。

 親しい友人もいない彼女はぼんやりとしている。

 チョコンとコップを持って小雀のような存在感のなさ。


 無類の強さをほこった彼女とは別人。

 だれからも話しかけられない。


 一人しずかにたたずんでいる。


「おい、ここでも1人かよ」


 声をかけてしまっていた。

 かたまっている渡辺は目をパチクリさせて。


「別に……」


 そっけない返事。

 しかも、よそよそしい。

 渡辺とどう話ていいかわからない。


 桜がキレイだとか?

 いやいや! ゼツボーてきににあわない……


 話題がみつからない。

 どうしたら。


「突きはどうやったんだ?」


 けっきょく俺たちの、共通点は剣道しかなかったのだ。

 目をまるくする渡辺。

 なんかおもしろい。


 6


「……正面から……腰こしからのばすの」


 ことば足らずだ、渡辺は説明もにがてのようだ。

 しかし、スゥと箸をのばす動作は自然。

 

 俺もマネするように箸をのばす。

 けど、剣先はまっすぐのばしたはずが高くなっていた。


「こうすらの」


 渡辺の手の位置は低い、立つとよく分かる。手の位置は自分の胸元。


 たいして、俺の手は肩からまっすぐ。

 これなら打突位置は横面にふれる程度……


 そっか!


 だから、俺の突きは彼女の頭上まで上げてしまっていたんだ!


 たいして彼女の突きは上がらない。

 真ん中を攻めるまっすぐな突き。


「できるたね」


 渡辺はニコリとわらった。

 俺もつられてわらう……


 なんだか、人の輪からはなれ対話する俺達は二人しずかのよう。


 けど、そんな事か。


 なんだ、渡辺はそのまま。

 試合の時とかわらない。 


 ガチガチに構えているのに隙があった。

 違うのは、試合の時は攻められるけど、素では受け入れいれてくれる。


 本当に渡辺六花そのまま。

 剣は人を表すという意味そのままの女の子だった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る