第2話 瞬間 春〜東風1

 1


 剣道にはルール違反やタブーが多い。

 もとは侍の武術から始まる剣道はきびしい。

 たとえば、試合後のガッツポーズ、十秒以上の鍔迫り合いなど。

 重いと反則負け。

 これから使う技もタブーの大技。

 俺、清水虎雨(しみずこう)は渡辺六花に勝ちたい。

 そのためにつかわせてもらう。


 あいかわらず正眼にかまえる渡辺。

 隙を無視し、俺は剣先をしずかに渡辺の胸元へとおろしていく。


 俺と渡辺の身長差はは30センチはある、おちる剣先に不審にみてるだろう

 だから、渡辺の目に霞のようなとまどいがうまれた。そこに、俺は技を走らせる。


「突きーー!」  

 

竹刀を伸ばし、春雷のように六花の胸元を狙う一撃……のはずが竹刀は彼女の頭上をとおりすぎ……流れていった。


 その隙をのがす渡辺ではなく。


「突きーー!」

 

 かわりに六花のカウンターぎみの突きが俺の首へときまった。 


「げぇー!」


 もだえる俺をよそに宮下先生が旗を上げる。


「突きあり!」


 渡辺の残心もくやしいほどにキレイで山桜のようだった。


  2


「何をやってるんだ虎雨!!」


 佐々木先生の説教タイム。春のあらしのようにあれている。

 迫力がある。ちぢこまる俺はせめてものいい訳を口にする。


「むこうも突きました」


 しょうがない、だけど俺だけじゃない。そこは指摘してもいいはず。

 

 佐々木先生は渡辺をチラリとみる。


「渡辺も説教されているだろ」

 

 たしかに、宮下先生に怒られているが、年よりなので怖くない。

 ズルい……


「むこうから……突いてきたから……」


 渡辺は反論している。

 試合とちがい小さな声におどろいてしまう。

 ハッキリいえよ。と俺は思った。


「そもそも、突きは高校生からだ! 小学生は反則。本当なら虎雨は反則負け!!」 


 知っている。突きはキケンだからだ。つい最近まで大人でもヒキョウといわれるほどのタブー。

 わかってて俺はつかった。そこまでして渡辺に勝ちたかった。


「……じゃあ、なんで俺は負けたんすか?」


 しぼり出すように俺はたずねた。


「渡辺の突きが上手かったから特別だ! どうせ、突くなら練習してからにしろよ」

 

 どこかあきれ気味の佐々木先生。それはそうかもしれない。

 俺はグウの音もでない。

 すこし泣いたことは内緒だ。

 二度目の試合はあまりにカッコ悪い敗北となった。

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