第1話 それは、ダイダロスの助言のように
第1話 それは、ダイダロスの助言のように
「ふざけるな……。」
理不尽だ――。
「何が終焉だ……。」
あまりにも理不尽に、次から次へと悪い展開へ転ぶ。
「何が地獄だ……。」
幾度も拒絶を試みたが、それは終わらなかった。
「こんなこをとして……、何になるって言うんだ。」
痛みを忘れる程傷を負わされては回復、意識が飛びそうになっても回復、疲労で睡魔が襲ってきても回復しては叩き起こされる。
勝ち目のない戦いに、何度も挑んでは返り討ちに合う構図から、いつの間にか、自分の意志に反して戦いを強要され、嬲られるようになっていた。
「おや?強いと豪語していたのは貴方ですよ。」
アルゴスが発した一言で、俺は発端となった出来事を思い出す。
無視され、もの扱いされたことに苛立って、攻撃を仕掛けたのは俺の方だった。
だからと言って、人知を超えた力を見せつけるように揮い、ここまでする必要はないだろう。
明らかに、オーバーキルと言うやつだ。
「だから、俺より強いってことを知らしめるために、ここまでやるって言うのが貴様ら神と言う存在なのか。」
俺は皮肉を込め、アルゴスに向けて吐き捨てる。
その言葉に反応したのは、意外にも女神の方だった。
「貴方ねぇ、アルゴスがどういう意図で……。」
「アリソン様、ここは私にお任せを。」
女神が何かを言い切る前に、アルゴスはそれに割り込んで入る。
「残念ながら、貴方が思い描く神と言う存在は、私もまだ見たことはありません。アリソン様は、その神という存在により女神としてこの世界を任された管理者。私はその管理を補佐しているにすぎません。」
アルゴスの口から出たのは、女神についてとその役割だった。
「全知全能で奇跡を起こすような、伝承や神話染みた能力もありませんよ。あくまでも、この世界の理にある、精霊と言う存在の力を借りて事を起こしています。恐らく、貴方にもできるでしょう。」
その内容の中で、俺は気になる内容を見つける。
「あんな魔法が、……俺にもできる。」
何もない所に風を起こしたり、怪我を回復させる魔法のような力。
その力が俺にも使えると言う。
「可能だと思いますよ。」
ふと零れた言葉に、アルゴスの肯定が返ってきた。
「私も、女神であるアリソン様も、精霊の力を行使しているだけですので、貴方が漫画やアニメで見たような、魔法という訳ではないですが。」
魔法ではないにしろ、その、精霊の力を行使すれば、先程までの一方的な展開は避けられるだろう。
その力があれば、アルゴスに俺の強さを知らしめることができるはずだ。
「確か、こう手の平を向けるんだっけか?」
見よう見まねで手の平をアルゴスへと向けてみる。
しかし、光が放たれることも、風を起こすこともなかった。
それを見ていたであろうアルゴスは、何やら独り言のように呟く。
「聞く耳はないわけではないが、驕りは不要。意思は強固なれど未熟ですかね。」
そんなアルゴスはお構いなしに、俺は何度も手の平をかざしてみるも、一向に何かが出る様子はない。
次第に、俺にもできると言った話が嘘じゃないかと疑問が浮かび、イライラが募っていく。
「くそっ!何も起きねぇじゃねぇか。でまかせばかり言いやがって。」
期待だけさせておいて、結局は何も起きない。
その苛立ちの矛先は、アルゴスへと向かっていた。
「自己に解決を見出さず、他者への責任転嫁。典型的なダメな大人になるタイプですね。」
その言葉も拾ってか、俺に向けられたアルゴスの言葉が、更に俺を苛立たせる。
「何も起きない事が分かってて、できるなんてふざけたこと言いやがったのは貴様らじゃねぇか。何なら俺にもできるって証明してみろよ。そもそも、そんな力を一方的に使うとかフェアじゃねぇだろ。」
思いを吐き捨てるように、俺は言いたい放題言ってやった。
「そう言う自分勝手な言動が、貴方の品位を下げていることに気付いてませんか?」
対抗してだろうか、アルゴスは更に俺の苛立ちを増幅させるような言い回しをしてくる。
「ふざけんな!何が身勝手だ。俺が魔法みたいな力を使えないと知って、一方的に使ってきたのはフェアじゃねぇだろ。こんなのは、ただの不平等だ!」
だからこそ、俺は許せない。
一方的な力で分からせようとする所や、難しい言い回しで丸め込もうとする所。
上手くは言えないが、そういった、金持ちや権力者が、一般人に向けて言う思想染みた言い回しが、何より不快なのだ。
「アルゴスもういいわ。これは私が処理するから。」
「いえ、私にお任せください。」
アルゴスに向けられた罵詈雑言に、やはり女神の方が反応する。
しかし、それでも冷静さを失わず、アルゴスは自身で解決しようとしていた。
「あまり自分勝手な思想でアリソン様を苛立たせないで欲しいですね。貴方の身の安全の為にも、もう少し言葉は択ぶべきだ。」
別に女神に向けて言った訳でもなく、何故それについて俺が忠告を受けなくてはいけないのか理解できない。
「今度は脅迫か?俺はただ、平等にしろって言っているだけだ。」
銃と素手では圧倒的に銃の方が有利だし、武器が許されるなら最初からそう言うのがフェアってやつだ。
金持ちになるのも貧乏なままなのも、親ガチャって言われるくらい、どんな家庭に生まれたかで子供の運命は決まってしまう。
そう言う不平等に対して、俺は特に過敏だった。
「平等にするのは私の責務ではありません。それは貴方自身が考え、努力して得るものでしょう。精霊術を私が使えて、貴方が使えないなら、貴方が使えるようになればいい。相手のできる事を封じて、全力じゃない相手と全力な自分では、それこそ不平等ではないですか?やり方を教えろと言うのも身勝手極まりない。私は自ら精霊術を使えるように努力をしてきましたが、貴方はその努力をせずに力を得ようとしている。」
平等と言うフレーズに対してのアルゴスの反論。
視点が相手になれば、確かに奴の言う事も理解はできた。
「なら、今じゃなく俺が使えるようになってからだ。その時間があれば、俺はお前なんかに負けはしない。」
それなら、同じ土俵に立つための時間が必要となる。
「そのただ待つ時間は、私にとっては不平等です。それを埋めるために、財力があるならそれを金銭で解決しようとしますし、宝石商なら宝石を渡すでしょう。」
「なら、金持ちじゃない貧乏人は、甘んじて受け入れるしかねぇって言うのか?」
その努力する時間さえ、奴の言葉からは、金持ちじゃなければどうにもできないと言うように聞こえた。
「お金持ちだからではなく、そうなった時の為に貯めていたお金や財を使う、交渉の余地を説明しています。つまり対価と言うものですね。対価を吊り上げられない為の交渉力も、交渉に必要な材料も揃えず、自分視点で出来る出来ないを並べるのは、自分勝手と言わざるを得ない。自分勝手な思想が平等である筈がありません。」
そう言う事ではないとアルゴスの口から説明される。
だが、そうだとすれば、今の段階では俺に手立てがないと言われているようなものだ。
「つまり、何も持ってない俺には、チャンスすら与えられないと言う事か。」
到底納得はできない。
「もう我慢ならないわ!」
またしても、俺と奴の会話に割って入る様に女神は唐突に告げる。
「そのチャンスを作ることも、貴方自身が負うべき責任よ。その責任を他者へ向けて言い逃ればかり。何でこういう不平不満を他者に向けるだけの人間て、自分がどうするかと言う思考にならないのかしら?自身が変わらなきゃ何にも変わりはしないのに。こんなのが生きている事を許してしまっている私が、罪深く思えてきたわ。」
怒りに任せて、女神は言い放っていた。
「アリソン様。今のこの者には、恐らく理解できないと思われます。」
またしても、アルゴスは女神をなだめる。
これはこれで腹立たしい構図だ。
「もういいと言ったでしょ。語る資質も無いくせに、私達に近付いた自身の愚かさを知るがいい。」
アルゴスの制止しを言葉で制して、女神は手の平を俺に向ける。
「さよなら、名も知らぬ少年。もう二度と会うことは無いと思うけど。」
その言葉を残して、俺の視界は白銀色の光に包まれていった――。
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