第11話無謀な配信者
今日は優子ちゃん達の配信が休みだとウェックスで事前告知があった。
なので今日は気兼ねなく自分の配信をやろうと思う。
「貴様ら、我が転移魔法を使えることは知っているだろう? 貴様らがいつも『魔法使えない定期』とか抜かすから、今日は魔法が使えない貴様らでも転移出来る方法を教えてやろう」
”マ?”
”今日こそ役に立つ情報が”
”魔法様、神”
”夢みたいな話”
”本当に期待していいんですか?”
「ああ、二度と『魔法使えない定期』などど抜かすなよ」
”言いません”
”約束します”
”神、いや魔王様に誓って”
「先ずは上層を適当にぶらぶら歩く。そうすると足元に魔方陣が出現する。転移トラップだ。次第に体が光に包まれるが、焦らずにその場で待つ。そうすると深層に勝手に転移する。どうだ、簡単だろう? 魔力も消費しないぞ」
深層に転移すると、数日来ていなかったからか、凶悪なモンスターが蠢いていた。
「
”確かに嘘はついてないけども”
”全く期待してませんでした”
”転移出来ても化け物に囲まれたら意味ない”
”凶悪なモンスター倒して掃除扱いしてるの草”
”何体いたんだ……一体でも上級パーティーが全滅するほどなのに……”
”魔王様以外だと自殺行為”
”結局モンスターは倒さないといけないのか”
”魔法使えない定期”
”帰りは?”
「いいことに気付いたな。帰りは深層をぶらぶら歩く。そうすると魔方陣が出現する。その光に包まれれば上層に戻れる確率はある。運が良ければな。さらなる深い階層に転移する可能性もあるが」
”言ってることやば”
”背筋に寒気走った”
”さらなる地獄”
”やばいこと言ってるの本人は気付いてないのか……”
「貴様ら、何が気に入らないのだ? この我が魔法が使えない場合の転移の仕方を教えてやったというのに」
”不満しかない”
”文句しかない”
”低評価押しました”
リスナーと馬鹿馬鹿しいやり取りを繰り広げるのが、俺のスタイルだ。
俺はこのやり方が人気を得る方法だと、配信をやっていくうちに気付き定着した。
本当に腹を立てているわけではない。
いつも見てくれているリスナーには感謝している。
剣持(魔王)が配信を行っている同じ時間。
中層を進む二人の人物がいた。
剣持(魔王)と天木(勇者)の同級生の琴宮天音と古城花凛だ。
「花凛、行くよ。もう直ぐ下層だ」
「待ってよ、天音。私もう魔力ないし、天音もないでしょ?」
琴宮は魔法使いで、古城は治癒術師だ。
ここまで琴宮の攻撃魔法でモンスターを倒し、古城が回復するという方法で進んできたが、二人とも魔力が尽きようとしていた。
無謀な方法で進もうとしている琴宮を古城は何度も止めたが、琴宮は聞き入れなかった。
古城は不本意だったが、琴宮が心配で見捨てることが出来なかった。
「剣持や天木だって出来てるんだ。あたしたちに出来ないわけないでしょ」
「剣持君や天木さんは特別だよ。戻ろうよ、天音」
琴宮は承認欲求に取り憑かれていた。
同級生の剣持や天木がダンジョン配信で有名になったのなら、自分たちも出来ると。
バズることだけ考えて、無謀な攻略を進めていた。
二人は下層までやって来た。
「本当にやばいって。戻ろうよ、天音」
「戻りたいなら、一人で戻って。あたしは一人でも行くよ」
「も~、何言ってるのよ。こんなところに一人置いていけるわけないじゃない……」
二人の目の前にミノタウロスが現れた。
牛の見た目をした凶悪なモンスターだ。
手には斧を持っている。
ミノタウロスは二人に近づいてくる。
琴宮は魔法を放とうとするが、既に魔力は尽きている。
「天音、帰ろうよ! 死んだらバズっても意味ないって!」
「くっ……」
琴宮は古城の言葉に渋々ながら納得しかけていた。
死んだ後にバズっても意味がない。
逃げ帰ろうとしたが、判断が遅かった。
今まで興奮状態でいたため、自分の疲労感に気づいていなかった。
配信初心者が、いきなり下層にくるほどの体力があるわけがない。
これまでは火事場の馬鹿力でやって来たが、ここに来て疲労感が膝にきた。
「あ……」
琴宮は地面にへたり込んだ。
そこにミノタウロスの斧が無情にも振り下ろされようとしていた。
「天音ー!」
古城は叫びをあげるが、助ける方法がない。
前衛職でない彼女には、倒して助けたり、代わりに受けて助けるという方法が取れない。
「
なすすべない状況かと思われたが、ミノタウロスの体は衝撃波であっけなく吹き飛ばされた。
「「!?」」
「こんなところで何をしている、貴様ら?」
そこに現れたのは魔王だった。
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