第10話式町先輩からの相談

 翌日の学校。

 俺は休憩時間に式町先輩から昨日の配信の感想を求められていた。


「剣持、私の昨日の配信はどうだった? 率直な感想が欲しい」


「本当に率直でいいんですか?」


「ああ、頼む」


「緊張しすぎでした」


「うぐっ……」


 率直な意見が欲しいと言われたから、それに従っただけだが、ダメージがでかすぎた様だ。

 率直な意見が欲しいと言われても、オブラートに包むことも時には必要だと学んだ。


「人からどう見られるより、式町先輩はどうだったんですか、初配信?」


「正直、怖くないと言えば嘘になる。命が懸かってるからな。私の命だけじゃない、二人の命もだ。それにアンチコメントも怖かった。私の発言、行動で辛辣なコメントがくる可能性があったからな」


「で、実際はどうだったんですか?」


「全くなかった。いや、全くというより私が目にした限りは。歓迎や応援のコメントばかりだった。心配しすぎだった。ありがたいことだ。それに、あの高揚感。誰かが私に注目しているというのも悪くないものだった」


「本当にそうですよ。不必要に心配し過ぎですよ。そうですね、あの熱狂は味わった者でないと分かりません。一度味わったらもうやめられません。ただし、興奮していると冷静さが失われて、致命的なミスに繋がります。上層なら大丈夫ですけど、これから、中層、下層と進んでいくでしょうから、冷静さは保って下さいね」


「アドバイスありがとう。確かにな。冷静さを欠くと思わぬ失態を引き起こしそうだ。事前に知れて助かった。お前はいつも深層で配信しているんだったな。心の底から尊敬するよ。知らないことばかりで勉強になる」


「やめてくださいよ、先輩から感謝されると照れくさいです。俺も先輩には感謝してるんですよ。優子ちゃ……じゃなかった、天木さんを守ってくれて」


「これは訊いて良いのか分からないんだが、お前と天木が付き合っているという噂を聞いたことがある。お前が天木のことを気にするのはそのためか?」


「あ~、情けない話ですが、フラれました。まあ、俺と天木さんじゃ釣り合いが取れてないですから」


「すまん。気まずいことを訊いたな。私は釣り合いが取れてないなんて思わないぞ。でも、そうなのか。もし良かったら私と……すまん、今のは忘れてくれ」


「いえ、全然釣り合い取れてないですって。学年一の美少女とクソ陰キャぼっちコミュ障オタク中二病じゃ釣り合いが取れるはずがないです」


 最後に式町先輩が小声でもごもご言っていたのは聞き取れなかった。

 まあ、大したことじゃないだろうから大丈夫だと思うけど。


「今日はありがとう、剣持」


「いえ、相談や質問があったらいつでも聞きますよ」






 休憩時間が終わる前に自分の席に戻ってきた。


「真央君、式町先輩の相談に乗ってたの?」


「ああ、聞かれてた?」


「ん~ん、二人が一緒にいるのが見えたからそうじゃないかなって。真央君、優しいから。そういうところも好……い、今のは聞かなかったことにして」


「?」


 式町先輩といい、優子ちゃんといい、何で最後にぼそぼそ言うんだろ。

 全然聞き取れない。


 俺が式町先輩の相談に乗っていたのは、式町先輩のためじゃない。

 優子ちゃんを守ってもらうためだ。


 そのためなら、どんなアドバイスでもする。


 言ってみれば、自分のためだ。

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