第5話勇者パーティー二回目配信

 今日は優子ちゃんと倉木さんの二回目の配信の日だ。


「皆さん、ご心配おかけして申し訳ございません。これから楽しい配信をお届けできるように頑張ります。よろしくお願いします。本日私たちの二回目の配信です」


「ご心配おかけして申し訳ありません」


 ”ええんやで”

 ”待ってましたー!”

 ”元気で良かった”

 ”無理しないで”

 ”二人のペースでね”

 ”初見です”

 ”こん勇者様~”

 ”こん賢者様~”


「皆さん温かいお言葉ありがとうございます」


「ありがとうございます」


 二人は撮影しているドローンに向かってお辞儀している。

 二人のチャンネルは登録者数が1000万人を超えて収益化しているが、まだ報酬が支払われていないので、カメラマンは雇っていない。


 ドローンは優子ちゃんが今までコツコツと貯めたお金で買ったみたいだ。


「今日は上層攻略をしていきたいと思います」


 上層にはスライムといった雑魚モンスターしか出現せず二人は危なげなく攻略出来ている。


 優子ちゃんは剣と火炎魔法、電撃魔法、治癒魔法が使える。

 倉木さんはほぼ全ての属性の魔法が使えるが、武器攻撃は得意ではないようだ。


 スライムがプルプル揺れているだけだ。

 それを二人の魔法で倒す。

 微笑ましい。


 そして肝心の転移トラップ対策だが。

 俺が二人の近くにいる。


 もし、二人が転移トラップに飲み込まれそうになったら、俺が魔方陣を改竄する。

 俺は普段深層でしか配信しないので、転移トラップがあったら魔力温存出来て、ラッキーとしか思わないが、二人はそうではないだろう。


 近くと言ってもそれなりに距離は離れており、付かず離れずといったかんじだ。

 そして二人に頼まれたわけでない。

 勝手にやっている。


 言ってみればストーカーだ。

 二人の楽しい配信を邪魔されるわけにはいかない。






 ただ二人の配信に勝手に付いて行っただけなのがばれたらまずいので、俺も配信を開始する。


「今日は上層で配信をする」


 ”珍しい”

 ”魔王様日和ってる?”

 ”もう深層に行きたくないとか?”


「ふざけるな! 今日はお前たちにありがたい魔王様の上層講義配信をやってやろう」


 ”おおおぉぉぉ!”

 ”ワイたちでもダンジョン攻略出来るように!”

 ”ありがたい”

 ”優しくお願いします”



「いいだろう。そこにスライムがいる。よく聞けよ。誰にでもできるやり方だ。これで無理だったらダンジョン攻略は諦めろ。先ずはスライムに手の平を向ける。そして闇魔法を放つ。魔炎ダークファイアこれで終わりだ。どうだ? 簡単だろう」


 俺の闇魔法でスライムは消し飛ぶ。


 ”魔法使えない定期”

 ”予想通り”

 ”全く期待していませんでした”

 ”オーバーキル”

 ”魔力の無駄使い”


「まあ、そんなに焦るな。ローマは一億年にしてならずだ。地道に努力していればお前らにも出来るさ」


 ”そんなに生きられない定期”

 ”気が長すぎて草”

 ”魔王様何年生きてる?”


 俺は自分の配信をしながら二人の動向にも目を光らせていた。

 リスナーといつも通りの馬鹿馬鹿しいやり取りをしながら、いつでも転移トラップが発生してもいいように準備していた。


 そして、イレギュラーが発生して上層では出現しないようなモンスターと遭遇しないかも目を光らせていた。





「皆さん、今日はありがとうございました。今日は何事もなく配信終われそうです。楽しんでいただけたでしょうか? またお会いしましょう。チャンネル登録と」


「高評価、ウェックスのフォローもお願いします。さようなら~」


 ”楽しかった~!”

 ”もう終わりかよ”

 ”時間経つの早過ぎ”

 ”無事終われてよかった

 ”おつ勇者様~””

 ”おつ賢者様~”


 無事二人の配信が終わって良かった。

 俺の方も終わろう。


「貴様ら、今日のところは終わりだ。どうだ? ためになっただろう? では、さらばだ」


 ”全然ためになりませんでした”

 ”相変わらず規格外”

 ”何一つ役に立たなそうで草”

 ”安定の面白さ”

 ”クセになるキャラ”

 ”おつ魔王様~”

 ”おつ魔王様~”





 二人は無事ダンジョンを出た。

 俺は相変わらず付かず離れずで二人を見守っていた。


 勝手に付いてきたことがバレるわけにはいかない。

 だが、優子ちゃんと目が合ってしまう。


 俺は急いで目を逸らした。

 察しの良い優子ちゃんのことだ。


 俺のやっていたことに気づいているだろう。

 でも、どうでもいいか。


 優子ちゃんが無事だったのなら。

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