第4話最強の魔王様、勇者の相談に乗る

「ただいま~」


「おかえり、お兄ちゃん」


 帰宅した俺を迎えてくれたのは義妹の花音だ。

 俺の父親と花音の母親が再婚して義理の兄妹になった。


 両親は仕事で海外に行っているから不在だ。


「凄かったね、お兄ちゃん」


「ん? 何が?」


 嫌な話題が出そうだ。

 恐らく今日のことだろう。


 俺はダンジョン外で魔王様扱いされるのは好きじゃない。

 もう各所でバレているが。


「彼女のピンチに颯爽と駆けつけるなんて、白馬の王子様みたいだね。あ……お兄ちゃんは魔王様だったか。うふふ」


「俺が魔王様だってのは言わないでくれって、毎回言ってるだろ。それに優子ちゃんとは別れたよ」


「え!? マジで?」


「マジ。別れたっていうかフラれた。完全に釣り合いが取れてなかったからいつかこうなるって思ってたけど」


「そうなんだ……釣り合いが取れてなかったなんて私は思ってないけどな……でも、お兄ちゃん、フリーになったんだ。嬉し―――って、聞かなかったことにして」


「?」


 花音、何が言いたかったんだろ……俺がフリーになったからってどうでもいいだろ。






「おはよう、優子ちゃん」


「おはよう、真央君。昨日はありがとうね」


「何のこと?」


 俺は学校で魔王様キャラ扱いされてもすっとぼけている。

 それに関しては元カノの優子ちゃんと言えども例外でない。


 仕事をプライベートに持ち込ませないためだ。

 学校生活がプライベートかどうかは甚だ怪しいが。


「ああ……そういうスタンスだったね……ごめん。忘れてた」


「いいよ」


 何も言わなくても分かってくれた。

 流石、優子ちゃん。


 俺がダンジョン配信を始めて身バレしてからは、同級生どころか学校中から珍しがられて、声を掛けてくる人が増えたが、俺は徹底的に他人のふりをした。


 魔王様でなく、剣持真央というクソぼっちということで強引に通した。

 ダンジョンと違ってノリの悪いキャラというのが浸透して飽きられてからは、声を掛けてくる人がいなくなった。





 休み時間。

 優子ちゃんの友達の倉木智美さんが来ていた。

 賢者の子だ。


「魔王様……だよね? 昨日はありがとう」


「何のこと?」


 ここでも俺はしらばっくれる。


「智美、ダメだって。剣持君は学校では魔王様扱いされたくないから」


 優子ちゃん、ナイスカバー。


「ごめんね。知らずに。でも、どうしてもお礼が言いたくて……」


「別に大丈夫だよ。俺は何もしてないし」


 何もしてないことはないけど、そっとしておいてほしい。





 下校時間。

 優子ちゃんから相談があるから一緒に帰ろうと言われた。


 俺はなんとなくそんな気はしていた。





 丁度帰り道の公園に人気が無かったのでここで話を聞くことにした。


「あのね……言い出しにくいんだけど」


「優子ちゃんの大丈夫なタイミングでいいよ」


「ダンジョンのことなんだけど……勘違いしないで、真央君のことじゃなくて、私のことなんだけど」


 その話題は来ると思っていた。

 これから優子ちゃんがどうするのか俺は気になっていた。


「真央君に迷惑掛けちゃったじゃない? だからもうダンジョンに潜るのはやめようって思ったのね。でも、期待してくれる人がいる。その人たちに楽しい配信をお届けしたいという気持ちがあってどうしたらいいのかって思って……」


 もう別れたから俺には言う権利はないと思う。

 本音はもうダンジョンに潜ってほしくない。

 大好きな優子ちゃんに危険な目に遭ってほしくないからだ。


 でも……


「優子ちゃんの気持ちを大事にした方がいいよ。後でやりたいことをやれなかったって後悔するよりも、やりたいことをやったほうがいい。やりたくないのならやらなかったらいい。俺的には優子ちゃんに危険な目に遭ってほしくない」


「そうか……そうだよね。私の夢は私のダンジョン配信を見てくれた人が元気になってくれることなんだよね。憧れたトップ配信者の皆さんのように。その中にはもちろん、真央君も入っているよ。私、決心ついた。頑張る。アドバイスありがとう。それに私のことを気遣ってくれて」


 これで良かったのか分からない。

 本心は絶対に止めて欲しいって言いたかった。





 それからも優子ちゃんの相談に乗っていた。


「どうすれば私、人気出るかな? 真央君みたいに独特な口調……って、ごめん」


「いいよ。俺がイロモノ扱いされてるのは知ってるし。優子ちゃんは、そのまま続けてれば人気出ると思うよ」


 俺はネットでイロモノ扱いされている。

 もっと言えばネットのおもちゃだ。


 ジョブ魔王を手に入れて浮かれていたせいか、変なキャラを演じてしまって元のキャラに戻すタイミングを失ってしまった。


 チャンネル登録者や、視聴同時接続数は高水準を維持しているから文句を言えないってのもある。

 花音を養わないといけないから。


「ありがとう。何から何まで相談に乗ってくれて」


「いいよ。じゃあ帰ろうか」


 SSRジョブを引くって嬉しいだけじゃなくて、大変なこともあるんだなと思った。

 あ……俺も改めて考えればSSRジョブだった。


 滅茶苦茶リスナーにいじられて大変だ。

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