本音と建て前はゴム一重
とりあえず、飲み会が終わった後に、今あったことを手毬に報告してみることにする。
『今からでも遅くない。別の就職先を探せ』
『なんでよ。というか正式にまだ内定貰ったわけじゃないんだけど』
肝心なところを省略したのに何を言っているのかわかっているというのが手毬のいいところだ。まあ言うまでもないことだが。
『というか、手毬は口約束といえどそうまで簡単に内々定貰えたのか疑問に思わなかったのか? 伊藤厨レベルの大企業に』
『え、就職活動ってそういうものじゃないの?』
『最近の学生は就職活動をなめているな。勇者が魔王をなめるのとはわけが違うんだぞ』
あえて百合先輩の存在を隠して聞いてみる。すると驚きの答えが!
『まあいちおうほかのところにも色いい返事はもらっているけど』
『マジか。どこだ?』
『
『……なんだと?』
おいおいおいそれは初耳だ。大和テレビとか港区女子だろうが池袋女子だろうが、種別問わずあこがれの就職先じゃないのか。
まさかそこまで手毬が高スペックだったとは……
……いや、まあたしかに、手毬って客観的に見ると高スペック女子だよな。一浪しているとはいえTH大、見た目もじゅうぶん売りにできるレベルに整ってるし、スタイルもそれなり、そして泣きぼくろもエロい。
いまさらながら、なんで俺と手毬が友人関係やれてるのか疑問符の三段重ねでしかないことを思い知る。夏の扉を開けて秘密の花園で昇天したのちに天国のキッスを交わした仲でもないというのに。
……いやまあ幼なじみが芸能界デビューした(元)セフレ、ってほうもすごいんだけど、あっちはまだ売れてないし。
『どうかしたの?』
『いや、ふつーはその二択なら大和テレビ選ぶんじゃないのか?』
『そうでもないと思うよ、条件は伊藤厨のほうがいいし。何より休日が多いから』
『休日とかうんぬんよりやりがいとかで選べよ』
『あたしは都会をエンジョイしたいの。それに優弥が同じ会社にいれば、働くにあたっていろいろアドバイスしてもらえるだろうし、都会生活をじっくり味わう余裕ができそうでしょ?』
『俺は地元に戻るんだっつーの。あてにすんなよ』
『冷たいこと言わないでよ、せーんぱい♪』
俺に寄生するつもり満々じゃねーか。というか職場が違えばそんなの意味ないし、だいいち配属先が違うときは職場の常識も当然ながら違うわけで。
…………
仕事辞めてもいいかな?
という、俺の思いか中の人の本心かわからない弱音は、メッセージにせずに飲み込んでおこう。
―・―・―・―・―・―・―
そんなこんなで四か月ほど研修を行った。
おかしいな、研修って三か月程度の予定だったんだけど、なんで一か月伸びたんだろう。
…………
ああそっか、吉崎パイセンがいろいろやらかしてくれたおかげだ。あんなやらかし社員を新人研修トレーナーにあてるあたり、この会社大丈夫なのかと思わないでもない。研修してる側でフォローする羽目になるとは思わなかったぞ。
よくあれでこの会社いられるな。クビという介錯されてもおかしくないもの。
だがまあ、そんな気苦労も今日で終わりだ、辞令が出るからな! クソな先輩と別れて、やっとこれで我が地元へと戻れるわい。
さーて、配属先は……
『中西優弥 本社総務企画部』
……は?
なんで? 俺、仙台営業所を希望してたよね? ナンデ、ホンシャナンデ?
まだなんにもまともに仕事してないけど、やっぱりこれ辞めてもいいってフラグなの?
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