GET GOING
ちなみに。
真尋はスカウトされたそのあとすぐに上京して、レッスンなどに精を出す日々らしい。
大学は休学するのかどうかは知らないが、実際連絡などは一切来なくなった。忙しいのか、それとも毎日が充実していて俺のことなど吹っ飛んでしまったか。
ライソも結局ぶちぎれたままなので、俺から真尋へ連絡するにも千尋さん経由しないとほぼ不可能である。
もうこれ、ほぼセフレとしての関係切れたも同然だろ。いやセフレとか言えるような仲でもなかったけど。
あれほどどうしようとか思っていたのに、いざこうなると失ってわかる、みたいな。わりと欲望まみれの残念な気持ちだ。
今なら、元カノに『久しぶりに会わないか?』などと下半身の欲望駄々洩れのロミオメール送る男の気持ちがよくわかる。
「……で、手毬のほうにも連絡はないのか?」
「う、うん。ライソは一応送ってみたけど、最近のは既読にすらなってないよ」
「……」
「おそらく一番近くにいた優弥にすら連絡ないんだもんね、慣れないレッスンとかでいっぱいいっぱいなのかもしれないけど」
「……まあ、そやろな」
大学二年の冬。
俺と手毬、現実劇場急展開にいまいちついていけない者同士、冬のスマタバックスコーヒーで会話をしている日常のひとコマ。
他に事件がなにかあるわけでもないので、話題など限られている。
千尋さん曰く、『真尋には就職活動みたいなものだと思って頑張らせてる』だとか。いや確かにね、俺ももうすぐそれを始めなければならないからさ、わからんでもないんだけど生きる世界が違いすぎるわ。
「……どうする? 真尋が芸能界デビューして、人気者になったりしたら」
何かをうかがうような、勘ぐるような手毬の問いかけである。無視してもいいんだが、手毬相手に余計な気を遣う必要などあるまい。
「そうなれば、俺は売れっ子芸能人をセフレに持つ、ひとつ上の男ってことになるのかな」
「ヤるどころか、連絡すらつかないってのに?」
「その言い方下品だな手毬よ。所詮おまえもむっつりスケベか」
「そのことばそっくりそのまま返してあげるわ」
「そうだな、初戦すらしてないわけで、俺も」
「ばかじゃないの?」
「汗だくつゆだく白濁の日々はいずこよ!」
「サイッテー。アンタはいっぺん去勢されてきなさいよ」
「二回も三回も去勢されてたまるか、いっぺんでも十分すぎるわ」
「……はぁ」
呆れたように手毬がため息をつくが、まあ半分本音半分強がりではある。
結果、性欲に負けなかったということが収穫、ということでこの話題は強制シャットダウンしとこう。
―・―・―・―・―・―・―
そうしてスマタバックスを出て駅へと向かう途中で、ふと思い出した疑問を手毬に訊いてみた。
「そういえばさ、橋爪って今、何やってるかわかる?」
「……え? 高校途中で試される大地に強制収容されたあの?」
「そそ、そいつ」
「……さあね。家が近かったはずだから、マミちならなにか知ってるかもしれないけど。どうしたの急に」
「いや、まあなんとなく思い出しただけ」
「……ああ。なるほど」
手毬は、俺が何を言いたいのか察したのだろうか。それ以上ツッコんでは来なかった。ま、わざわざあの女に聞くほど重要なことでもないし、いっか。
過去は、過去だ。
―・―・―・―・―・―・―
そのあと。
真尋は俺が就職内定を決めた大学三年の秋に、芸能界デビューした。
その間、まともな連絡なしだぜ? 信じられるか?
ま、いーけどさ。内定もらったことは手毬が祝ってくれたし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます