赤茶色のプレッピー
手毬に会うのが久しぶりすぎて、緊張してんのかもしれん、俺様ったら。
まあ、今日の手毬はプレッピースタイルで、高校時代に戻ったような錯覚すらあるけど。
そんな気持ちをごまかすように、軽口が出てくる。
「許されると思うなよ、既読スルー罪は現行犯逮捕もできる重罪だ」
「世の中がSNSに支配されたかのような罪を勝手に作らないでよ。あたし以外にもメッセージ送る相手、いるでしょ?」
「ばかいうな。俺がそんなに友人が多いと思っているのか? 登録されているのは手毬だけだ、ゆえにライソアプリは手毬専用ツールと化している」
「え……真尋は? 紗羅は?」
「真尋にはヒョロガリ扱いされた時に切ったし、苗木さんはフラれた時に切った。二人とはそれ以来ライソの取りなどしたためしはない。真尋は直接押しかけてくる始末だしな。だから手毬のせいで俺のスマホのストレージが0.5ギガほど容量食われてるんだぞ、既読スルーした罪を少しは自覚しろ」
しかし、そんなどうでもいい内容のお軽い会話とは裏腹に、手毬はやや深刻そうな顔を崩さなかった。
しょうがない、罪を相殺しておこう。
「そう、なんだ……ほんとごめんって。でも……」
「……だがまあいい。俺にも罪はあったから、それで相殺ということにしておく」
「えっ?」
「手毬の不同意裸体鑑賞罪、だな」
「~~~~っっっっ!!」
だが、その提案はどうやら手毬の忘れたい過去に触れてしまったようだった。
いきなり顔を真っ赤にしたと思ったらすぐに肩を怒らせた手毬は。
「それは忘れろ、このデリカシー皆無オトコ!!」
ばしん!!
「ぷぎぃ!!」
強烈な平手で俺の左の頬をたたいてきた。
あの時のケリくらい強烈だぜ、思わずブタのような声が出ちまうあたり。
―・―・―・―・―・―・―
俺の提案にへそを曲げた手毬だったが。
ご機嫌取りで『事後の紅茶 マンゴーミルクティー』を自販機から買ってきて献上すると、あっさりと怒りを取り下げてくれた。
ちょろい。
さて、では機嫌取りも終えたところでさっそく本題に入ろう。
「というか、真尋はわざわざ
「そうだよ、興奮冷めやらぬって感じだった」
「ベッドの外でも興奮状態かよ……」
「まあ、真尋はもう、半分あきらめてたからね」
「なにをだ?」
「優弥と、恋人同士になるっていうことを」
と思ったら、いきなりとんでもない未確認情報が出てきたぞ。なんだそれ。
「……ちょっと整理がつかないんだけど。付き合うも何も、俺はもうすでにフラれ……」
「あーハイハイそういうこといいから。気づいてるんでしょ、真尋が努力してたこと」
「……」
「あれは優弥に釣り合えるように、胸を張って対等でいられるように、っていうための努力なんだからさ。必死だった真尋のそこだけは認めてあげてよ」
「……ああ」
最後だけやや淋しそうに、手毬は言った。これは茶化したらダメなやつだわ。
「でもね、もう遅い、っていうの? 結局、真尋も高校時代のことは自業自得だったってのは分かってるみたい。だから優弥に対しても、ただがんばっただけで終わりそうになった」
「……」
「そして優弥の周りにいろいろ焦る要素も出てきた一方、肝心の優弥には、真尋に対してそんなそぶりはいっこうになさげ。現状打破するにはどうしたらいいのか、って何度も相談されたわ」
「おおう……知らないところで迷惑かけてたんだな、すまん」
その場の空気に飲まれてつい謝罪しちまう俺。そして真尋は真尋なりに自分を後悔していることもある程度感づいていたから、それはいいとして。
「いや、そういうわけでもないんだけど……だから現状打破のきっかけができたことが素直にうれしいんだと思うよ、真尋は。親にも世間様にも堂々とできないような関係を赤裸々に周りに自慢しちゃうくらいには」
「……」
「でも、どういういきさつでそうなったのか、ぜひお尋ねしたいところだわ」
この時手毬が見せた『ちゃんと話すまで解放しない』という意志のこもった瞳は俺よりはるかにつよつよだった。
……ま、隠すようなことでもないか、手毬相手なら。
―・―・―・―・―・―・―
「……サイッテー」
しょうがないのであらすじを手毬に伝えたが、案の定ジト目をいただいた。
「実際俺も戸惑ってんだよなあ、想定外すぎて。まさかあんな提案が二つ返事で受け入れられるとは思わないだろ」
「はぁ……あんた、本当にどうでもいい部分は信じられないくらい大雑把よね」
「否定できない」
手毬がため息を付いて俺を非難する。というか俺は俺の常識に従っているだけなんだが。
周りがおかしいやつだらけなんじゃないかとも思う。
「まあでも……ややこしくなる前にさっさとそんな関係解消すべきじゃないの?」
「うむ、どのみち破綻するのは目に見えてるから時間の問題でしかないとはいえ、たしかに俺の倫理観にはそぐわんな」
「そうかな?」
「所詮セフレなど、相互恋愛感情のない関係。行為のみで遊ぶ友達など、すぐ飽きるだろたぶん」
「まあそうなるよねえ……行為に飽きたとしても、愛がないのに一緒にいてそれ以上に楽しいことなんてないし」
オカンの受け売りを垂れ流してみたら、手毬が同意してくれた。世間においての真理であることは間違いなさそう。
そして、手毬との会話はやはり心地良い。こいつとなら一日中でもくだらない話を続けられる無駄な地震がある。グラグラグラ。いや揺れてんじゃん、自信ないじゃん。
「……うーん」
「なに? どしたの?」
「いや、真尋じゃなくて手毬がセフレだったら関係は早々破綻しないかもしれないな、とかふと思った」
「は、はあ!?」
「手毬との会話は拍車のかかるそれだからな。もしもの話だが、手毬との行為に飽きたとしても、くだらない話だけでそれ以上に楽しめることうけあい。だから、行為をしなくなっても関係は続くように思う」
思いついた本音を素直に漏らしてしまうのも、俺が手毬との会話を楽しいと思っているからだろう。
だがそういわれた手毬は、身体をわなわなと震わせながら。
「……あたしとの行為は、会話以下ってわけぇぇぇぇ!?」
バキッ!!
「ぐえっ!?」
今度は握りこぶしで俺を殴りに来た。ほめたのに。
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