Self-contentって自慰って意味もあるんじゃね?
「……帰る。もうお酒なんて二度と飲まない……紗羅によろしく言っといて……」
俺が何があったのか思い出そうと必死になっているうちに、ふいに何かに打ちひしがれた手毬がフラッと立ち上がり、おぼつかない足取りのまま部屋を出ようとしている。
「大丈夫か一人で帰れるか? なんなら送っていっても……」
「優弥に送られると精神的ダメージがさらに蓄積しそうだから遠慮しとくわ……」
「……あ、そう」
俺の気遣いは無下にされた。かなしい。
ま、俺も連絡せず外泊という状況になってしまったから、これ以上オカンの怒りに火を注ぐ前に帰宅したいとこだが、苗木さんが現れる前にトンズラするのもちょっと気が引ける。
バタン、と玄関のドアが閉まる音を聞いて、俺は残された真尋に話を聞くことを選択した。
「手毬、大丈夫かな……」
「まあ二日酔いはあるだろうが、一応意識ははっきりしてるみたいだし何とかなるだろ。手毬のことはいったん置いておくとして、とりあえず昨日のことを詳しく教えてくれ。マジで記憶がおぼろげすぎて何が何だか」
「……本当に覚えてないんだ」
「だから言ってるだろうが」
「うん……え、えーとね、まずは優弥に無理やり酒を飲ませてきた人たちを、お酒の瓶を使って全員成敗して……」
「成敗……?」
なんか記憶に少し残ってるけど、超物騒な単語出てきた。
「そうだよ。死人は出てないと思うけど」
「思うけど、かい!」
「危険なところは攻撃してなかったから。でもそれで騒ぎになって『あの暴れん坊将軍をなんとかしろ!!』って男子みんなで優弥を取り押さえてた」
「俺は徳田新之助かよ。それをいうなら、あの場にいたヤリサー野郎どもは全員暴れん棒っていうユニークスキル持ちじゃねえか」
「で、取り押さえられたあとに、吉崎先輩が『暴れるなんてとんでもないわ。ここは酒宴の場、戦うなら飲み比べでよ。暴れるのはベッドの上だけでいいでしょう』って優弥に言ってきて……」
「え?」
「だけど、吉崎先輩が優弥のお酒にクスリを仕込んでいたことを苗木さんに指摘されて、唐突に始まった飲み比べは先輩の反則負け。罰を与える、なんて宣言されて先輩は優弥が成敗した男子たちに連れていかれたわ」
「おうふ」
なるほど、アルコール経験値のない俺がどうやって吉崎さんに飲み比べで勝てたのか不思議だったが、そういうからくりがあったのか。
しかし罰ってナニされたんだろう、吉崎さん。
となると、真尋にちょっかい出してた男たちはホワイトチョコレートファックトリーっていうことね。精子生産工場。結局やつらはヤレれば誰でもよかったんじゃねえの?
「それでハチャメチャになっちゃって、わたしたちも帰ろうって話になったんだけど、手毬が飲みすぎて吐いちゃってね。介抱してたわたしたちの服にもかかっちゃったから、紗羅ちゃんの家にお邪魔して洗ってもらったまではいいんだけど……」
「は、それで手毬と真尋が服を着てなかったわけか。しかし、そのあと吉崎さんがなぜか苗木さんの家まで押しかけてきた、ということ?」
「うん。吉崎先輩と、優弥にむりやり酒を飲ませてしばかれた男子が」
なんで苗木さんの個人情報が駄々洩れになってるのかは知らん。あとをつけてきたやつがいるのだろうか。もしそうだとすれば質の悪いヤリサー以外の何物でもない。
「そこでもひと悶着?」
「……本当に覚えてない?」
「悪い」
「……そっか。ええ、と……吉崎先輩とその男子がね、いきなり懇願してきたの」
「は?」
「酒に酔った勢いなんだと思うけど、『忘れられない思い出をください』とか、『彼氏になれないならセフレでもいいから』とか……」
「……なんだと?」
一瞬頭がフットーしそうになったが、まだ結合はしてない、落ちつケ俺。
というか真尋をつけ狙ってた男子の豹変ぶりに、思わずもっこりするくらい違和感ビンビンである。あれほど真尋を穢れを知らない女神様扱いしてたくせに、そんな女性がセフレとかになろうと言われてホイホイ了承するわけなかろうが。
…………
いや、誰かから聞いた可能性もあるな。真尋が実は高校時代それなりにビッチだったということを。
今の真尋はだいぶ落ち着いているが、また逆戻りとかは
「あ、あの、『あなたとセフレになるくらいなら、優弥と……』ってちゃんと断っ……」
「いいか真尋、彼氏とか作るのは止めないが、セフレだけはやめとけ! メリットなど快楽くらいしかない。快楽堕ちして他に何もいらないというならともかく、他の幸せをすべて放棄してしまいかねないぞ。セフレなんて定義は男にとって都合がいいだけだ、真実の愛ってものを追い求める気持ちが真尋の中に残っているのであれば、絶対早まるなよ! いいな!?」
「あ、う、うん……」
がしっと両肩をつかんで発した俺の力のこもった弁につられたか、真尋がなぜか慌てたようにコクコクとうなずく。
「……熱く語ってしまいすまない。で、その件はどうお引き取り願ったんだ?」
「あ、さすがに押しかけられて無茶振りしてきたうえに、手毬を無理やり手籠めにしようとした先輩たちに紗羅ちゃんがキレちゃって、お父さんを召喚したの」
「……あー、なるほど。そのせいで苗木さんがいないわけか」
「うん」
いちおう手毬の百合処女も守られたらしい。
それにしても苗木さんのお父さん砲か、また強烈な。吉崎さんもいままでは調教するほうだったろうに、逆に調教されたらどーすんだべ。まあもちろん性的な意味ではなく、物理的なそれだとしてもね。
「とにかく大事にならなかったなら、それでい……」
「……優弥は」
「ん?」
「セフレとか、作る気はないの?」
とんでを九回、まわって三回くりかえすレベルで話題が飛んだ。
「はぁ? 何言ってんだ、彼女すらできたことないのに、すっ飛ばしてセフレとか作れるわけないだろ?」
「じゃ、じゃあ、セフレになりたいって優弥に迫ってくる女の子がいたとしたらどうする?」
「そんな都合のいいことはありえないだろうが……ま、断る一択しかないな」
「……なんで? 男の人にとって都合のいい存在なんでしょう?」
「快楽だけで済めばな。そういう行為である以上、どうしても妊娠というリスクがついて回るだろ? ピルだって体質に合わないと具合悪くなるらしいし、避妊するにしても100%成功するわけじゃないからな」
「……」
「最悪、快楽にかまけて避妊失敗したらどうする? 堕胎するにしても倫理的にも金銭的にもいろいろ問題があるし、万が一の場合責任取る、なんて言うほど腹をくくってないから彼氏彼女じゃなくてセフレ止まりの関係なんだろ? 逃げないで責任取らざるをえなかったとしても、覚悟を決めて結婚したわけじゃないからどうせその後うまくいくわけがない。自分の人生履歴書に不要なバツを増やすだけならまだましで、こじれたらどう転んでも命を失う危険性が高まるだけだ」
「……」
「セックスってのは本能で、愛ってのは覚悟だと思ってる。だからこそ、社会って枠組みのなかで生きていく人間であるならば、覚悟を伴う愛ってもんをないがしろにしてまでむやみやたらとセックスするべきじゃない、と考えちまうんだよ、俺はな」
「そ、そう、なんだ……」
熱弁しながら思い出したが、さっきは本当に怖かったぞ。人生の墓場ってこういうことなんだと思った。
もしも手毬とか真尋とかを妊娠させてたら責任取らなきゃならん、という思いが脳裏をかすめて、ここまで必死に頑張ってきた人生設計すべてが崩れ落ちる気がしてな。やっぱりそういうことは責任とれるくらい覚悟の据わった好きな相手としかするべきでないと改めて思う。ただの自己満足でしかなくても、だ。
ま、夜のお店はお金という責任を代わりに支払っているので、それは発射除外しとこう。
「話が飛んだな、こんな事熱く語っても仕方がない。ということは、俺は手毬や真尋にいかがわしい行為をしていない、ということでいいんだな?」
「……」
おい真尋、俺が一番聞きたかった質問になんで黙秘権行使した。おまけになんか目が死んでるし。
…………
気づいた。今までの話を聞くに、真尋がすっぽんぽんになる必然、ないよな……?
あれ? 俺なんかやっちゃいました?
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