白いブツ確認失敗

 とりあえず昨日の記憶をサルベージしないことには話にならん。

 えーと、真尋に劣情を催していたやつらから無理やり酒を飲まされて……気分がよくなったのか悪くなったのかわからんがそれでのーみそが麻痺して……


 麻痺して……


 なんだろう、すっぽりと自我というものが抜けているなにこれこわい。

 客観的なメモリーでは……


 ・そのあと難癖をつけてきたやつらをなぎ倒したりして出禁を食らった。

 ・手毬をお持ち帰りしようとしていた吉崎さんに飲み比べを挑まれ、勝利した。

 ・真尋狙いで荒ぶっていた男どもが、真尋をあきらめた代わりに酔いつぶれた吉崎さんに狙いを定めたおかげで、壊した備品の弁償の件がうやむやになった。

 ・苗木さんに誘導されながら帰宅しようとしていた。


 ……みたいな映像がモザイクかかった感じで残ってはいるんだが。


 あらためて部屋の中を見渡すと、ここ、たぶん苗木さんのアパートだ、と勘付く。


 まずはラブホでなかったことに安堵。

 というか、いくら意識がないとはいえ、酔っていたとはいえ、手毬と真尋が俺と一緒にラブホへ入ることに同意するわけがない。


 しかし肝心の主、苗木さんがいないのはなんでだろう。


 …………


 いや待てそれよりも大事なことがある。

 俺と手毬、そして真尋のこの状態は事後なのかそうでないのか、だ。


 もしも事後だったら、脳みそから記憶がすっぽり抜け落ちていることを嘆きたいところだが、そもそも行為に至ったのか記憶含め確認がとれたもんではない。

 ワイのアレは先走ってるだけだしなあ。


 …………


 ひらめいた。

 もしも事後であれば、少なくとも用意してなかったわけだし、間違いなくゴム製品の装着などしていないはず。いや病気とか望まぬ妊娠とかそういう観点からしてみれば大問題なことは間違いないにしても、だ。

 ということは、もしも致していたのなら、どこかに俺の白い分身が飛び散っているよな。最悪妊娠する可能性すらある。


 ちょっとゾッとした。が、この際それを確認せねばなるまい、自分の目で。


 …………


 いや待て確認? そんなのすぐわかんだろ。

 見た感じではそのあたりに飛び散ってないぞ。となると、ひょっとしてもしかしてまさか女体の最奥へと三億の分身が……?


 ええ、俺この年齢でパパになっちゃうの?

 待って待って待って、彼女もまともにできてないうちに一夜の過ちでパパになって人生の墓場へレッツゴー三匹確定?


『パパでーす』

『ママでーす』

『みなみはるおでございます』


 お子様は神様ですよなあ……などと脳内に走馬灯が走りかけたのを無理やり打ち消す。この部屋が共同墓地カタコンベのように思えてゾッとするわ。

 自分がそんなふうにゴムなしでゴムたいなことをする非常識男だと思いたくない。早くご無罪を確認して安心したい。やはり視認だ視認。


 ……が、ここでもう一つの難題が持ち上がる。


 俺は手毬と真尋、どっちといたしてしまったのか。まさかいきなりどちらともということはないだろうが、いやでももうここまで来たらなんでもありのように思えて、酒の力でいきなりさんぴー体操とかしちゃっててててるパターンかも。


 勘弁してくれ、夢はかなわないから夢なのだ。もし最初からさんぴーとか体験しちゃったらきょにゅーが二人いないと勃たないようになるとか、性癖が間違いなく歪むに決まっている。性格と性癖はこの年齢になったら矯正不可に決まってんだよこんちくしょう。


 これはまずいですよ~!

 俺の幸せな性ライフが挿れるも地獄、引くも地獄になっちゃう!

 せめて前門のヴァ〇ナ、後門のア〇ルくらいにしといて!!


 これ以上なく狼狽した俺は、秒でガバッと起き上がり、寝ているこいつらの『大きな森の小さなお家』を直視確認するためベッドから降りた。まずはそういうふいんきになった可能性が高い手毬のほうをチョイス。


「……ん、んん?」


 しかし、かかっているタオルケットらしき邪魔な布を引っぺがしたところで、手毬が目を覚ましやがった。神はいないのか、それともいるから手毬が目を覚ましたのか。


「……」


「……」


 多分後者だわこれ。懺悔のために教会行かなきゃならんかもしれん。


「……」


「……あ、手毬、二日酔いは平気か?」


 手毬と目が合った。凍り付く。

 この位置取りもまずいですよ~! 俺が無理やり手毬を手籠めにしようとしてるようにしか見えない。


「……あ、あ、あんた……なにやってんのよぉぉぉ!!!」


 ドカッ。


「ぐはっ!!」


 思い切り手毬に顔をけられ、俺は後方へと吹っ飛んだ。

 いくら女の力でも、ケリには勝てないわ。元ヒョロガリなめんな。



 ―・―・―・―・―・―・―



「見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた優弥に見られたぁぁぁぁ……」


 ゲロまみれになった服を脱いで洗ったためにマッパだったらしい手毬が、生乾きの服を着た後、部屋の隅に体育座りしながら恥辱に耐えておる。酔っぱらって失禁したからぱんつまで洗ったのかな、と疑問も浮かんだがプライバシーのためにだまっとこ。


 それにしても、生乾きの服はもちろんだが、ぱんつの生乾きもこれ以上なく気持ち悪いだろうな。その証拠に手毬の顔色が昨日より悪い、真っ赤なのに真っ青だ。苗木さんの下着を借りればよかったのに、こだわりあんのかね。

 あとスカートで体育座りしたら丸見えだぞ、なにがとは言わんけど。


 結局、けられたときの衝撃ですぐに真尋も目を覚まし、あわてて二人とも服を着てしまったおかげで、天国みたいなシチュエーションは唐突に終わりを告げた。

 こんなことならもう少し堪能しておくべきだったかもしれない。ゲスでも構わん。なんせ昨日いい思いした記憶が全くないんだからな!!


 …………


「ところで、きのうのことなんだが……なにもなかった、よな? な?」


「えっ」


 まずこれだけは聞かねばなるまいと、いきなり核心に切り込んでみたら、真尋がすっとんきょうな声をあげた。


「優弥、覚えて……ないの?」


「覚えてたらこんなこと聞かない」


「えっ……ええっ?」


 手毬とはなにもなかったことはほぼ確定だと思いたい。さっきの反応からして。


 しかし、真尋が呆れたように、昨日の事件をゲロし始めた。


「吉崎先輩が押しかけてきて、ひと悶着あったことも……?」


「……はい?」


 記憶にございません、なんていったら怒られそうな気がする。

 まさか苗木さんの姿が見えないのは、ひょっとして吉崎さんの相手をしてくれたからだったりして……?




────────────────────



長くなったので分けます。続きは明日にでも。

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