多分、アレとは無関係です

 火のないところに煙は立たないし、非のないサークルならチソコは勃たない。

 ヤリサーとの噂が立つ時点でどうなんだろう、と思い、さっそく昼休みに手毬を呼び出した。


「……えー? そんな話初耳なんだけど」


 のんきな手毬は、呼び出された大学構内にある喫茶店で、目の前のアイスティーにさしてあるストローを回しながら他人事のようにそういう。


「そりゃそんな噂は外に漏れないようにするだろうし、外に漏れてたら妊娠どころか社会問題になってるだろうが」


「その社会問題になりそうなことを、なんでサークルに所属してない優弥が知ってるわけ?」


「貴重なタンパク源、いや情報源が同じ学部にいるからな」


「なにそれ。その人の情報、信用できるの?」


「そのあたりはぬめりもぬかりもない。なんせその情報提供者は、例の苗木さんの件で西田がいろいろやらかしちゃってることを俺よりも早くつかんでいたくらいだぞ」


「ふーん……」


 こちとらわりと真面目に話してるっつーのに、いぶかしむような感じは手毬から消えない。それだけサークルという場所が居心地良いのだろうか。


「……サークル、楽しいのか?」


「うん、すごく。なんていうかね、目標とかが明確じゃないけど、みんなで集まってワイワイやるのってこんなに楽しいんだな、って」


「……」


 なんか疎外感だ。


「それに、みんな優しいしね」


「それは主に男子が、だろ」


「まあ、それはそう」


「下心丸出し、ってか」


「いやいやいやそんなことないでしょ。でもなんというか、ちやほやとお姫様みたいな扱いしてこられると、なんか気分いいかなーって」


「……おまえはホストクラブには通うんじゃないぞ」


 はぁ、女性ってのはなんだかんだ言って大事に扱われたい願望があるんだな。そりゃホストクラブが大人気になるわけだ……などと考えていると、一人の女性が俺たちが座っている席の前で立ち止まる。


「あれ、手毬ちゃんじゃない?」


「あ、吉崎先輩、こんにちは!」


「……ひょっとして、手毬ちゃんの彼氏?」


「ちがいますよぉ! 高校の同級生です! あ、こちら、サークルの先輩で吉崎美絵よしざきみえさん。文学部の三年生」


 なんとなく値踏みするような視線を投げてくる先輩を、名前付きで手毬が紹介してくる。一つ上とは思えないくらいの色気を持ったクレオパトラみたいな外見だ。こりゃモテるだろうな。


 が、ジロジロとみられるのは不愉快だ。


「どうも、手毬のの中西優弥です。ただのキモオタですので手毬の彼氏とかにはなりえません。だからなめまわすように見るのは遠慮願いたいのですが」


「あ、ああ、ごめんなさいね。私に似てなんとなく幸薄そうに思えたから、ちょっと気になって……でも、キモオタは自虐過ぎない? とてもそうは見えないんだけど」


 この先輩のせりふ、後半部分はおべっかレベッカフレンズへの気遣いとして。

 私に似て幸薄そう、ってどういうこと? この人くらいの美貌があれば人生イージーモードにも思えるのだが。薄いのはゴム製品だけでええやろ。


「あ、こう見えて吉崎先輩って苦労人なんだよ」


「ふふ……単に二浪してる、ってだけですけどね」


「そうでしたか。でもそうまでしてこの大学に来るっていう意志を貫いたのは素晴らしいことだと思いますけど」


「あら、ありがとうございます。でも、そんな大したことじゃないんですよ。私、東京生まれなんですけど、地元で身内あねがやらかしてくれちゃったせいで都落ちしただけですから」


「はあ……そうですか」


 真意が読めない微笑みを浮かべつつ、俺のお世辞を軽く受け流す吉崎先輩であった。


 が、この人はネタで言ってるんだろうけど、この大学に進学したのを『都落ち』とか言われるとムカッと来るな。いちおう旧帝大やぞ。

 というか姉がやらかした、って何をだろう。気にならないと言えばうそになるが、明らかにツッコミ待ちっぽい言い方だったので、ここはあえてスルーしておくことにする。


 ま、俺より三つほど上なら、このくらい色気を振りまいてもおかしくない……ないよな? 偏見で申し訳ないがすごく床上手そうだし、経験人数も両手両足五人分くらいあってもおかしくないほどの色気である。

 エロ行為ってやっぱり女性ホルモンとかドパドパ出るんだね、知らんけど。


「……っと、ちょっと今日はT女子大まで出張らなきゃならないんだったわ。じゃあね手毬ちゃんとお友達さん」


「あ、はい」


「……どうも」


 はっはっは、結局あの先輩にしてみれば俺はモブ扱いのようだな。自己紹介する意味もなかったわ。


 …………


 あ、今聞けばよかったな。『あなたと手毬が所属するサークルがヤリサーだって噂が立ってるんですけど事実ですか?』って。

 さすがにすぐさま肯定はせんだろうが、噂を否定するにしてもその態度とか様々なところで判断はできそうだったのに。


「……ところで手毬、やっぱり飲み会には参加するのか?」


「あー、まあ、噂を耳にして忠告してくれるのはありがたいけどさ。あたしと真尋が直接指名で開催するわけだしね……断りづらいっていうのはあるかも。それに、今のところ下心満載の怪しさは感じないし」


「……」


「大丈夫だって、そんな心配しなくても! もし優弥の言うことが真実だったとして、あたしがそんな罠におめおめと引っかかると思う? 真尋みたいな美人ならまだしも」


「おめおめだろうがまたシモだろうが、自分自身でフラグ立ててるのに気づけ。とにかく節度は守れよ。あと青い酒が出てきたら絶対に飲むな」


「へっ? 青いお酒ってあるじゃない。ブルーハワイみたいな」


「それがただのブルーハワイなら何の問題もないんだがな。というか青色ってのは危険色なんだぞ。飲んだらヤバい液体は基本的に青色に着色されてる、ってことだけは覚えとくべきだ」


「はいはい。今度から優弥せんぱいじゃなくて、優弥ママって呼んだほうがいい?」


「おまえなあ!!」


 クッソ、手毬のやつ、喪女レベルで本当に危機感がねえ。

 まあ確かにあこがれもあるだろう、成人して飲み会に参加する、ってのはさ。だがな、俺の中では手毬の判断より哘の情報のほうがはるかに信頼できるんだよ。

 これが杞憂ならいいんだがな。


 仕方ない。真尋のほうにも確認してみる、か?




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いや真面目に更新遅れてすみません

中途半端ですがある分だけ更新します

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