読者様の予想を裏切らない展開

 というわけで手毬に付き合わされサークルを見て回っていたのだが、どうやら手毬は入るサークルを決めたようである。


「……『くたびれもうけ』? なんだそのサークル」


「ん、いろんなスポーツを楽しむサークルみたいよ。他の大学とも交流してて、T女子大にも支部みたいなものがあるって」


「T女子大……?」


「うん、真尋がね、T女子大でこのサークルに所属してるんだって。所属してる人数も多いしわりと気安いところもあって楽しいって聞いてたから、あたしも入ろうと思うんだ。優弥も一緒においでよ」


 いや大学が違うのに何で真尋も一緒に活動しなきゃならんのよ。

 というか総合スポーツサークルってなんだ。俺は少林寺拳法くらいしか経験ないから入っても楽しめなさそう。

 というわけで拒否一択。


「とりあえずやめとくわ。楽しくなければただの時間の無駄遣いだもんな」


「えー? なんでよ。サークルに入れば、もしかするとかわいい彼女とかが出来ちゃうかもしれないよ?」


「はっはっは、そんな淡い期待は入学してすぐにこなごなに砕かれたわ」


「あ、そう……かわいい後輩とかもたくさんいると思うけどなあ?」


「後輩は手毬だけでじゅうぶん間に合ってるっての。だいいち後輩が十二人いたりして同時進行スケジュールを考察するのクソめんどくさい」


「……」


 シスターならぬジュニアプリンセス。俺は理想の先輩になるつもりなどないのだ、覚悟しとけよ手毬……ん? なんでそこで顔どころか耳まで赤くしている?


「どうした手毬? 体調でも悪いのか?」


「は、はあ!?」


「いやなんか真っ赤だぞ、顔が。熱でも出たような」


「そ、そういうことじゃないわよ! ま、まあいいわべつに。あたしはとりあえず真尋と一緒に活動しようって約束してたから、爆速で所属届け出してくるから!」


「別にマッハで登録する必要はないと思うのだが……って、そんな駆け足で行かなくても」


 逃げるようにサークル受付へ向かう手毬に、なんか不自然さを感じつつも。

 手毬と真尋は楽しく仲良くサークル活動して、それぞれの青春の1ページを彩るのだろうな、などと考えると、少しだけ疎外感を感じてしまったのだが。


 ま、吐いた言葉は呑み込めない。俺は縛られずに生きよう。



 ―・―・―・―・―・―・―



 結局、なんか知らんけど苗木さんも同じサークルに所属して、三人で仲良くサークル活動をしているとのことだった。


「くたびれもうけ……ねえ。なんか、入っただけで無駄に疲れそうなサークルなんだけど」


「……ん? くたびれもうけ?」


「……? おまえは……だれだっけ。確かモブD男……」


「ひょっとしておまえ、俺の名前憶えてないのか?」


 大学の講義室で俺が独り言を言っていると、以前に俺へ有用な情報を提供してくれたモブD男が話しかけてきた。


「ああ、悪い悪い。えっと……誘い受けくん、だっけ」


「ふざけんなよ中西。俺はさそうだ!」


 おっと、記憶の片隅でクラスタごと破損していたデータが復活した。そういえば珍しい苗字だったな、青森出身の哘くん。津軽弁を期待したら南部弁派だったことでがっかりしたせいか記憶から飛んでいた。


「で、哘よ。『くたびれもうけ』、ってのに反応したようだが?」


「お、おう……ひょっとして、あのスポーツサークルのことを言っているのかと思ってな」


「あの、ってのはともかく、うちの大学のサークルのことだが」


「ああ、やはりか……まさかとは思うが、誰か知り合いがそこに入ったとか?」


「その通りだ。ちなみに復学した苗木さんも入ったようだぞ」


「は!? ヤバいぞそれ!」


 なんか知らんが、哘が焦ったような物言いになっている。これは深くツッコめという前振りに違いない。


「何でヤバいの? 何がヤバいの?」


「これはマジ話だが、苗木さんと中西の知り合いに、成人記念で開催されるサークルの飲み会には参加しないよう伝えといたほうがいいぞ」


「いや、まあ、未成年のうちは参加せんだろうけどさ」


「だがあそこはサークルの人間が成人すると飲み会を企画するだろ? 二十歳記念おめでとうみたいな」


「知らんがな」


「それが問題なんだよ。はじめて酒を飲む人間、ペースも限界も考えなしだ。で、高確率で成人を迎えたやつは潰れる。そうしたらどうなるか……」


「…………どうなるんだ?」


 いちおう想像できなくもないが、あえて聞いてみる。


「そりゃ決まってるだろ、めくるめく乱痴気パーティーの始まりだ。しかも動画まで残されてな」


「ガチ情報かよ」


 そのあたりの脅しに対する対策はかなり厳しくなってるはずなのに、そんなことやってるサークルって今でもあるんだな。スペリオールフリーの遺伝子は根絶不可能ってか。


「こんなこと冗談で言わない。まあ、おもに犠牲になってるのは、合同でサークルの活動しているT女子大の学生らしいけどな」


「……は?」


「あそこ、良家の子女が多いだろ? だからガードも緩いし、親にハメ撮り見られたら死ぬより恥ずかしいなんて女子ばかりで、犠牲者が訴えもせずに泣き寝入りするパターンらしくて」


「……」


「もちろん、うちの大学でも犠牲になっている女子はいると思うけどな。名門という大学ほどそういう部分は表に出てこないもんだから」


 総合スポーツサークルといううたい文句は本当だったんかい。やはり一番中毒性あるスポーツってのは、ベッドの上で裸でやるスポーツだもんな!! 汗どころか潮もエンドルフィンも我慢汁もオティンポミルクも、汁という汁にまみれる総合格闘技。


 …………


 待て。

 そういや、真尋って誕生日もうすぐだよな。

 それに合わせて飲み会とか計画されてたら怪しさが……


 これは手毬に訊くしかない、というわけで。


『ちょっと聞きたいのだが、サークルで近いうちに飲み会の予定とかあるのか?』


 ライソで手毬にメッセージを送ると、すぐさまレスが来た。


『あるよ。あたしと真尋の成人おめでとう飲み会が』


 チソコ! じゃなくて、ビンゴ!

 というか、手毬も生まれが早かったんだな。今知った。


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