依存症は治らない
ちなみに、なぜ西田がホストクラブで成り上がったことを知っているのかというと、マミのことを手毬経由で聞いたためである。
ああ、結局マミのホストクラブ依存症は治らなかった。病気うつされてちったあ反省したのかとも思ったが、のど元過ぎれば熱さ忘れる、ってな。あほか。
早い話が、マミが通っていたホストクラブで西田がキャストとして入ったために、その情報が入ってきたというだけのこと。
真尋は真尋で、俺に言われたせいか、マミとの関係を断っていたらしい。ま、友人までフーゾクに無理やり誘ってくるようなやつとの関係が消えたことで千尋さんのπが垂れ下がる危険は薄くなったということは俺からしてみれば喜ばしいことなんだが、それでもいまだにマミを見捨てないのが手毬らしいというかなんというか。
ちなみに、ホストをやるうえで『TH大在学中』というものが武器になるようで、西田も一応休学という扱いではある。
ただしあいつが大学に戻ってくる可能性は高くない、と個人的に思ってもいる。
その根拠は。
『目が覚めた。もう一度紗羅とやり直すことだけが今の希望だから、俺はまずきれいな身体になってくる』
休学してから一回だけ西田と連絡を取ったときの、こんなやり取りがあったからだ。西田が大学を退学せず、休学にとどめた理由もそのあたりにあったと踏んでる。
だが、肝心の苗木さんの話で、西田が話題に上がってすらいないことから、察するにはあまりあるというか可能性はあまりないというか。
ま、宝物っていうのは、あっさりと手に入ってしまうと、その価値に気づかないのかもしれないな。失ってからその価値に気づいて執着しても、まさしく『もう遅い』。
しかし西田のやつ。
「ライソ、既読にすらならないな……」
つい独り言をこぼしてしまうほどに、連絡を取ろうとして取れないとなんとなくもやもやするもんだ。今は勤務時間でもないだろうし、直電凸してみよう……
『こちらは、
……ゑっ?
どゆこと? スマホ解約されてる?
ただでさえ少ない男の知り合いを、また一人なくしたのか、俺は?
―・―・―・―・―・―・―
しかし、西田の現状はその三日後、サークル勧誘日の大学内カフェで手毬と一緒に休憩しているときに知ることができた。
「マミちから聞いたけど、なんでも、
わりととんでもないことを、アイスレモンティーをストローですすりながらたんたた淡々と言う手毬。にしたんクリニックもびっくりの結末である。
「おおう……マジかよ。借金だけは返済してキレイになったって聞いたのに」
「なんでもねー、懲りずにつきまとっていた紗羅にはっきり『好きな人ができた』って拒絶されて、悲観したあの男がまたギャンブルに手を出したとかで」
「ぶっ!!」
思わずコーヒーを手毬に吹きかけそうになったが、何とかこらえる。手毬だって俺に顔面シャワーされてもうれしくもなんともあるまい。
しかし苗木さんの好きな人って誰なんだろう。気にならないと言えばうそになるが、俺は蚊帳の外だからそれに関して今ツッコむ必要はないか。
「しかも、なんでそこまで自分に執着するのか、紗羅が問いかけた時の答えが輪をかけてバカなのよ」
「なんて言ったんだ?」
「はっきりとは覚えてないけど、『心のきれいな女は紗羅しかいないんだ』みたいな感じ、だったかな?」
「……」
ゆーてあの二人、プレイ嗜好というか性癖も合わなかったんじゃなかったっけか。まさか西田がけつなあなでスカッちゃったりトロッちゃったりしすぎてきれいなプレイに原点回帰した、なんてケツ末だったら、笑い通り越してケツの穴に草生えちゃう。ケツ草バーガー物語が未完ケツでよかった。
「だけど依存症って怖いわね。結局なにかあるとすぐに再発しちゃうんだから」
手毬はそう言ったときだけ、真面目な顔になった。俺もつられる。
「それはギャンブルだろうがホストクラブだろうが一緒、か。諸行無常だな」
「そのたとえおかしくない?」
「ふん、んなことはどうでもいい……ったく西田のバカが」
「……なんだかんだいっても、友達だった人間が堕ちていくっていうのは他人事じゃないもんね、優弥せんぱい?」
しかし、直後にニヤニヤ顔に変わる手毬がやはり気持ち悪い。俺が西田のことを心配しているとでも思っているのだろうか。
「気持ち悪い顔やめろ。後輩のくせに」
「むー!? 本当にアンタは失礼よね、こんなかわいい後輩を目の前にして!」
「痛いからバンバンと肩を叩くな!! 後輩なら少しは先輩を敬え!!」
まあ、手毬がちゃっかりと自分のことを『かわいい』扱いした部分は否定しないでおいてやる。やさしい先輩に感謝しろよ。
「というか、なんで優弥まで今日のサークルパンフレット持ってるの?」
「付き合ってくれって言ってきたのはどこの誰だよ。俺はサークルに未所属で詳しいことなんて知らないから、ちょっと気になっただけだ」
「いやだって、紗羅にお願いしたんだけど断られちゃったんだもん。んー、ならさ、優弥もサークルデビューしたらいいんじゃない?」
「お断りだ。だいいち二年目からサークルに入ってなじめるとも思えん」
「あたしと一緒なら大丈夫だよ、たぶん」
「誰がお前と同じサークルに入ると言った?」
「えー? お互い心細くならないなら、それもありでしょ? ね、せーんぱい?」
「……」
クッソこいつ、ここで『せーんぱい』を使ってくるあたり、わりと後輩力高いなこんちくしょう。
──はぁ。仕方ねえな。
一年たったら、男の知り合いを一人なくして、新しく後輩ができた。それで自分を納得させとこう。
だから、そのニヤニヤ顔、今すぐやめろ。
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