No More Pain(手毬視点)
『ふふん、俺のほうがあいつらのことをわかっている、ってだけだ。なんてったって、友人だからな』
自慢気にそうメッセージを送ってくる優弥にちょっとカチンとくる。
突然メッセージが来たかと思うと、その内容は目を疑うようなものだったので。
いやいやそんなわけないでしょう、と、あたしは心の中でツッコんだが、どうせそんな返信をしたところで水掛け論になるのは目に見えてる。
無駄なことはやめようと、あたしはそこでスマホの画面をオフにした。
実は、あの騒動のとき、あたしは苗木さんとライソで新しくつながったんだけど、これは優弥も知ってない。おかげで今の苗木さんの健康状態も知っている。
登録した理由はお礼がしたいから、という体ではあったけれど……なんとなく苗木さんにもボッチの鼓動を感じるんだよね。優弥から聞いた話では、大学入学早々に同棲を始めた、ってことだったから、まあ友達を作る暇もなかっただろうし。誰かとつながっていたいって様子もうかがえるしね、苗木さん。
あたしはそう自分を納得させて、乗り気ではなかったけど、形だけは友達になった。
とまあ、そういう
『苗木さん……いま、優弥から伝達が来たんだけど。まさか、あれだけされておいても、まさかあの男と別れてないの?』
SNSに回りくどいのは厳禁とばかりに、ストレートに切り出したメッセージを苗木さんへと送る。返信はすぐ来た。
『泣いて、いいですか』
あ、これダメなやつだ。
直接会って話さないと。
―・―・―・―・―・―・―
というわけで夕方、あたしと苗木さんは、スマタバックスコーヒーで合流した。
「なんだか知らないけど、中西くんの中でわたしと元カレの愛が『神聖不可侵』みたいなそれになってるのぉぉ……別れたって言えなかったぁ……」
「なんのこっちゃ。で、元カレとの話はついたの?」
「うん……気持ち悪いくらいに謝罪してきて、違和感が。まあ、お金を返してもらうのは半分あきらめてるけど……元カレも借金返済のためにホストクラブで働くのなら、大学は通う暇ないと思うし」
「まさかここでマミちという人脈が役に立つとは思わなかったけどね、あははー……ま、本当に元カレが心を入れ替えたかどうかは知らんけど」
「さすがにもう……信用はできないかな、ってね」
「そりゃそうだ」
知りたくもなかった情報だけど、どうやら西田という男は、いわゆる『後ろの穴』プレイが好きな男だったらしい。
さすがにそれだけは苗木さんも許すつもりはなかったようで、かわりに避妊せずに……というのを許していた、とのこと。生々しいお話。
だからあの男はマミちのいるフーゾクへと通っていたわけですか。お金積まれれば内緒で許していたようだから。マミちはマミちで懲りたというか反省はしているようだから、まあおとなしくしているようならそれでいい。
苗木さんサイドのほうも、さすがにお父様が出てきたら、それなりにけじめをつけなくちゃならない状況だとは推測するけど、細かいところまで聞いたらおしまいのような気がして、やめといた。まあ、距離を置いたらわりと冷静になれるものだしね、男女関係って。
「でも、苗木さんも、頑張って入った大学を辞める必要はないと思うけどなー。入りたくても入れなかったあたしからすると、なんという贅沢か、って思っちゃうよ」
「ん……パパも本気で心配してるし、なにもいい思い出がないから、もういっそ違うところでやり直したかっただけではあるけれど……」
「……本当に?」
「えっ?」
「本当に、いい思い出が、全くなかったの?」
「……」
あたしは苗木さんに対して塩い態度だ。
けど、だれの責任かということになれば、それは自分自身なのだから。このくらい許してほしい。
っと、本人もチョイスミスを反省しているようだし、これはこのくらいで。
そろそろ話題転換をしてみようかな。
「しかし……
「え、いや、そんなことは……」
「いや救いようないでしょ。何でもかんでも自分に都合のいいように思いこんじゃってさ。そーいうところばっかり激しいんだから」
「あ、で、でも、なんだかんだいってもやさしいと思う。いちおういろいろ助けてくれたわけだし」
「まあね、それは認めるけど。自分を振った女が不幸になったところで、何の影響もないはずなのにね」
「……」
「なのに、ほんと締まんないやつだわ。まあ、つきあいがそれなりに長いあたしは知ってるけどさ、あいつ、なんでも完璧にできそうなふりして、肝心なところがダメダメなのよ」
「……え?」
「人の心の機微に疎いというか、なまじ頭がいい分、自分の考えとか思い込みだけで実際どうだったかを調べもせずに自己完結しちゃうところとか。そういうところは救いようないって思うわね。ほんとダメ人間だわ、あいつ」
人間、誰だっていいところもあれば、ダメなところもある。いろんな面がある。
苗木さんの失敗は、どこを見て付き合う相手を判断したか、だけなのかもしれない。
さっき優弥が送ってきた得意げなメッセージに若干イラつきを感じていたあたしは、付き合いが長い分知っている優弥の悪い面をそんなふうについつい言ってしまうけど。
ひょっとすると、苗木さんもそういう悪い面を目の当たりにしていたら、優弥と付き合うほうを選んでいたのかもね。
「……そっかあ……」
優弥の悪口を言ってちょっとだけ溜飲が下がったあたしが、目の前にある甘くて苦い『スペルマキアート』に口をつけると。
下を向いたままの苗木さんが、複雑な気持ちの入り混じった、なんとも表現しづらいようなため息をつく。
あたしには、そこにある感情は、後悔だけしか読み取れなかった。
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とりあえず大学一年編、これにて一段落。
でも大学編はまだ続きます、手毬が後輩になるまでは。
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