落ち着くというかおチツくというかオチつくというか

 とりあえず、苗木さんは病院に運ばれたが、子供らしき何かは宿ってなかったと判明した。


「……よかったな西田、人殺しにならずに済んで」


「ん? どしたの優弥、突然」


「いや、薬屋レベルのひとりごとだ」


 一連の処置を終え、俺と手毬、そして真尋が帰宅の途に就く。


 なぜか救急車には西田と一緒に手毬が同乗していった。さすがにほぼ無関係な手毬にすべてを任せるのもアレなので俺と真尋も後を追っていく、仕方なしに。


 それにしても、巻き込まれた感がパネェくせに、手毬も真尋もなにも不平不満を垂れ流してないのが俺からすれば謎なのだが、なんでだ。ええんやぞ、小便やラブジュースと同じように、しぶしぶでも恥部恥部でも愚痴を垂れ流して。俺たちしかいないわけだし。

 大惨事にならなくてよかった、という安心感にすべてごまかされてる。


 …………


 ま、でもなあ。


 いつかもし子供ができたらどう育てるべきか、と考えた結果、苗木さんが西田を甘やかすのはやめようと決意するに至って、こうなったわけで。


 遅かれ早かれこの二人は、現在過去未来というものを直視しなければならなかったのだ。曲がり角間違えて迷っているにせよ、あいつらひとりで生きられるほど器用じゃなさそうだしな。ほらカモメが飛んでいくぜ。

 そう考えれば、この騒動も無駄にはならないはず。陰毛クジだろうが貧乏クジだろうが少しくらいは引いてやるさ、その後に友人(仮)として唇で熱く語ってやる。


 ま、ゆーて、あいつらが他の病気に感染していたかどうかはまた別の話だ。そのあたりは、二人の名誉のため語らないでおこう。


「……でも、苗木さんのお父さん、鬼のようだったね。父親ってあんなものなのかな」


「さあな」


 真尋がそう聞いてくるが、俺だって父親の記憶なんてないもの、答えられるわけがなかろう。


 病院に運ばれる前、意識のあった苗木さんから聞いた実家の電話番号に留守電を入れてみると、そのあとに父親が駆けつけてきた。

 ちなみに、DVがけーさつざたになるかどうかという問題は、その父親が西田をフルボッコにしてしまったせいで痛み分けにされた。めんどくさい事件にかかわるのは俺たちもごめんなので、いちおうめでたしめでたし?


「だけど、苗木さんの両親が離婚してて、父親についていったっていうのは驚きだったね。ふつう、女の子は母親についていくものだと思うんだけど」


 真尋に便乗した手毬がもっともらしい疑問を投げかけてくる。理由は大体想像ついてるけどな。


「そりゃ、母親がクズだった、っていう可能性もあるけど……なんとなく、あの無精ひげの生えた、熊みたいな父親を見れば想像はつくんじゃね?」


「あ……そっか……」


 ややファザコンが入ってるにせよ、だらしない男に惹かれる苗木さんの世話焼き性癖は筋金入りか。

 俺じゃ太刀打ちできなかったわけだ。


「ま、このことをきっかけにして、西田がまともになってくれればいいな。DVとか借金とかを繰り返して、苗木さんを不幸にしない程度に」


「「……は?」」


 しかし、その後の俺のセリフに、手毬と真尋が疑問を投げかけてくる。


「どうした二人して。俺、なんか変なこと言ったか? なんでにらめっこする時のような変顔してんだよ。なまはげですら吹き出すどころか逃げ出すぞ、そんなレア顔」


「あんたは一言多いのよ!! いや、友達を信じたい気持ちはわからなくはないけど、まさかあの二人がこれからも付き合い続けると思ってる?」


「うん……それに関しては、わたしも無理があると思う」


「そうなん?」


「そりゃ、父親まで出てきちゃったしねぇ……さすがの苗木さんも目が覚めると思うよ?」


「……そうだね、というよりも、もう気づいているんじゃないかな。あの二人で見る未来っていうものを覆っている絶望感に」


「……」


 手毬はともかく、過去に同じような立場にいた真尋が言うとなんかこれすっげー重いわ。反論できん。


 でもなあ、正直に言うと。

 あの二人が別れたりしたら俺が味わった絶望感はなんだったんだ、ってなっちゃうから、苗木さんは西田とこのままでいてほしいんだけど。せめて大学卒業するくらいまでは。



 ―・―・―・―・―・―・―



 あの事件から半月ほど経って、苗木さんが大学へ復帰してきた。

 

「……中西くん、ちょっと、いいかな?」


 そして復帰早々に俺は苗木さんから呼び出しを食らったわけだが、まあ色っぽい話でないことは分かり切っているので、冷静に応対しとこ。




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さぼっててすみませんでした。『この話、面白いのか?』病が再発しないよう頑張ります。

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