もしもコンドームがオブラートでできていたら
「……ま、とにかく」
オカンがそこで手をパンと打って鳴らした。
「たぶん、苗木さん……あの子は、このままだとろくでもない未来が待っていることは間違いないわね」
「まあそうね。幸せになれる要素が1ビットもないし」
そして出てきたシンラツ……いや、当たり前の予想に千尋さんも乗ってくる。ま、先達の意見を聞くまでもなく、俺たちだって予想余裕ではあるが。
しかし、1ビットもないっていうことはつまりゼロなのではないだろうか。
一方、俺のわきで真尋が何かを考えるふりをしている。
「あの子、彼氏と同棲してるんだよね……? もしも子供とかできたら、彼氏も変わったりしないのかな?」
なんという都合のいい思い込みだろう。真尋、頼むからDVするようなダメ男にそんな要素を求めないでほしい。
「「「百合に挟まる男レベルでないない」」」
案の定、真尋の言葉はオカン二人とおまけに手毬にまでも否定されてる。しかもなんでたとえが三人とも一緒なんだ。そこまで百合に挟まる男って嫌われてるのか。
ひょっとして、俺って手毬と真尋の邪魔者扱い?
…………
ま、それはどうでもいいとして。
俺はもうフラれてるわけだから、あいつらに口出しはできないけど。
それでも……最初に知り合って、三人仲が良かった時のことを、西田に忘れてほしくはない。そんなふうに思ってるよ。
―・―・―・―・―・―・―
そして事件から一週間がたった日の夕方。
自宅にいた俺に、いきなり、手毬からライソが飛んできた。
『今、ドラッグストアでこの前の苗木さんって人を見かけたんだけど、妊娠検査薬買ってた』
『なんやて』
とんでもない爆弾的内容である。
あー、やっぱそうなっちゃうかー、とあきらめ半分で詳しく聞こうと思ったが、ふと気づいた。
……苗木さん、梅毒とかの性病に感染してたら、胎児に影響出るんじゃね?
『優弥はそのあと、大学で苗木さんとは会ってないの?』
『あいつら、いまだに大学には来てないぞ。苗木さんは痣が増えた様子とかはなかったか?』
『真尋が言うには元気そうだったって。あたしは実際に見てなくて、真尋が発見したから』
『真尋と一緒にいたのか』
『うん、マミちが、真尋に謝りたいって言ってたから、一緒に会ってきたの』
おお、これは意外だ。
どうやらあのマミという紫のサキュバスは目が覚めたらしい。これも性病のなせる技か。
まあそりゃあね、ホストクラブという夢の世界を楽しんでる最中に、いきなり性病という現実が押し寄せてきたら冷静にもなるわな。夢の中でエロいことして夢精したら現実の女が妊娠する、なんてこと俺もごめんだもの。
…………
西田も、性病に感染していたら、まともに戻れるのだろうか?
少しは、苗木さんが大事な存在だと、思い出せるのだろうか。
うーん、あいつらの様子がちょっと気になる。アパートを偵察してきたほうが……でもなあ、愛の巣ならまだしも哀の巣になってたら、と思うと、俺ひとりだけでいくのやだ。
―・―・―・―・―・―・―
というわけで、知らぬ顔じゃないのをいいことに、手毬と真尋にも付き合ってもらって西田のアパートまでやってきた。
「……悪いな、つきあってもらって」
なりゆきとはいえいちおう無償で付き合ってもらったわけで、手毬と真尋には礼を言わなければなるまい。
「ううん、あたしも気にはなっていたからさ」
「……うん」
「ありがとう。手毬は勉強もあるだろうに申し訳」
「いいよ別に、もし勉強が進まなかったら優弥に教えてもらうから」
「あ、わたしも、優弥に……」
「ま、それはあとでな。もしもあいつも性病にかかってたら、少しは後悔して反省……」
ということで三人でアパートを見上げた瞬間。
『ふざけるな!!』
ガシャーン!
「……なんかデジャヴだな、これも」
あきらかにDVしか連想できないような怒鳴り声と効果音が聞こえてくる。
手毬と真尋はお互いに顔を見合わせてから、俺のほうへと声をかけてきた。
「……ねえ優弥、これ、やばくない?」
「ワシもそう思う、いくぞ」
ことがことだけに急がねばならない、という思いは三人とも一緒だった。俺が駆け足で西田の部屋まで向かうと、ふたりともピッタリ後をついてくる。
そしてこの前と同様、ドアに手をかけるとまたもや鍵がかかっていない。まあ好都合だ。
コンコンコン。
「西田さーん、御在宅でいらっしゃいますかー?」
「一刻を争う状況なのになにしてんのよあんたは!!」
「一応礼儀として」
そしてガチャを回すと、いやガチャッと玄関のドアを開けると、そこにはまたもや驚きの顔をした西田と、倒れている苗木さんの姿が確認できた。
予想的中、DVレアだよ。
…………
おいおい、苗木さん倒れたまま腹を手で押さえてるじゃねえか。西田に殴られたかそれとも蹴られたか?
今の苗木さんの腹の中には、もしかして新しい命が宿ってるかもしれないというのに。望む望まないはともかくとしてもな。
「ひっ……」
「ちょっと、苗木さん!? 大丈夫なの!?」
ひるむ真尋とは裏腹に、でかい声で呼びかけ、すぐさま苗木さんのもとへ駆けつける手毬。
だが、苗木さんは倒れたまま痛そうにおなかを押さえるばかりだ。うう……とうなりながら。
思わずその場でジョジョ立ちしたまま、俺は。
「……あーあ、パチンカスの借金王くらいだったらまだ救いようがあったのに。ついに人殺しになっちまったか、西田よ」
静かに西田を罵倒してしまった。
いやー、人間って怒りが沸点を超えると、逆に冷静になるんだな。
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家が破壊されていろいろ対策していたら文章が書けませんでした。申し訳ありません。
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