仲がいいのは誰なのか

「え……マミ、病気? 体調はどうなの? お見舞いとか……」


「病気は病気と言っても梅毒とか淋病とかクラミジアとかそっち方面のモノだからな。勘違いすんなよ」


 手毬の婉曲的な表現を聞いた真尋は真尋で天然ボケを発していたので、そこは即座に訂正した。


「えっ……」


「そりゃ金のために不特定多数の男とあれこれするんだ、どこかからそういうもん持ち込まれてもおかしくないだろ。全員が全員、性病検査などしているわけもないし」


「……」


「まあ、病気を伝染うつされる可能性がないことはいいことだ」


 もちろん皮肉に決まっている。千尋さんにはフーゾクでバイトしようとしてたことは内緒なんだろうが、真尋の場合それ以前に高校時代もアレだったからなあ。ファッカー部が全員病気持ちになってたりしたら、犠牲者が増える危惧をぬかせば世界平和になるかもしれんとは思ったが。

 今の真尋に関して称えられる部分は、どうやら俺が言ったとおりに、性病の天使マミから距離を取ろうとしていたことだけかもしれない。でなければ手毬が知ってて真尋が知らないってのもおかしいもんな。


「……そう、だね。優弥の言う通り」


「うんうん、真尋は手毬を見習って、身持ちは堅くな」


「……それはどういう意味?」


 おお、真尋がここまでしおらしくなるとは予想外。手毬はちょっとジト目になったが、気にしたら負けだ。


 しかし、油断は大敵である。もう一つの問題アレがあった。


「……で、苗木さんが優弥の彼女じゃないなら、優弥の彼女っていったい誰なの?」


「ぐへっ!!」


 真尋の反撃である。さっき与えたのと同じくらいのダメージを食らったわ。


 …………


 まあもういいや、手毬には暴露したわけだし、今さら隠してもしょうがない。



 ―・―・―・―・―・―・―



「……というわけで、俺に彼女ができたというのはわずかな期間のぬか喜びでした。以上」


 そう説明し終えると、そこにいた老若女女が全員、憐れみと同情を含んだ目になった。クッソ、だからそれはやめてくれ。まだ『草ァ!!』とか言われたほうが気が楽だわ。


「優弥……強く生きなさい」


「あの子は男を見る目がないのねえ……優弥君みたいな優良物件を袖にするなんて」


 オカンズはそうやって俺を慰めてくる。これが他慰ってやつか。全然気持ちよくない、快楽に関してはやっぱ自分しか信用できねえわ。


「そうなんだ……よか……あ、え、ええと、優弥、災難だったね」


 一方、真尋は真尋で心にもない言葉を口に出す。たどたどしいことこの上ない。口に出されることしか経験ねえから、そりゃ建前を口に出すのは慣れてねえわな。


「……苗木さんは自業自得だけどね」


 手毬は一言、容赦なかった。


 ま、「あんたじゃ苗木さんに選ばれないよね」とか誰も言わなかったあたり、俺も少しはランクアップしてるのかな、とうぬぼれよう、そうしよう。

 これ以上みじめになりたくないので、心と貞操は自己防衛するしかない。あとあとで不同意だったとか騒ぎ立てるなど、もってのほか。


「まあ……でも、もしもそういう経路で苗木さんにも病気が感染してたら、ほっとくのもなんかね……」


 しかしそのあと、一番容赦ない発言してた手毬が苗木さんを心配するような発言をしているのが草。

 マミのときといい、今のこいつは見て見ぬ振りができないやつなのかもしれないが、高校時代はもっと性格悪かったよな。いつどこでこんな良識人になった。


「なんか知らんが成長したんだな、えらいぞ手毬」


「なぜに上から目線?」


「陰で俺を小馬鹿にしていたあの頃からは想像もつかない、というだけだ」


「全然成長してないアンタに言われたくないわよ」


「成長してなかったらいまだに俺はヒョロガリ扱いされてると思うのだが」


「中身の問題に決まってるでしょ。だから何度も何度もごめんって言ってるのにいつまで引きずってるのよ、性格悪いわね」


「やかましいわ。というか、手毬は俺にでっかい借りがあること忘れるなよ、後輩になるその日まで」


「うっ……サイアクー。やっぱり受験先変えようかな……」


「これまでの努力を無駄にするだけの度胸があれば、俺は止めないぞ。手毬の好きにすればいい」


「あんっっ……たってば、本当の本当に性格悪いままよね!!」


「だから人のこと言えるのかと……ん?」


 俺と手毬がいつものように舌戦をしている様子を、オカンと千尋真尋母娘があっけにとられたような表情で見ていることにふと気づく。


 そして蚊帳の外だった真尋から、素朴というのか唐変木とうへんぼくというのかわからない疑問をぶつけられた。


「……優弥と手毬……実は陰で付き合ってたりとか、しないの?」


「んなわけないでしょ! 何言ってるの!!」

「んなわけあるか! ありえないわ!!」


「あらあら仲いいわねえ、同時に否定とか……ま、優弥がここまで女の子に軽口叩くところは、母親のわたしも初めて見たけど」


「なにかが少しだけでも違っていたら、手毬ちゃんの立ち位置にいるのは真尋のはずだったのに……」


 いいから余計なこと言うなオカンズ。だいいち、手毬にそんな気があるわけないだろうに。

 あと、千尋さんは俺と真尋をくっつける計画をいいかげんにあきらめたほうがいいですよ。ほら、真尋がすごく嫌な顔してますし。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る