どうしよう?(BGM:畑亜貴)

「で、どうするの? 苗木さんのこと」


「なんとか、してあげられないかなあ……」


 苗木さんが家を出て行っても、なぜかそのあとに来たゲストどもは誰一人として帰ろうとはしなかった。ありがた迷惑。


 なので、俺と真尋と手毬の三人、苗木さんを見送った後の玄関先で雑談する。だがシュールに応対せざるを得ない。真尋は苗木さんに必要以上の感情移入してるっぽいが。


「知らん。というか俺が何してもたぶん無駄。苗木さんの心に響くわけもない」


「そんなことは……」


「で、でもさ、優弥は真尋の行動、変えられたじゃない?」


「真尋の行動を振り返ればわかることだが……真尋の場合、『好きな人に尽くすわたし、バチクソヒロインだわ……』とか自分に酔ってただけだろ?」


「ぐはっっ!!」


「だからこそ、客観的に見れるようになったら『あれ……ひょっとしてわたし、言葉だけで丸め込まれた、ただの都合のいいダンゴムシ以下のバカ女……?』って気づけたわけだよな?」


「げふっっ!!」


「優弥……なんというか、こう、手心というか……真尋のHPえっちポイントがゼロになってるじゃないの」


「ただ、それに自分で気づいて別れられたからこそ、結果として真尋の心は守られた。違うか?」


「……」

「……」


「今回の苗木さんとは状況が違う」


 西田も、そして自分自身も救いようのないバカだと知っていて、それでも苗木さんは結局西田のところへ戻っていった。だからこその、『ごめんね』だ。

 フラれてる俺が何を言ったところで考えを変えることなどできるわけがない。


 有り体に言えば、共依存、つーのかな、こういうのを。


「……ま、この手の話は、中にいる二人のほうが詳しいんじゃね?」


 頼りにしてます、シングルマザーズ。

 とばかりに俺は無責任な発言をかまして、リビングでお茶会をしていたオカンと千尋さん、二人に軽く尋ねてみたのだが。


「……ったってねえ、あれはもうカウンセリング案件よ」


「はい?」


「本人たちだけじゃ解決なんてまず無理。強引に引きはがす、以上」


「……」


 ああ無情。ま、そういうのをサクッと解決できるくらいなら、この二人も苦労してないってことか。


「それにしても、そんなに借金を作るくらい、パチンコで負けてるのねえ……やっぱり怖いわ、ギャンブルは」


「そういや、紗耶香の元旦那も……」


「まあそうね、『パチンコの負けは競馬で取り戻す!』とかわけのわからないことを言ってたわ」


「……」

「……」

「……」


 おまけとしてマイオヤジに関するいらん歴史にまた1ページ。

 見ろ、俺だけじゃなくて手毬も真尋も沈黙の艦隊化してるぞ。そのオヤジと同じ血が俺に流れているのかと思うとうすら寒くなってきたわ。俺は絶対その手のものに手を出さないでおこう。

 ま、今の世の中、ギャンブルより質の悪い『ガチャ』ってものがそこら中にはびこってるけど。悪い文化ってのはえげつなく儲かるやつがいるから残るんだよな。


 オカンズの会話はつづく。


「それにしてもその彼氏くん、借金の原因は本当にギャンブルだけなのかしらね?」


「ああ、千尋もそう思う? なんか、ギャンブルで負けた腹いせにフーゾクとかでストレス解消とかしてそうだよね、その彼氏」


 ……は?


 聞き捨てならない会話だった。思わず割り込んでしまうわこんなん。


「いやちょっと待って、ムシャクシャしてそれを解消するためにセックスとかするのは分かるんだけどさ、なんでそれを苗木さんでやらんの? 自分の彼女だもの無料じゃん」


「そーいうダメ男にはそのあたりの常識は通用しないわね。別の女でストレス発散したくなることもあるし、彼女だからっていつでもできるわけでもないし、性癖が一致してないこともあるから」


「……」


 何とも返しづらい内容。確かに性癖が大事ってのは分かるんだが、それって愛情よりも大事なものなんかいなと疑問に思う。


「……あ、ああ!!」


 しかし、そこで手毬がすっとんきょーな声をあげた。


「どした、手毬。ついに気がふれたか」


「そうだ、西田海斗、ってどこかで聞いた名前だと思ったけど! マミちを指名してくる常連客の名前だ!!」


「……なんだと?」


 俺の軽口を軽くスルーするあたり、本当のことらしい。


「マミちを改心させるためにいろいろ話してた時に、そいつから電話があったよ。店外でも会ったりしてるとかで、マミちのことお気に入りみたい」


「すごく……外道です……」


 西田があのクソビッチの常連客かよ!!

 これを浮気と断言していいのかどうかはともかく、世の中狭すぎだろ。マミホールもそんだけ狭ければよかったのになあ、こりゃガバガバ間違いなしだな!!


「でも……苗木さん、ひょっとして……大丈夫、なのかなあ」


「……? なにがだ?」


「いやね、マミち、今、お病気もらって、治療中だし……」


「……オーマイゴッデスパゲッティペペロンチーノ」


 手毬のやつ、ここでとんでもない暴露しやがった。

 絶望的な意味で会話の情報量多すぎだろ。それを把握できてるってことは、美しい友情サマサマと言えなくもないけどさあ。


 というか……梅毒って、確かチューでもうつるんだよな……ひとつどころかはるか上のオトコになりそうだぞ、西田。性病の三連鎖くらい普通に起こりうる。


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