手を出しちゃいけない金に手を出してからがギャンブルの始まり

 ほかに話せる相手もいないので、半分仕方なしに俺は手毬へとさっきのことを話した。


「はぁ、そーなんだ……マミち、これで自制してくれればいいんだけど。何回か説得しようとしたんだけど、聞く耳持ってもらえなくて。どうしろと」


 この問題のめんどくささを浮き彫りにするかのように、手毬がため息交じりでそうぼやく。


「まあ、少なくともなりゆき任せで解決するような問題じゃないな」


「ごもっとも。とはいっても、何度同じこと繰り返したところで、マミちが素直に聞いてくれるとも思えないけどね。ほぼ洗脳状態だろうし」


 確かにそうだ。

 もしも手毬の再度の説得でマミがホストクラブ通いをやめるくらいなら、そもそも最初からハマるわけがないもの。


「ふむ、いっそマミって女を拉致監禁して、耳元でのちゃんの声真似しながら『とかちーがーすーきー!』ってエンドレスで話しかければ、洗脳の上書きくらいできるんじゃね?」


「ふつうなら洗脳の上書き前に気がふれるわ、やめて。だいいちそれで洗脳上書きしたところで、今度はおなか下すくらいヨーグルトにハマったらどうするのよ」


「健康的でいいじゃないか、腸内環境も改善されるし便秘知らずだぞ」


「あんたと話してるとあたしの頭が便秘になりそうだわ……」


「なんだ、手毬の頭には排泄物が詰まってるのか。そりゃ浪人するわけだ。なんならカンチョーするのを手伝って便秘解消してやろうか?」


「……いつかしばいてやる」


「ゆーて便秘って体臭もきつくなるし吹き出物も増えるしで、いいことないぞ」


「うるさいわね、あんたにやられなくても自分でするわよ!」


「ほう、手毬の便秘解消法はカンチョーか……捗るな」


「……サイッテー」


 手毬は深刻そうだが、俺のほうはわりとお気楽極楽である。正直に申すが、俺にとばっちりが来なければマミという女がどうなろうと対岸の火事だもの。そりゃ軽口も捗るわ。


「ま、手毬もいろいろ思うところはあるだろうが、俺としてはあのマミという女と縁を切ることを勧めるぞ。ろくなことにならなそうだし」


「いや、でも見捨てるのも寝覚めが悪いじゃない……さすがに、ね、友達だもの。おそらく、マミも我に返れば後悔するだけだと思うし」


「情にあついことで」


「優弥だって、真尋が堕ちそうなときは世話焼いてるじゃない。それと変わらないわよ」


 そういうもんだろうか。というか、確かに俺は結果としてそうなっちゃったんだよなあ。

 俺の中では、真尋のためというよりは千尋さんのため、さらに言うならとばっちりを受けるのを防ぐため、という自己中心極まりない思考回路しか働いてないんだが。


 なんだかんだいって、手毬は面倒見のいいやつだよな。

 ちょっとだけ俺の口元も緩むというものだ。


「……まあ、手毬のそういうところ、俺は嫌いじゃないぞ。俺にとってはマミという女は心底どうでもいいが、手毬が変なとばっちりを受けるのは防ぎたいから、もしそうなりそうなら言ってくれ。協力は惜しまん」


「あ、ありがと……彼女持ちに言われても、って感じだけどさ、そのセリフ。わかった、やるだけはやってみるよ」


「……おう、がんばれ」


 そういや手毬には、『彼女ができたというのがわずかな時間の出来事だった』ということを告げずに説明した気がする。が、いいや別にそこまで説明せんでも。


 ま、マミという女のためには動く気などサラサラスワティないが、手毬しょうじきものがバカを見ることは俺が許さない。それだけは絶対阻止だ。



 ―・―・―・―・―・―・―



 そうして真尋のヘルス騒動から三週間ほど経ったあとの、大学でのとある講義前。


 今日も、西田と苗木さんは来てないな……と軽く確認した時に。

 モブD男が、俺にとんでもない話題を振ってきた。


「なあなあ中西、西田が借金で首が回らなくなったって本当か?」


「……は?」


 西田の奴大学に来てないのに、なんでそれを知っているんだ。モブD男。


「いや、大原から聞いたんだけどさ。なんでも、西田の奴大学そっちのけでパチスロにハマったせいで、なんか借金返せなくなってる、と一部の界隈で噂が立ってるらしくて」


 大原って誰だっけ? とか、一部の界隈ってどこだ? という件は、今回わりとどうでもいい。

 しかしなんというか、西田って本当にダメ人間だな。稼ぎもない学生の身分でギャンブルにハマっちゃダメだろ。パチスロ打って腎臓売る羽目になるぞ。


「借金、てのは初耳だが……なんで俺にそれを?」


「いや、中西って西田と仲良かったじゃん。だから西田が今どうしてるのか知ってるかなって。最近大学にも来てないようだしな」


「もう俺と西田はほとんど交流途絶えてるから、今の俺は何も知らないぞ。詳しく知りたきゃ苗木さんにでも聞け」


「あ、すまん……というか、苗木さんも最近大学で見かけてないよなあ……なんかあったのかねえ」


「……」


 モブに気を遣われてしまった、屈辱。ちくしょう、俺が振られたことやっぱりみんな知ってるんか。

 おまけになんかあったことは間違いなさそうな言い分だよ、こいつ。モブにしとくのはいろんな意味でもったいないな。


 それにしても、あの二人がこれだけ大学に来てないのはやはり引っかかる。

 無理にでも来いとかいさめるつもりはないけど、大学入学してすぐに留年確定とか笑えねえだろう。何のために苦労して入学したんだここに。


 …………


 あいつら、まだアパートでヤリまくってる、とかなら平和でいいんだがな。


 ま、俺に近い人間が巻き込まれなければ、かかわるつもりはない。振られた女は赤の他人、それを奪った男も赤の他人。他人同士垢こすりだろうが恥垢こすりだろうが股間の謎肉を好きなだけスキスキスーしてやがれ。


 …………


 いやでも絶対これ、もっと悪い方向ヘ進んでる気がしてならない。

 自分でフラグ立てちまった、不覚。



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ちょっと手直ししました。

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