ホス狂い、それは自業自得

 金を無駄にした感は否めない。むろん帰ってこなかった、俺のなけなしの金。

 なんで真尋を延々と説教するだけで一万五千円無駄にしなきゃならんのだ。解せぬ。

 こんなことなら服を買ったほうがはるかによかったわ。


 まあいい。とにかく、吉川家崩壊だけは阻止できたと思おう。

 真尋のベビードールに金を出すくらいなら、千尋さんのおっぱいに金を出したほうが俺も金玉から出せたってのになあ。

 結局、大惨事世界性戦で無条件降伏だったよ。


 あと、俺は真尋にヘルス勤務を勧めたマミという女にも文句を言いたくて仕方ない。

 が、そいつのことを真尋に訊くのを忘れた。今から聞き直すにしても真尋とのライソ削除しちまったし、吉川家まで訪ねて尋ねるのも間抜けだし。


 …………


 仕方ない、ここは真尋の友人である手毬に訊いてみよう。多分あいつなら知ってるはず。

 というわけでさっそくメッセージ送信だ。


『ちょっと手毬に訊きたいことがあるんだが』


『あれー? 彼女持ちがこんな時間に浪人生から何を訊きたいの?』


 イヤミな奴だな手毬よ。

 まあここでも説明するのは面倒だ。ゆえにスルー。


『真尋の友達で、マミってやつを知ってるか?』


『あー、マミちかな? 栗見くりみマミのこと? というかマミちと交流あったの?』


 栗見マミ……? マンクルチンクルカリパックン、みたいな変身呪文でも唱えそうな名前だ。やってること全然ファンシーじゃねえけどさ。アイドルどころかフードルでもねえし。


『おお、たぶんそいつだ。特に交流はないが、ちょっとそいつの連絡先を教えてもらうことは可能か?』


『・・・』


 およ。

 五分ほどメッセージが返ってこないからなにごとかと思ったら、突然手毬から電話がかかってきた。


「シモシモ?」


『なんでマミちと連絡とりたいの?』


 ……ほ?


 スマホの向こうから聞こえる手毬の声は、エロオヤジを糾弾するような感じのそれである。こちらも言い訳がましい口調になろうというもの。


「いや、ちょっと説教したいだけだけど……」


『説教……? 優弥、マミちが今何やってるか、知ってる?』


「は?」


『マミち、フーゾクで働いてるんだよ?』


 手毬も知ってたんか。なら話は挿入即絶頂レベルで早い。


「おう、その件だ」


『……マミちを指名するために連絡するんじゃなくて?』


 なるほど納得、手毬はそういう疑いをかけてたから、あんな軽蔑声で話してきたんだな。

 残念ながら俺は顔すら覚えてないので、どんな奴かわからないフーゾク嬢を指名する気などない。金は有限なんだ、たとえ写真が修正されてるとわかっていても自分の好みの嬢を選ぶだろ。


「んなわけないだろ。なんでそうなるんだ」


『ならいいけど……マミち、けっこうどっぷりハマってるからさ』


「は? ハメてる、じゃなくて?」


『あながち間違ってないかもしれないのがくやしいところだけど……マミち、あたしにまで、フーゾクでバイトしないかって誘ってくるんだよ? こちとら浪人生でそれどころじゃないってのにさ』


「ファッ!? 手毬も誘われたんか!?」


『……?』


「あ」


『まさかとは思うけど……マミち、真尋にもその誘いを……』


 しまった。勘のいい浪人生は嫌いだよ。


 まあ、でも手毬なら知られてもいいか。こいつ、なんだかんだ言っても信用できそうだし。

 正直、俺の周りで一番信用できそう、まであるわ。


 ……俺の交友関係って、いったい。



 ―・―・―・―・―・―・―



 というわけで、全部話した。


『……はあ。マミちも救いようないね。おそらく、働く女の子を店に紹介すればお金がもらえるからだろうけど……』


「そういうもんなのか」


『うん。あたしにまで声かけてきたっていうことはそういうこと。まったく、あたしなんかがそんなところで働いても客なんかつかないってのにね、はっはー』


「そうか? 手毬なら、人気出ると思うぞ」


『……ほえ?』


「わりと話しやすくて愛嬌あるもんな、手毬は。売れっ子間違いなしじゃないか?」


『ば、ば、ばっかじゃないの!? そんなところで人気出たってうれしくないし、だいいち働かないし!』


 おお、手毬がテンパっている、珍しいな。

 だが俺は心にもないことは言わない。少なくとも、真尋よりは向いていると思う。


「まあ、それはわかった。というか、要はキャストを引っ張ってくるとお金がもらえるから手当たり次第に声をかけてるってことか。なんでそこまで……」


『……これは、あくまで噂だけど』


「ん?」


『マミちね……ホストにハマってる、ってきいたことある』


「……なんやて」


『だから、少しでもお金、ほしいんじゃないかな』


「まさかのホス狂いかよ!」


 わーい、馬鹿だ。バカがいる、自制できないバカが。

 いやー、一気に醒めたな。ホストに入れ込むバカ女、パチンカスよりも救いようがないわ。

 かかわらないほうがいいなこれ……


『……でも、ほっといたら、たぶん、破滅するよね……』


「自分だけ破滅するならどうでもいいんじゃね」


『そうだけど……いちおう、友達だし、ほっとくのも……』


「……」


 まあ、手毬の立場からすればそれはそうだろう。


 というか。

 まさかとは思うが、真尋にまでホストクラブの魔の手が伸びたりしないだろうな……


 やだなあ、そうなってまた駆り出されるの。俺はただカリ出したかっただけなんだけど、どうしてこうなった。

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