ミッション:大人の階段(個室)

 俺は苗木さんに振られた翌日、大学をさぼった。これが大学デビューってやつか。


 まあそれも致し方なかろう。大学行ったらあの二人と顔合わせなきゃならないんだぜ。地獄だろ。

 苗木さんに振られるまでは覚悟してたが、そこでまさかの西田の絡みである。というかこれで大学行っても話す相手がいなくなったに等しい。


 大学でもボッチ確定。ああ無情、レ・ミゼラブルだ。

 リスク覚悟とか言っておきながら、今さらやっぱ告白とかするんじゃなかった、と後悔しきりだよばっきゃろー。


 まあ、えてしてこういう噂は広がるものである。

『あー、苗木さんに振られた人だー、プークスクス』と陰で言われるのもしゃくに障るわ。


 もういっそ、大学退学して、来年TK大学を受けなおそうかな。

 赤い靴はいてた女の子のように、どこか遠くへ行きたい。遠くへイケるなら異人さんに連れられようが異人さんにしごかれようが異人さんにしゃぶられようが許容範囲内だ。


 コンコン。


「優弥ー、体調はどう?」


 おっと、オカンが仕事から帰ってきたか。仮病なのに俺の部屋まで様子を見に来てくれるとは、身内の愛情が身に沁みる。


「ああ、だいじょう……千尋さん?」


 が、なぜかオカンの後ろには、青ざめた様子の千尋さんがやってきていた。

 そしてすぐさま、その千尋さんが俺に迫ってくる。


「優弥君! 彼女ができたって本当なの!?」


「……はい?」


 えーと、なんで千尋さんがそれを知ってるんだ。オカンにすら言ってなかったことなのに。

 というかもう別れてるんですけどねー。いやつきあってすらなかったのか、保留にされてたわけだしな。はっはっは、むなしさ炸裂だよ、センチメンタルどころじゃねえっつうの!


 ……手毬経由だなこれ。手毬→真尋→千尋さん、という伝言ゲームか。安易に自慢するんじゃなかった、自分の軽率な行いを反省したい。

 しかしこれ、もう別れたとかそもそも付き合ってなかったとか言いにくいぞ。俺の男としてのプライドにかかわる。


「あ、いや実はそうなんですよー、もう少ししたらみんなに伝えようかと思ったんですけどねー、あははー」


 とりあえずこの場はそうごまかしといて、しばらくしてから『やっぱり合わなかったから別れた』ということにしよう。


 ……はぁ。

 ダウン攻撃で追加ダメージ食らったような気分だ。どうせなら攻撃されるなら縦四方固めがよかった。



 ―・―・―・―・―・―・―



 結局、二日ほど仮病で休んだが、さすがにいつまでもこのままではいられないと腹をくくった俺は、仕方なしに大学へとやってきた。


 講義室に入って。

 何か陰口を言われてそうな雰囲気がなかったことに、まず一安心。

 そして必修の講義に、苗木さんと西田の姿が見えなかったことにもほっとした。


 ……しかし、二人とも来てないってことは……いわんや何を、だなこれ。100%悪意の意味でもげちまえ。


 まあいい、やつらがいないなら、俺の大学生活は平穏だ。


 ──俺の心の中だけ、きっちりと割り切ることができればな。



 ―・―・―・―・―・―・―



 あっという間に週末を迎え。

 結局、苗木さんと西田、二人には今週一回も遭遇しなかった。


 ナニやってるんかね、ふたりとも。なんか同じ学部の奴らから、西田のアパートに苗木さんが入ってったという目撃情報も提供されたし、突き合いたてのラブラブ子作りタイムにでも入ってるんかな。

 一方俺はいまだにDT、格差は解消されず。ガッデム。


 くそう、こんな週末は、気晴らしにパーッとどこかへ遊びに……


 ……と思って自分の財布の中を見たら、五万円が入っていた。そういや、服代としておろして財布に突っ込んだままだったっけ。


 ふむ。口座に戻してもいいが……ひらめいた。


 この金があれば、八木山ペニスランドまで行けるじゃねーか。でっかいパイがはずんだり跳ねたり転がったりするかもしれんところに。


 そう、フーゾクという選択肢である!


 いちいち西田と苗木さんがえちえちしてるとか邪推するたびに落ち込むのは、俺に女性経験がないから、というのが大きいと思うのだ。

 もしも俺自身がDTを卒業して大人の階段を昇れば、奴らのことも割り切れて生暖かい目で見れるようになるんじゃないか?


…………


 ふむ。フーゾクといえば、国分町、か。


 俺は、そんなおぼろげな思考回路の中、無意識に地下鉄の切符を買っていた。



 ―・―・―・―・―・―・―



 が。

 石鹸ランドはさすがに全額飛びそうだったので、ちょっと節約してまずは初心者コースから攻めてみようと、意を決して入った個室ヘルスで。


「な、なんで、ここに優弥が……」


「それはこっちのセリフだ!! なんで真尋がここにいるんだよ、おい!! 千尋さんが泣くぞ!!」


 初心者丸出しの俺に『新しく入った、お嬢様大学在学中のいい子がいます』とお店の人が勧めてきた嬢がさんざん見飽きた幼なじみだったとは、さすがに俺も予想しなかったよ。お座り一発でパチンコ大当たりするより確率低いぞ、どんな偶然だ。

 というかよく着れるな、そのほとんど隠れてないベビードールみたいな服装。


 それにしても、ヒョロガリは生理的に無理とか高校時代に言っておきながら、客を選べないフーゾクで働けると思ってんのかこいつは。

 俺もヤる気が一気に失せたぞ、金返せくそったれ!



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もうここからはなんでもあり。

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