大学編

大学生活はゴリ喪中

 結局、高校生活のほとんどを勉強と少林寺拳法に費やした俺は。

 卒業後に少しの筋肉と、名門国立TH大学合格という栄誉、二つを手に入れた。


 ……なんで日本一のTK大じゃないかって?

 そりゃ、実家から通える距離だからに決まってるだろ。TK大に通えれば、確かに無限の可能性はあるとしても、だ。例えば、日本の音楽シーンに一大ブームを巻き起こす、とかな。


 だが、名声とかを考えれば自宅から通えるTH大で十分だろう。第一、独り暮らしする金をオカンにたかるわけにもいかないし、いろいろ気を遣わなければならない寮生活など御免こうむる。人生、サバイバルダンスだぜ。


 ま、我ながら、良い選択だったと思っているよ。

 さて、今日は入学式の朝だ。気分一新、リスタート……


 ……と思ったら、突然メッセージが入ってきた。

 残念なことに、高校生活でライソのつながりは全く増えなかった。解せぬ。


 だからこそ、誰からメッセージが入ったのか、一発でわかるのが悲しい。


『今日、入学式だよね。おめでとう』


 案の定、佐久間手毬からのお祝いメッセージだ。

 手毬とはなんだかんだ言いつつも一緒に勉強していたから、高校時代一番行動をともにしたやつはひょっとするとこいつかもしれない。当然ながら、男女のアレコレなどは一切なかったし、そんな雰囲気にもならなかったけど。


 そんな、戦友ともいえる手毬からのメッセージだ、いくら忙しい朝だとしても既読スルーなどできるわけもなかろう。


『ありがとう。ところで手毬は予備校どこにするか決まったのか?』


『・・・』


 しかしあちらに既読スルーされるとは想定外。


 ま、これでお分かりだろうか。

 手毬は俺と一緒に勉強したおかげで成績が上がった。というより俺が教えてた、というのが正しいなどとはあえて言わない。

 が、自分の成績が上がりすぎたせいで何かを勘違いしたのだろうか、無謀にも俺と同じTH大を受験してしまったのだ。


 結果、明暗分かれてしまい、今に至る。


 手毬的には滑り止めの大学など論外だったらしく、浪人して来年再チャレンジすることになったわけだ。無駄におとこらしい。


 ま、勉強でわからないところがあったら、協力するのもやぶさかではない。なんせこっちはもう受験地獄を味わうことなどなくなったわけだからな。ははは!

 これが勝者の余裕である。


 ……確かに、手毬がもしも一緒の大学だったら、少しは心強かったかもしれなかったけどな。なんせこっちは多少筋肉がついたと言えど、精神的にはヒョロガリのぼっちだ。同じ学部に知り合いなどいないということは、気楽な反面心細いところもある。


 それでも。

 自分なりに、何とかうまくやっていけたらいいなとも思う。今は暗いことは考えず、新しい出会いに期待しておこう。


…………


 そういえば。

 真尋も入学式きょうだったっけ、T女子大学の。


 しかし驚きだわ、高校三年になってから、真尋の成績もやたらと上がっていったのは。

 千尋さん曰く『人が変わったよう』とのことだったけど、何か思うところがあったのかねえ、あいつにも。


 俺は真尋にはノータッチだったから詳細は知らない。彼氏でもないし、すでに幼なじみの関係も破綻しているので。

 だいいち、勉強的にも物理的にも真尋に触れてしまったら、上方だろうが下方だろうが水上だろうが俺という空気男はチカン扱いされちゃうもんな。これぞ人間の化学。


 まあ、それはともかくとして。

 今はもうほぼ無関係だからこそ言えるのだが、真尋なりに頑張った報いとして、これからの大学生活の中で真尋にもささささささやかな幸せが舞い込んでくればいいな、とは思っている。


 …………


 それにしても、吉川家の学費枠は大丈夫なんだろうか。T女子大ってお嬢様がそれなりに通うそれなりの私立大学なんだけど。

 余計なお世話かもしれない、それはわかっちゃいるが、千尋さんが働きすぎて倒れないか心配。


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