その後の影響
そんな折、とつぜんライソが入って来たのでビビる。
『ちょっと、いつになったら要望言ってくるのよ! 何を言われるかわかったもんじゃなくて、夜しか眠れないんですけど!』
手毬からだ。
最近はインストグラムでレイヤーのエロい自撮りばっかり見ていたから、ライソの存在を忘れてたわ。素直に謝っとこ。
『すまん、存在を忘れてた』
『・・・』
おおう、返事がなかなか返ってこない。早々に既読スルーとはやりよるわ。
まあ、ちょうどよかった。なんだかんだ言っても真尋の件がどうなったのか気になるが、本人には聞きづらいし、親友であれば大体の事情は知ってるだろう。
『ところで、真尋と橋爪の件は、いったいどうなったんだ? サッカー部があんなことになったわけだし、真尋自身を追及されててもおかしくないはずなのに』
『あんた本当に都合のいい時だけ人に尋ねてくるわよね』
『なんだ知らないのか』
『知ってるわよ! けどそれについては書き始めると長くなるから、いまは説明しづらいかも。放課後時間ある?』
『今日は少林寺拳法の道場に向かう日だが、少しくらいなら時間は取れるぞ』
『テスト前だというのに少林寺拳法の道場? 余裕ね』
『もうヒョロガリとか陰口言われたくないからな』
『ごめん』
おっと、あてつけがましい言い方になってしまった。
まあいまだに吹っ切れてないことも確かだが、手毬を必要以上に責めたいわけでもないので、このへんでやめとこう。
『じゃあ放課後裏庭で』
『わかった』
手毬の返事は、少しだけディレイがかかっていた、気がする。
―・―・―・―・―・―・―
「結論から言うと、真尋に関しては特に何もなかったわ」
「なんでや?」
そうして放課後の裏スジ。俺みたいな陰キャが来やすいのでもうお約束となった集合場所である。アリのとわたりみたいな細い通路で立ったまま手毬と話す俺の言葉は、いきなりの疑問だった。
「あまりにも真尋が堂々としすぎていたからよ」
「……もちょっとくわしく」
「まあそうよね。ええと、サッカー部内の今回の当事者たちは、口裏を合わせて肝心な部分を知らぬ存ぜぬで通そうとしたみたいなの。でも失敗したわ」
「悪手も悪手、大悪手だな。誰かひとりでもドピュッと漏らしちゃったらすぐさまバレるじゃねえか」
「なんなのよその擬音」
「いやだって、『ポロっと』というのは意に反しておっぱいを見せるときの擬音だろ?」
あ、手毬が怒り顔になっている。セクハラはほどほどにしておこう。
「……まあいいわ。実際その通りで、『みんな全部しゃべったぞ』ってカマかけられて白状した人が何人もいたようね」
「だから下手に隠さないで白状しろと橋爪に言ったのに……」
「……そうなの? まあ、そういうことで、今回の事件にかかわった部員はおそらく強制的か自主的かはわからないけど、この高校にいられなくなるとは思うわ」
「ブラボー」
思わず北の将軍様みたいな拍手をしてしまった。これだけでも素晴らしい結果だ。地獄の軍団にも等しい、迫るファッカー部員がスクールライフから姿を消すだけでも、この高校の風紀と貞操はかなり守られることだろう。
だいいちシラを切り通したって、自殺未遂した生徒の意識が回復したら何もかもおじゃんだっつーのに、バカな奴ら。
「で、やっぱり、真尋にも聞き取りが行われたの。似たような被害に遭ってなかったか、って」
「ああ……ま、橋爪と付き合ってたって知ってる人多数だからな、それは当然か」
「うん。でも、呼び出された真尋は堂々と言い切ったみたいよ」
「なんて?」
「えーと、要約するなら『わたしはわたしの意志で橋爪くんと付き合って、わたしの意志で行動しました。だから、そのことを誰かのせいにしたくありません。自分の、他人を見る目のなさというものを反省はしてますが、結果としてわたしの身に起きたことはすべてわたしが責任を持ちます。だから心配しなくても大丈夫です』みたいな?」
「……真尋さんかっけー」
「ま、真尋本人がそうはっきり言い切ったこともあって、真尋の件に関しては特に追及されなかったようね」
思ったより俺の幼なじみは強かった。
「自分が橋爪にやらされたことを顧みれば、病んでてリスカしててもおかしくないのにな、すげえな真尋」
「……あんたの、おかげだって、真尋は感謝してた」
「はぁ?」
「真尋は、あんたに言われて目が覚めたんだってさ。好きという気持ちがあったからこそ、自分の意志で動いたんだから、それは自分のせいだって。それに、心の汚れに比べれば、洗えば落ちる汚れなんてどうってことないって。またやり直せるって」
「……」
いや、なんか俺は真尋に対して言ったこと、いいほうに曲解されてない? あれ、単なる当てこすりで言ったんだけどさ。
ま、いいか。別に訂正する必要もなかろうもん。ならお礼としてパイズリとかで当ててこすってもらおうかな、母親のほうに。
「この前、優弥を傷つけちゃったとき、実は最初にそういう話をしてたの。なのに、そのあとのあたしたち、本気じゃないにしてもひどいことを……あたしなんか、真尋のために何もしてあげられなかったのに……ほんと、自分が恥ずかしくなった」
「……ふん」
「本当に、ごめんね……」
「そういうことなら、まあ。俺の身にめんどくさいことが降りかからなかった対価として、忘れてやってもいいさ」
「……あり、がと」
ちょっとだけ晴れやかな気分。別にパイズリを想像しているとかじゃなくてな。
とにかく。
真尋の、恋心という錯覚に惑わされてその結果犬にかまれた出来事を他人のせいにしなかった、という部分だけは評価できる。これで懲りるかどうかはともかく。
強いオスってのは、メスのことを思いやらずに自分に服従させるオス、ってわけじゃないんだからな。
なんつーか、正直もう真尋に対する未練みたいなものはほとんど残ってないけど、この経験を糧として、真尋がもっといい男を捕まえられるならそれでいい、ってガチで思っちゃいますよ。
「おし。なら、これで俺の幼なじみとしてのお役目も御免ということで」
「……えっ?」
「少なくとも、真尋は今回の失敗をバネにして前を向こうと決めたんだろ? ならばもう俺の出る幕も破る膜もない。真尋が幸せになることを願うだけだ」
「……え? それであんたはいいの? 本当に?」
「いいに決まってるだろ」
「いや、でも、あんた、確か真尋が好き……」
「まあできれば相思相愛になりたかったことは事実だが、一回こっぴどくフラれてまで未練たらしく追いかけるのはただのバカだろ。だいいち好みじゃないとか生理的に無理だとかはっきり言われてるんだからな。世の中の半分は女だというのに、なんで真尋に執着しなきゃならんのだ。違う相手を探すほうが一万倍効率的だっての」
「……」
青春は短い。だからこそ
俺はそう信じてるぞ。
あと、できればユルユルのガバガバよりキツキツなほうが精神的な意味でいいもの。
俺は大きく伸びをし、決意した。
「うん、っと、あとはライソアプリをアンインストールしてすべて終了か」
「何でそうなるのよ!?」
「いやだってライソなんてオカンと真尋くらいしかつながってなかったし、手毬のことはさっき許したから何をしてもらうか伝える必要もないわけで、アプリ消していいかなと。漫画アプリにメモリ食いすぎてスマホのメモリがカツカツだからさ、ちょうどよかった」
「あんたねえ!! 少しは人の縁ってものを大事にしたらどうなの!?」
「大事にしてるから手毬の名前を覚えたぞ。よかったな、手毬」
「くううううう~~~~!! ほんと、話が通じないやつ!!」
その後、なんだか知らないが手毬の懸命な説得を受けて、いちおうライソアプリは残すことにした。インストは見る専だからそっちでつながる気はさらさらないしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます