フォームチェンジ・ノーマル
そうして帰宅すると、さっそくスマホを放り投げ、俺はベッドに横になる。
なんというか、疲れた。
確実に最近の出来事は俺の精神をむしばんでいる。
―・―・―・―・―・―・―
という訳で、夕寝して起きたら口の中がカラカラだった。
なおかつ常備してあるはずのライフガートを切らしているというタイミングの悪さ。
口の渇きをおさめるだけなら水でもいいんだが、それではやや味気ないので。
俺は仕方なしに、コンビニまでライフガートを買いに向かった。
そして、その途中。
「……あっ」
「げっ」
お互いに発せられる言葉が違っても、おそらく思いは似たようなもの。
真尋との遭遇。
しかし、今日の朝とは決定的に違う事があった。真尋の見た目だ。
橋爪と付き合い始めてあか抜けた色へと変化した髪の色が、元の黒に戻っている。
まあ、いいや。とりあえず話すことなどない、スルーを……
「……ねえ、優弥。手毬と……」
「うっせえな、他人の事かまってられる状況かよ、そっちは」
「……」
あ、しまった。反射的に返事しちまった。スルーするつもりがなあ、まあやっちまったもんは処女喪失と一緒で仕方ない。
どうせ手毬から連絡もらってんだろうし、そのことに答える必要性感帯は感じられないので、露出な、いや露骨な話題転換を試みる。
「……髪の色、戻したんだな」
「あ、うん……今日、行ってきた」
「つい最近色を抜いたばかりだというのに、どんな心境の変化だ?」
「……好みを、気にする必要、なくなったし」
「……あ、そう」
なるほど。
もう橋爪と別れたから、やつの好みの外見に変化させるような真似はしなくて済む、そういうことか。もしくは、橋爪みたいな人間の隣にいるということで、それらしい外見にする必要があったのかもしれないが。
すべては、好きになった相手に好かれるために。
だが、それはある意味、そこに自分はあるんか、と大○真央風味で尋ねたくなる案件でもある。
付き合う相手によって外見ばかりいろいろ変えても、中身はスカスカだ。たとえるならば、ジャンボパフェの底に大量にコーンフレークが眠っているような、もしくは更新されたウェブ小説の最新話の半分近くが評価クレクレ文で埋まっているような、そんな残念さに近いものを感じるわ。
「……ど、どう、かな? 優弥的には」
「んあ?」
「優弥から見たら、黒髪と茶髪、どっちがよかったかな、って……」
あほかこいつ。
「好きにすればいいだろが。というか無神経だな、なんでそんなことを俺に訊いてくるんだ? てめえが振った相手の好感度など、気にしてもしょうがないだろうよ」
「あ、ご、ごめん」
「だいいちそんなことは、他人の目ばっかり気にしてないで、自分で考えればいいじゃねえか。どんな格好しようが自分は自分だ、そのくらいの自由はあるだろ。自分で選べ」
俺がそう冷たく言い放つと真尋がおじけづくようなそぶりを見せたので、そのスキに俺は真尋の横を通り過ぎてコンビニへと入店した。
なんか、真尋と話をしてると振られたトラウマがよみがえってくるからむなしい。幼なじみとしての関係は終わったも同然だな。
いっそのこと、千尋さんを口説いて、幼なじみからパパにステップアップする道を選んでやろうかこんちくしょう。
―・―・―・―・―・―・―
そんでもって、数日後。真尋の様子の変化は少しだけ話題になった。わりとこの界隈は無駄な話題であふれている。
「なあなあ中西、やっぱり吉川さんが黒髪に戻したのって、橋爪と別れたからか?」
「知らね」
なんでそういうことだけ俺に訊いてくる、モブC男。お前と仲良く話した記憶ここ最近で全くないんだけど。席寄せて話しかけてくるの暑苦しいな。
「えー? でも前の茶髪系ギャルみたいなのもよかったけど、やっぱり吉川さんは黒髪清楚のほうがイメージとしてしっくりくるよな! 幼なじみとして、お前もそう思わないか?」
「別に」
「あーそうか、お前振られてるんだもんな、心中複雑ってか。まあ、それも青春だ、はっはっは!」
「何でそのことを知ってるんだ」
「そりゃそういう噂が広まるのは早いぞ、青春真っただ中の高校生はな! 大丈夫だ、お前の同志はいくらでもいるから!」
慰めにもなってない言葉を俺に向けながら、バンバンと背中をたたくモブC男、本当に暑苦しい。お前の熱量を俺に向けるな。心の中で℃男って呼んでやる。
というか、肩甲骨まで伸びた髪がもとの清楚系黒髪に戻ったところで、破れた膜は元に戻らないしガバガバになったマンピーの自慰スポットがキツキツにはならないんだよ。
あきらめて性祖系を目指すしかなかろう、真尋は。ピアス穴同様、アソコも何かをカンツーさせてなきゃ腐るかもしれんしな。
それとも腐る前に大豆を挿入して、おま〇こ納豆でも熟成させるのもありか。
…………
まあくだらん与太話ははおいとくとしても、だ。
お知らせ掲示板に、「サッカー部、無期限活動停止」とか出てたというのに、真尋にはとばっちりがいかなかったんだろうか。それが謎である。
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