どうするの?

 みんなが少女A自殺未遂の件に関して話をしているさなか、俺は全く別の事を考えていた。


 ──結局、多少話したところで、何かが劇的に変わるわけでもないんだな。馬鹿らしい。


 そんな厭世的な気持ちでいるHR前、どこからともなく真尋が現れる。


「……ねえ、優弥」


「……」


「ごめん。恩を仇で返すような態度をとっちゃって、昨日は本当にごめん」


「……」


 当然ながら俺のとる態度は、目線すら送らないシカト一択である。朝にもライソ送ってきて、うざいから全既読スルーしたあとにライソ抹消という手法で抵抗したのに。


 もう話はしないと宣言したにもかかわらず、なんでわざわざ真尋が来るのかわからん。

 相手をする気にもならんので無言のまま真尋を無視して寝たふりしたのだが、より大きな声で真尋は話しかけてきた。


「ねえ、あたしのことは許してくれなくていい。でも、お願いだから、手毬とは話してあげて。心にもないことを言ってしまったって、本気で優弥に謝りたかったみたいなの」


「……」


 どういうことだ。

 所詮俺なんか、ただのカースト底辺ヒョロガリのはずだろうに。

 心にもないことって、なんだ。実際に知り合う前から同じこと言ってたくせに。


「手毬、本当に落ち込んでて、取り乱してて、涙まで浮かべてて。いたたまれなかった」


「……うるせえよ。傷ついたのは誰だ。傷つけたのは誰だ。おかしいだろ、俺がモブA子を傷つけたような言い方はやめてくれ」


「……ごめん。でも……」


 泣けば許されるとでも思っているのか、女はいいな。俺だって昨日は泣きたいくらいだったよ。だがな、男が悲しくて泣いたところで誰も同情などしないばかりか、逆に言われるんだ。『男が泣くんじゃない」と。


 もう俺の相手をしてくれるのは小児しかいないのかもしれない。理不尽すぎてペドが出る。

 だから俺は怒るしかできないんだ。少しは仲良くなったかなと思っても、同学年相手だと結局ヒョロガリ呼ばわりなんだからな。


「もう話すことはないといっただろう」


 うずくまったまま俺は真尋を無視し続けた。いつの間にか真尋はいなくなっていた。



 ―・―・―・―・―・―・―



 ああクッソ、馬鹿らしい。もうどうにでもなーれ。

 もうこうなっては、誰かのために行動するのもバカのすることだろう。いちいちかまってられん。俺は自分一人のために生きるんだ!


 ……とか思っていたのに、なぜか俺は橋爪に呼び出され、昼休み裏庭に連れてこられた。


 昨日の続きだろうか? 殴られるのはイヤだが、殴られたら殴られたで乱痴気騒ぎしてやろう、胸ポケットに手を突っ込みながらも、そんなやけくそな心境である。


「……中西に、ちょっと聞きたいことがある」


「へっ?」


 しかし、橋爪の態度は、わりとしおらしいものだった。ちょっと拍子抜け。


「やべえんだよ、サッカー部が。事情を聴きたい、ということで放課後に全員臨時招集がかかった」


「……なんで?」


「自殺未遂しやがったからだ」


「誰が?」


「……真尋の前に、付き合っていた女が、だよ」


 あらまあ。詳しく把握してなかったけど、答え合わせが完了してしまった。ほぼ推測通りだったってすごい。


「ああ……やっぱり、あーいう事させてたんだね」


「……」


「自業自得じゃないの?」


「……」


 昨日殴ろうとしてた俺にここまで言われても静かにしている橋爪は相当追い込まれてるっぽい。ということは、自殺未遂に至った彼女のその理由が、学校側に大体把握されているっていうわけか。遺書でも残していた可能性。


 ……真尋まで飛び火、するかも。ま、それも仕方ないか。ガバガバ計画だもんな、もともとが。


「とにかく、ここまで来たら、二択迫られてるような感じだと思うけど」


「それはどういうことだ!?」


 うお、そこでいきなり食いついてくるということは、どうすればいいのかわからず俺に意見を仰ごうって考えてたとか?

 溺れる者はなんとやら、だな。今となっては逃げ場なんかないだろうに。


「素直に全部話すか、すべてに黙秘権を通すか」


「……」


 バカじゃん、なんで巻き込まれた被害者サイドの俺にそんなこと聞こうとするんだよ。言い換えればそこまで追い込まれてるだけなんだとしても知能が足りない。


「おそらくだけど、その自殺未遂した彼女が、外部からその理由を推測できる何かを残していたから、橋爪くんだけじゃなくサッカー部全体に招集がかかったんでしょ? だけど俺には、例えばハメ撮り画像とか、直接的な証拠があったかどうかまで学校側が把握してるかは分からない。文章だけかもしれない。だから、原因として関与していたであろうサッカー部に事情を聴いてみよう、ってなったんだと思う」


「……」


「学校側も、さすがに一方的に話を聞いただけでいろいろ処分とか下したりはしないはず。だから事情聴取されたうえで、サッカー部が悪いという明らかな証拠が残されてなければ、しらを切りとおすことは可能かもしれないけど」


「……なるほど」


「それでも一部をごまかして話すってのは悪手だと思う。辻褄合わせようとすると絶対にどこかでぼろが出るから。ということで一番簡単なのは、すべてを正直に話すか、一切何も話さないか、ってなる」


「……」


「ま、一切何も話さないってのは、全員で事前に口裏合わせておかないと不可能だしどう考えても無理だと思うから、俺としてはすべてを正直に話すほうが結果として罪は軽くなるんじゃないかと考えるよ。だから、黙秘権行使はお勧めしない。素直に罪を告白して楽になったら?」


「……」


 俺の言葉を受け、橋爪はなにやら考えてる様子だ。

 うーん、これはおそらく、部員たちで口裏合わせて何も話さない方向へ進むつもりだな。


「とりあえず、俺の意見としてはそんなとこ」


「……そうか。お前の意見参考にさせてもらう。悪かったな、助かるわ」


 らしくもない礼を残し、時間も惜しい、とばかりに橋爪は走り去っていった。


 俺はそこで、胸ポケットに入れておいたスマホの録音機能をオフにする。

 巻き込まれないような対策は大事。


 ま、学校が不祥事を表ざたにしたくなかった場合、守ってくれるかもしれんから、一縷の望みを持つがいいさ。自殺した生徒一人よりもサッカー部員数十人の未来のほうが大事だ、なんつってな。


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