しょせんモブはモブ、分かり合えるはずがなかった

 果たして手毬はまだ学校にいるのだろうか。

 まあ、ああいう手合いは、だいたい学校内で少しダベってから帰宅するものと相場は決まっているので、おそらくまだ教室にいる可能性大だろう、と推理してみる。


 うーん、いちいち手毬のところへ行くのも面倒だし、ライソ教えてもらったほうがいいのか……とはいっても手毬が俺とライソでつながりたいと思うわけもないだろう。無駄なことはやめる、それが俺のジャスティス。


 実際今回の件が落ち着けば平穏な状態でライソのやりとりする意味もないし。ま、いっか。

 さて、手毬の教室内は……あ、いた。人がほとんど残ってないから一目でわかった……って、真尋も一緒じゃん。なんか話し込んでるのか? 


 ピロートークかもしれない、聞き耳立てよう。ついでに百合フラグがどこまで進んだかも確認だ。


「……じゃあ、今日は気分転換に、カラオケでも行こっか?」


「ううん、今日はお母さんとお話しなきゃならないことがあるから、また今度で。ごめんね手毬、気を遣ってくれたのに」


「気にしなくていいよ! 真尋が少し明るくなったのならあたしはそれで」


「ありがと……うん、手毬にも、優弥にも、感謝してる」


「あたしは大したことしてないよ……ほとんど、幼なじみくんが、じゃないの? まあ、言動はけっこうきついとこあるけど、わりといいやつだよね、あいつ」


「……そうだね。ところで手毬、なんだか優弥と、仲良くなった……?」


「へっ!?」


「え、だって、なんか嬉しそうに話してるから……」


 なんだなんだ。真尋と手毬の話を邪魔しちゃいけないと思って遠くから見守っていたら、なんか不穏な話が聞こえてきたぞ。


 そこで手毬は慌てたように両手を顔の前でわさわさと振る。


「そ、そんなわけないじゃん! 真尋のことで少し話しただけだよ! だ、だいいちあんなヒョロガリなんかと仲良くなる理由が……」


「そうなの? まあ、確かに手毬の好みではないだろうけど……」


「い、いやいやいや、真尋の好みでもないでしょ!? 幼なじみってことだけは認めるとしても、さすがにヒョロガリは……」


「……ヒョロガリで、悪かったな」


「……えっ!?」

「え……? 優弥?」


 思わず、なんかイラっとして割り込んでしまった。突然のヒアカムズアニューチャレンジャーに、二人ともびっくりしている。


「な、なんでここに……」


「……いや……まあ、大したことじゃない。大体の事情は察したからもうの情報はいらない、ってことを伝えたかっただけだ。真尋ならともかく、モブA子とはライソでつながってなかったんでな」


「あ、じゃ、じゃあ、あたしのライソ教えるから……」


「いや遠慮しとく。もう俺みたいなざーこざこざこヒョロガリ君とライソでつながる意味はないだろ? だいいち俺とライソでつながってると周りに知れたらそっちもバカにされるだろうし、あとは面倒に巻き込まれなけりゃわざわざ互いに連絡をすることもないだろうし。モブA子はもろちん、真尋もな」


「あ、あの、ちがう、だからちがう!!」

「ちょ、ちょっとまって、優弥。今の会話は……」


 さすがにまずいことを聞かれたと思ってるのだろう、真尋はともかく、モブA子の顔があきらかなチアノーゼみたいになっている。なんでこいつは今さらこんなに顔を青ざめて必死に弁解しようとしてるんだ? 心底理解できない。


「今の会話は、なんだ? ただの本心だろう?」


「ち、ちがう! ちがうの!!」


「モブA子は浮気が見つかったどこかの主婦かなんかの真似か? なにも違わないよ。俺がいないところの会話で本心を隠すことなんてないだろうから、そういうことだろ」


「ち、ちが……」


「カースト最底辺の俺ごときが何度も話しかけて悪かったな、もう話すことはないだろうから安心してくれ。俺は来世にカースト最上位で生まれるためインドの山奥で修行してレインボーマンにでもなってくるから」


「優弥、お願いだから話を……」

「ま、待って待って待って!! 待って、よ……」


「待ってと言われて待つのは大統領じゃないほうのアミンだけだ。いや大統領ですらも待たずにサウジアラビアに亡命するだろ、誰が待つか。じゃあな」


 ふん、と鼻を鳴らし、俺はそのまま二人がいる教室を去っていった。


 そうだな、なんか俺も勘違いしてた。

 所詮あの二人にとって俺は、ずっとヒョロガリ扱いなのだということを忘れるくらいには。


 ──なんで俺は、モブA子に再度ヒョロガリって言われただけで、真尋に振られた時と同じくらいショック受けてるんだろう。クソが。


 そのまま、家に帰った俺は、スマホを投げ捨てて壁にたたきつけ、そのままふて寝した。そしてテストが終わったら少林寺拳法の時間を増やそうと心に誓うに至る。


 だが次の日、学校内が、『とある女子生徒が鬱になって自殺未遂したらしい』という噂でもちきりとなってしまった。

 勘弁してよ。


 ああクソ、めんどくさいことになった。おそらくはその女子生徒は、真尋の前に橋爪と付き合ってた彼女だろう、と推測余裕。間違いなく真尋でないことは確かだ。


 いいや、知ったことか。



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