モブとの作戦会議

 それでも会話は続く。


「ゆーて、俺は少なくとも真実の愛を失った真尋のことを責めるつもりはないし、なにより今一番つらいのは真尋だろ?」


「まあそれは間違ってないんだけど……あんた頭いい癖に人の心の機微に鈍すぎない? 真尋が気にしてるのは、自分のビッチっぷりが広まったりしたらもう学校通えない、広まっていたらどうしよう、って話よ」


「ああ、そういうことか! まあそれは大丈夫じゃないの? だってまだサッカー部員のフィールドメンバー11人すら全制覇してないんだろ?」


「ほんとナチュラルに悪態つくわねあんた」


「事実は事実だ。そして今んとこ、サッカー部員以外に股広げる要因ないし、まあサッカー部員が漏らさなきゃ大丈夫じゃね?」


「漏らしたらどうすんのよ!!」


「うーん、ゴムなしで漏らしたら受胎するかもしれないなあ」


「サイッテー」


「そうだな、責任も取らずに孕ませるのは最低だよな」


「あんた頭いいくせにほんとバカじゃないの!? 全く話が通じないんだけど!?」


「ああ、どこかで聞いた話だが、人間IQが20違うと話が通じないらしいぞ。そういうことだろ」


「……いつかしばいてやる」


 おかしいな。好感度どころか、モブA子まで敵に回したように思う。NPC相手といっても好感度下がりすぎたらほかの重要イベントが起きないかもしれない。

 真面目にやろう。


「まあ、それに関しては、真尋と橋爪どっちから別れを告げたか、によるが、一方的に真尋から別れたのであれば、腹いせにあることあること漏らされる可能性は少なくないのかもな」


「そうなったら『ないことないこと』まで脚色されて伝わるに決まってるでしょ、噂なんて」


「……それもそうか」


「そうに決まってるわよ。あーあ、もっと早くに止められていれば……」


 真尋の場合、おそらくあることあることが広まっても、世間一般から見れば超ウルトラレベルのビッチ革命だもんな。ビッチ界のジャンヌダルクになったところで、待っているのは火あぶりの刑。

 実際それくらいならまだまともなほうで、もしもビッチ界の豊臣秀次とかになってしまったら、ビッチタンパクだかビッチ関白だかは判別つかんけど、さらし首の上に家族まで犠牲になっちゃうわ。


 さすがに千尋さんも自分の娘が一生涯ビッチ呼ばわりされるのは嫌だろう。

 その悩みが原因で千尋さんのおっぱいが垂れたりしたら、これは性少年全体のお宝喪失である。性少年が喪失していいのは古今東西DTだけと決まっているのだ。


「……でも、さすがに橋爪が真尋に何をやらせていたか明らかになったら、サッカー部も橋爪自身もやばいことになると思うから、そうそう噂が広まるとは思えないんだが……」


「甘い」


 俺の予想は一刀両断された。モブA子のくせにやりおる。


「甘い、甘いよ。真尋にあんなことさせるような、頭にタラの白子が入ってるやつらだよ? そんなところまで頭が回ると思う?」


「……」


「むしろもうやらせてもらえなくなった真尋を逆恨みして、積極的に噂を広めていくやつもいるかもしれないよ? ハメ撮りとか、脅しネタを持ってるかもしれないし」


「……なるほど。俺には、のーみそがタラ白子な奴らの思考回路など理解できないから、その発想はなかった。さすがだなモブA子、見直したよ」


「あんたほんっっっっとうに性格ねじまがってるわねぇぇ!!」


「そうか……? 性格ねじ曲がってる……性格メビウスの輪。うむ、なんかそう表現するとかっこいいな。中二心がビンビンになる」


「……はぁぁぁぁぁ」


 おいモブA子、そこで呆れるような深いタメイキついて俺の中二心否定すんなよ。中二心は繊細なんだから傷つくぞ。


「……もういいわ。で、それを阻止するのはどうすればいいんでしょうかね、天災様?」


「てんさい、の漢字が違うように思えるが……その前にしなければならないのは、真尋のメンタルケアじゃね?」


「だからあんたはいい人とキ〇ガイを行ったり来たりするのやめて」


 原因がどうあれ、真尋が傷ついてるのは間違いないんだから、そこを最優先しないとどんなに対策練っても破綻するのは目に見えてるわな。


「うーん……ま、だからと言って押しかけてこっちから無理やりどうこうするのも問題だよなあ。本人が合わせる顔がない、って嫌がってるならさ」


「たしかに……」


「というわけで、真尋のかーちゃん経由でちょっと探り入れてみるから」


「……わかったわ。そっちは任せる」


 これは俺が適任だろう。というわけで、モブA子には別のミッションを。


「任せろ。じゃあその間、そっちはそっちで噂が広まっているか、もしくは広まるようなそぶりを見せているか、探ってみてくんない? 俺は友達少ないから、おおっぴらになってなければ探ろうとしてもからっきしだし」


「友達少ないのは納得だけど……うん、そうだね、あたしはあたしで真尋のためにできることをするよ」


 ナチュラルに毒吐き返された。が、これも真の友情か。うん、少し感動した。


「さすが友達だな」


「あんただってそうでしょ。大事な幼なじみである真尋のために」


「いや俺はどちらかというと真尋のかーちゃんのために……」


「別にツンデレみたいな照れ隠ししなくても……」


「してねえよ!」


「ああごめんごめん、そういうことにしとくよ」


 いやマジで千尋さんのためなんだが。割合的には千尋さん9:真尋1くらいなんだが、当社比。ああいいやもうめんどくさいからいちいち言わない。


 そんなこんなで作戦会議は終わったが、とりあえず、モブA子はわりと騙されやすいタイプなのかもしれないとは思った。真尋の類友だったりして。


 あと、最後に見せた笑顔がキモかった。


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