モブとの語らい

 俺は応援すると決めたってのに、真尋が橋爪と別れたのはなぜか。

 経緯を知りたくて真尋へとメッセージを送ったんだが、すべて既読スルーされている。


 二度とかかわらない、と宣言した手前、無視されても仕方ないとしても。

 いくら幼なじみだろうと、自分が振った生理的に無理な男からのメッセージにいちいち反応したくない、とか思われてたらショックではある。


 ただ、俺としてもあまりにも急な展開についていけなくて。このままじゃSNSとかで暴言吐いてしまいそうなので、これは真尋本人に直接問い詰めるしかないと思ったのであった。むろん、必要に迫られて仕方なく、だ。


 ま、そういうわけで、真尋のクラスまでやってきたのだが、肝心の真尋の姿はどこにも見当たらない。


 ──このクラスに知ってる人間もいないから呼んできてもらう事も出来ないし、詰んだかもしれないどーしよう。


 憔悴しながらきょろきょろしていたら、どこからともなく助け船が現れた。


「……真尋なら、休みよ。もう三日も休んでるわ」


「お、きみはたしかモブA子」


「誰がモブA子よ! 本当に失礼な奴よね、あんた」


「ほう、陰で俺をヒョロガリ呼ばわりするのは失礼じゃないのか?」


「だからそれはごめんって……で、真尋に用なの?」


「うむ。橋爪氏と別れたといううわさを聞いたので、あれほどまでに好きだった相手となんでこんないきなり別れることになったのか小一時間問い詰めたかったんだが、メッセージなんか返って来やしない」


「……やめてあげなさいよ。ちょっと、こっちきて」


「ほっ?」


 渡りに船というか、渡りにモブというか。

 腕をモブA子に引っ張られ、クラスから離れた場所へ連行される俺であった。俺はヒョロガリなんでモブA子に引っ張られても抵抗なんざできない。

 ちなみに、腕をとられてても当たってないぞ。モブA子はそれなりにボリュームありそうで、モブにしておくのはもったいないけど。


 しかし、真尋がもう三日も学校を休んでいる、だと……?



 ―・―・―・―・―・―・―



「……で、どうやって真尋を説得したの?」


「はぁ?」


 モブA子に連れてこられたのはまたもや裏庭だった。もう指定席だな。

 人目につかない場所で立ったまま、先制攻撃でモブA子にそう聞かれて俺は戸惑う。


「説得なんてしてないぞ」


「じゃあ、なんで真尋は突然橋爪と別れたの!? あたしたちがあれほどやめとけ別れろって言っても、頑として聞き入れてもらえなかったのに」


「俺はむしろ真尋を応援したほうだ。猛烈に感動したからな」


「……は?」


「だってそうだろう。あれほどまでに自分の身を犠牲にしてまで橋爪のために尽くしてたんだぞ? 本気で橋爪のことを好きだからこそできることだろ? まさしく真実の愛ってやつだ。だから、応援しただけだ」


「……」


 そこで真尋とのやり取りを、モブA子に記憶している範囲内で説明する。


「……というわけで、どんな二つ名をゲットしようが、自分の身がガバガバのユルユルのボロボロになろうが、全校男子を全員穴兄弟にする勢いで橋爪を支えてあげてくれ、ってな」


「……はぁ……」


 説明が終わるや否や、モブA子は深いため息をついた。


「さすがね、あんた。だてに真尋の幼なじみじゃないわ」


「ん? どゆこと?」


「要は、ダメと言われたら反発するだけだったって話よ。自分の行動を否定されたら、なにくそって意地になっちゃう。だから、あたしたちがあれほど言っても、真尋の心は逆に進んでいくだけだったのよね」


「……そうか?」


「なのに、あんたは真尋のすべてを肯定して、そのうえで自分がいったいどんなことをさせられてるかを再認識させた。そりゃ、自分がいかに愚かだったのか冷静に受け入れられるわよ。ほんと、上手」


「いやだから、俺は単に真尋の献身に素直に感動しただけで」


「謙遜しなくていいと思うけど?」


「……解せぬ」


「あんたって謙虚なのね。そういえば『俺が真尋のために何かしても他人に言うな』みたいなことも言ってたし……ちょっと、見直したわ」


 なんだかいいように解釈されている気がして不本意だ。

 だが、俺は俺で、最初は真尋の行動を止めさせようとしてたのに、真尋の真心に打たれて『とことんまで行け!』と応援する立場へと自分の進む道を180度方向転換させてしまったので、おたがい痛み分けってことでいいような気がする。


 そして、おまけとしてモブA子の好感度が少しだけ上がったようだ。

 ま、NPCの好感度上げたところでなにもメリットはない。というかNPCに好感度という概念があるのかすらも怪しいな。

 深く考えないでおこう。


「ところで、真尋が三日も休んでるって、やっぱりショックで、か?」


「そりゃそうでしょ。ショックからそうそう簡単に抜け切れるわけないでしょ」


「そっか、そうだよなあ……」


「もうね、あたしやあんたに合わせる顔がない、それにいろいろ言われそうだから学校にも行きたくない、って、そりゃ大変な鬱っぷりで」


「ん……? 自分が失恋したからって、なんで俺とかモブA子に合わせる顔がないんだ? 失恋が悲しすぎて学校行きたくない、とかならわかるけど」


「……え?」


「え?」


「……前言撤回。あんたやっぱり、ナチュラルにひどい奴だわ」


「……解せぬ」


 俺に対するNPCの評価、上がったり下がったりが激しいようです。激しいのはベッドの上だけにしてほしいもんだが。

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