外部からの余計なおせっかい

「で、俺にどうしろというわけです?」


 しかし当人が納得してる状況で外部の他人が口を出すのもどうなんだ。

 そう素直に思った俺は、モブA子に逆に問いかける。


「え」


「いやだってさ、真尋本人がそれでいいって言ってるんでしょ?」


「で、でも、いいように使われてるのは明らかじゃない! このままじゃ、真尋の身体も心もボロボロに……」


「むしろ、下手に口を出したら、『余計なことするな』って怒られそうなんですけど」


「ぐっ」


「お、どうやらすでにそうなった? つまり余計なお世話じゃないですかね。ハイ終了」


「で、でも、橋爪くんのやってることはただの鬼畜行為だよ!?」


「それはそうかもしれないけど、じゃあなんでそのことを俺に言うんです? もし本当に止めたいなら、学校なり先生なりにチクればいいのに」


「そ、それは、真尋が……さらし者になるようだから、ちょっと……中西だったら幼なじみだし、真尋を傷つけないで済ませられる方法とれるかもしれない、って思って……」


「なんやそれ。真尋にもその友人にもヒョロガリ扱いされてる俺にそんな真似できると本気で思ってる?」


「えっ……ちょ、ちょっと……なんでそれを」


「オメーらデカい声で三人集まって俺のことけなしてただろう。周りに聞こえてないとでも思ってるんか? バカかとアフォガート」


 ついつい怒りが乗ってしまった俺の言葉の意味を理解して、モブA子の顔面がアイスクリームにエスプレッソをかけたような色になっているよ、おもしれー。これが言いえて妙、ってやつだな。


 というか、こう言っちゃなんだが、真尋もモブA子も自分に酔ってるような気がする。好きな人に尽くすワタシ、友人を心配するワタシ、みたいな。

 酔いすぎて吐くぞそのうち。恥ずかしさで吐くかつわりで吐くかの違いくらいはあるとしても。


 …………


 でも確かに、モブA子が心配する気持ちもわかる。

 愛の形は人それぞれ、他の恋愛と真尋のそれが同じ物差しで測れるわけもないと頭では理解していても、現実、真尋が使い捨てされる未来が安易に想像できるわけで。

 それにもし俺が真尋の家族だったら、このことを知ったとき本気で止めるのは間違いないし。


 …………


 なんでここでこの前の千尋さんのおっぱいが頭に浮かんでくるんだろうか。

 めんどくさいこの状況から逃げて癒されたいからかな。


 ……あんなシンママにあるまじき張りのあるおっぱいを持つ千尋さんを悲しませるわけにもいかない、よなあ。


 しゃーない。首くくる前に腹をくくろう。


「……とにかく。現状を、真尋のためにどうこうというよりも、真尋のかーちゃんのためになんとかしてみるわ」


「え!?」


「一応、真尋のかーちゃんは俺のかーちゃんの友人だし、俺も知らん仲ではないし。その人が悲しむのは嫌なんでね。言っとくが俺のことをヒョロガリ呼ばわりした真尋やあんたのためじゃないから勘違いしないでくれ」


 この俺がツンデレみたいな言い回しをすることになるとは思わなかった。まあ本心なので別に訂正する必要はない。


「あ、ありがと……そして、ごめん……でも、どうするの?」


「まあ、俺はヒョロガリで武力で制圧なんてできないから、情報戦で行くしかないな」


「だから、ごめんって……」


「いいよもう。ま、このことがばれたら大学推薦どころじゃないことは明らかなんだから、橋爪本人を揺さぶるしかないか。ほんと頭悪いわ、穴兄弟何人も増やして外部にばれないと思ってたら本気で頭悪い」


「う、うん……」


 おお、この会話、俺が使える唯一の罵倒ワード『頭悪い』が最高に輝いてるぞ。ちょっと満足。


「それじゃまあ、さっそく橋爪に話を……っと、そうだ」


「どうしたの?」


「俺がなんか動いたってこと、真尋にはもちろん、他の人間にも絶対に言わないでくれないか。そう約束してもらえなければ、俺は何もしない」


「え」


「イヤなんだ、他人からあとでなんだかんだ言われるの」


「う、うん、約束する」


 というわけで言質はとりました。

 さて、勉強のお時間を確保するために、さっそく行動しましょうね。おしっこするためのシャーペン握るやつらと一緒にされたくないから。



 ―・―・―・―・―・―・―



 というわけでサッカー部の部室前まできたはいいが。


 冷静になれば、俺と橋爪の接点って皆無だった。しかもカースト最底辺である俺がいきなり話しかけたところで橋爪は相手してくれるだろうか。

 やべー、そこんとこ何も考えてなかったわ。さてどうしよう……


 とか思ってたらいきなり部室のドアが開いて、ご都合主義よろしく橋爪が一人で出てきた。まだ制服から着替えていない、トイレにでも行くつもりだったか。


「あ、あの、橋爪くん!!」


 思わず反射で呼び止めてしまった。


「ん? 誰だオメー?」


「あ、中西……といいます。あの……ちょっとお話が」


「なんだよウゼェな」


「あの……」


「用事があるなら早く言えクソが! こちとら漏れそうなんだよ!」


「じゃあ遠慮なく。橋爪くんが自分の彼女である吉川真尋を性的な意味でサッカー部員に貸し出して穴兄弟を量産しているだけでなく枕営業よろしく自分をキャプテンにする根回しをしている件についてお話が」


「!! ちょ、ちょっとお前!! バカ、こっちこいや!!」


 用件を伝えたら、すぐさま橋爪に引っ張られ部室棟の裏に連れていかれた俺であった。ヒョロガリだもの仕方ないね。


「だ、だれから聞いたお前は!! あれほど固く口止めしておいたのに!!」


 そのうえ、ありがたくない壁ドン食らいましたよ。普通ならときめくところかなこれ。いやビビるところ?

 しかし漏れそうなほどに青い顔している橋爪が滑稽でもう何も恐くない……あ、やべ、マミってしまうフラグを立てちゃった。


 まいっか。どうせマミるなら、言いたいこと言っちゃえ。


「いやいや、いくら口止めしようとしたところで、人の口にも下の口にも戸どころか膜すら立てられませんよ。立てられるのは股間の可愛いコックさんくらいでしょ」


「……」


「ねえ? こんなことバレたりしたら、大学推薦どころじゃないですよね?」


「なんだと……まだ半分も済んでないのに……なんでバレてる……」


 なんと返していいのかわからんつぶやきキタコレ。

 このまま放置したらサッカーフィールドに立つ11人全員が穴兄弟とか恐ろしいことにならんか? それはそれでアイコンタクトとかうまくなりそうだけどさあ。


 というか真尋ったら、つい最近まで処女だったはずなのに、もうすっかりベテランさんね! ああもう真尋のことなんか本当にどうでもいいわ。

 あくまで今回俺が動いているのは千尋さんのため、千尋さんのため。


「ま、そういうことなんで、ことが大きくなる前に橋爪くんは自制したほうがいいんじゃないかっていう提案を……」


「もう駄目じゃないか!! ファッカー部に無関係なお前まで知っているんだろう!?」


 自分でファッカー部とか言っちゃったよこの人。自覚症状はあるんか、末期だな。

 うん、これで橋爪という存在が真尋のためにならないってこともはっきりしたかも。


 では続き。


「……いやそこまで広まってないってば。俺はまひ……吉川さんと幼なじみだから勘付いたってだけで」


「本当か!? その言葉に嘘はないな!?」


「うん」


「そ、そうか……って、真尋の幼なじみ?」


 あ、橋爪の俺を見る目がちょっと怪訝そうに変わっている。地雷踏んだか?

 べつに俺と真尋の間には何もなかったから、勘ぐられても痛くはない……


「ああ! お前か、真尋に告白してきたキモいヒョロガリ男ってのは!」


「ぐっはっっっっ!!」


 痛すぎ。クリティカルダメージだ。

 ヴォーパルバニー真尋め、俺の黒歴史なんで漏らしてくれちゃってんの!!

 クソすぎんだろ!! バツとして後ろも使い込まれてクソ漏らすくらい緩くなっちゃえ!!


「そうかそうか、なら話は早い」


「……へっ?」


 だが、ここで橋爪は悪い笑顔を浮かべてきた。

 俺の顔よりこっちのほうがキモイと思うんだが、だれか街頭アンケート取ってくれませんかね。


 おまけにこの後、衝撃の発言が。


「なあ、おまえ……真尋のこと、好きなんだろ? じゃあ、口止め料としてお前にも真尋を貸し出してやるよ。俺のお願いなら何でも聞くからな、真尋アイツは」


「……破? 葉? 歯?」


 えっちょっとまってなにそれ頭がフットーしそうだよお。


 …………


 いやでもさすがに、『生理的に無理な俺の相手をする』なんてお願い、真尋が聞き入れるはずないでしょ。浅慮過ぎて笑えるな。必死か。

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