これが穴だらけってやつか……!
シンママ二人を黙らせた次の日、登校途中で真尋に遭遇した。
「あ、優弥! ありがと!」
「はい?」
顔を合わせるなり礼を言われたので、心当たりがなさ過ぎて戸惑う。
「相談に乗ってもらった次の日、『わたしって、やりたいときにやれるだけの、ただの都合のいい女なの?』って遊助に訊いてみたんだ。そうしたら、『俺がわるかった、ごめん』って謝ってくれたの!」
「ああ……そういうこと」
そこでようやく納得した俺だが、そんな俺の様子などまるで気にも留めていないのだろう。
「それで、わたしも許しちゃった。ちゃんと反省してくれるんだから、やっぱり遊助、立派だなって」
「ああそうだね立派だねー」
「でしょ! だからわたしも、これからも求められたら拒否しないって、決めた!」
「……ああん?」
「だって、ちゃんと謝ってくれたんだもん。わたしのこと、ちゃんと気遣ってくれてるんだから、わたしも自分のできることでそれに応えなきゃね!」
「……」
棒読みセリフで相槌を打つ気にもならない真尋の言葉であった。愛は盲目というのか毒を食らわば皿までというのか、はたから見るとわかんねえぞこれ。
しっかし真尋って、骨まで愛するタイプだったんだな。
だからって骨がなくてもカタい部分のカタヌキにとことんまで突き合うレベルでほだされる必要なかろうに。
ま、なにが幸せかなんて、本人にしかわからんわけで。
いいや、ただのノーテンキならば害はそれほどない、ほっとこう。脳梅毒でないことだけを祈っとく。
―・―・―・―・―・―・―
さて、今日も無事学校が終わった。だがもう少しで中間テストの季節だ。
道場通いを始めたおかげで少しだけ勉強時間は減ったが、だからといって試験順位を下げるわけにはいかない。
まあ、これは俺のちょっとしたこだわり、ってなだけではある。
私立の進学校とかなら成績がカーストに直結するんだろうが、残念ながら普通の公立高校ではそうはならない。
むしろ「また赤点とっちゃったよー」などとテストの不出来を自マン毛に言うやつばっかりで
そんなこと躊躇なく言う位なら、いっそのことぜんぶ剃ってパイパンにすればいいのに。そうすりゃ少しは恥じらいってもんも生まれるだろう、うんうん。
さあて、馬鹿どもに差をつけるために今日のところは早く帰って……ん?
「ね、ねえちょっと、中西……話があるんだけど、今、いい?」
鞄を右手に持ち席を立とうとしている俺のもとへ、一人の女子生徒が近づいて話しかけてきた。
こいつは……忘れもしない、この前俺のことをヒョロガリ呼ばわりしたモブA女子だ。当然ながら名前など憶えていない。所詮わき役だしな。
「そうですか、わかりました。じゃ、さようなら」
「ちょちょちょ!? 話があるって言ってるでしょ、なに帰ろうとしてんのよ!」
「俺には話をしたいことなど皆無ですよ?」
「いいからちょっと来てよ! 真尋のことなんだから!!」
「……はあ?」
なんなんだいったい。
ラブラブ報告受けて以来、真尋は橋爪と相変わらずなかよしりぼんちゃおしてるようだし、別れたとも聞いてはいないけど。
このモブA、なんだかんだ言って真尋と仲がよさそうだしなあ。
仕方ない、話だけでも聞いてやるか。
―・―・―・―・―・―・―
というわけで裏庭に来た。中庭だと人が多いからゆえの場所のチョイス。
まあ、色気のある話じゃないって分かり切っているので、少しだけ身構えてモブAに尋ねてみる。
「で、真尋の話って?」
「う、うん……あ、あのさ、言いにくいことなんだけど、真尋、いますごくひどい目に遭ってるの」
「は? どういうこと?」
「実は、ね……橋爪くん、サッカー部でがんばって、スポーツで大学推薦を狙ってるんだって」
「ほう……」
「それで、その推薦枠をゲッツするには」
「なんでそこだけダンディになってんだよ」
「キャプテンにならないと難しいんだって」
クッソ、モブA子め、俺のツッコミを華麗にスルーしやがって。それだけが悲しい。
ま、確かにヒラ部員じゃ、サッカーの才能がよほど突き抜けてないと推薦枠に入るのは難しいよな。それはわかる。ゲイの道もNLの道も一発屋じゃ厳しいんだ。
橋爪程度の人間でも、それなりに将来について考えるところはあったってわけか。
ゆーて、うちの高校からのスポーツ推薦枠って、以前ヤリサーがらみの超特大不祥事起こして偏差値ダダ下がりした
「で?」
「うん、それで……えっと……」
そこで一気にモブA子の歯切れが悪くなった。
「時間もったいないから、早く言ってよ」
「うん……それでね、二年になったら自分がキャプテンになれるように、って……先輩とか、サッカー部の人たちに……」
「……まさか」
「……うん。真尋を……差し出してるって」
「それは性的な意味でか!?」
「それ以外に何があるっていうのよ!!」
うっわーーーー!!
なんだよなんだよ、高校時代から枕営業とかふざけたことやってんじゃねえぞファッカー部!!
「何でそんなこと、真尋はがまんしてんだ!?」
「え、で、でも真尋は、確かに悩んだみたいなんだけど、『これが遊助の将来のためになるなら、わたしが少しくらい犠牲になっても構わない』、って……」
「なんという間違えた愛情」
まさかあのとき受けた相談の百歩くらい前衛的な展開になってるとは思わなかったよ、さすがに。いやー、真尋ってば尽くす女だったんだな。
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