生誕のヒミツはないしょの予習
「ねえお母様」
「ん?」
「俺の父親って、どんな人間だったん?」
「男のクズ、いいえ、人間のクズみたいなやつよ」
そういえば俺、オカンから父親に関して詳しく聞いたことないや。
というわけで帰宅してから改めて聞いてみたら、ものの十秒で会話が済んだ。
いやいやいや、そこで納得しちゃいかんでしょ俺。
「も少し具体的にオナシャス」
「語りだしたら完徹覚悟になるけど、いい?」
「おやすみなさい」
「あら残念。まあとにかく、優弥。あなたは勉強だけはきっちりやりなさい。そうすれば将来、絶対に人生の勝ち組になれるから」
「今勝ち組になりたいんですけど、どうすればいいですか」
「……」
「勉強ばっかりしているせいでヒョロガリとか嬉しくないあだ名付けられて、高校生になっても成績とはうらはらにカーストは最底辺なんです」
「……」
ここで俺を納得させられないあたり、うちのオカンもたいがいである。まさか俺は体外受精で生まれた子じゃあるまいな、と自分の出生の秘密を勘ぐってしまうレベル。
ま、冗談はともかく、父親に関しては大体推測可能だ。
多分うちのオカンも、千尋さんと同じようにろくでもない男に捕まって苦労したクチなんだろう。おクチだけで済ませておけばよかったのにねえ。
それでも、女手一つで俺を育ててくれたことには感謝しかないわけだし、決して追い詰めたいわけじゃないから、このあたりで引いておくのが正解だよね。
―・―・―・―・―・―・―
そうして次の月曜日。
帰宅したら、オカンにいきなり詰め寄られた。
「ちょっと! 優弥、真尋ちゃんに彼氏ができたって本当なの!?」
「はい?」
オカン越しにリビングを見ると、千尋さんがいる。なるほど、どうやら千尋さんから聞いたらしい。
「俺は詳しくは知らないよ。真尋と話とかほとんどしてないし」
嘘であり、本当でもある逃げ口上。
だがオカンは納得いかない様子だ。
「なんてことなの……優弥を成績優秀な高学歴優良物件に育てて、真尋ちゃんとくっつけて幸せにさせるという私たちの野望が……」
「おいこら待てよそんなこと考えてたんか!!」
とんでもないカミングアウトしやがったよこのオカン。口が潤い過ぎて滑ったか。
つーことはなんだ、俺が真尋を好きになったのも、この二人の思惑通りだったってわけ?
ちょっと持病のシャクに障る。皮肉ってやろう。
「ということは、真尋はその思惑から外れたから、幸せになれたわけじゃないんでしょうか」
「……幸せ、ねえ……?」
俺が精いっぱいの嫌味を返すと、それを聞いた千尋さんが頬杖を突きながらため息交じりに言葉を漏らす。おまけに乳でかいし、アンニュイ千尋さんも無駄に色気があるから困るなあ。学生時代は何人の男が泣かされたのやら。
「好きな人と付き合ってるんですから、幸せでしょう?」
「……その好きって気持ちも、どこまで本物かしらね」
「好きに本物とか偽物とかあるんすか?」
「……」
オカン同盟はそこで黙り込んだ。高校生に論破されてどうする。亀の頭より年の劫、って言葉はもう少し老いないと適用されないんか?
だが、なんとなくは理解できたわ。
要するに二人とも過去の自分と真尋を重ねてるから、今後真尋がどういう目に遭うか予想できちゃってる、ってことだよな。
ま、恋愛ってのは経験して分かることも多いのだろう。オカン同盟の皆様(暫定二人)もそうだったんだろうし。
予想以上の痛い目に遭わなきゃ、せいぜい使い込み過ぎて黒ずんだりする程度だし、笑って許せる過去になる、でいいんじゃね。
──予想以上に痛い目に遭わなきゃ、な。ま、俺は無関係。
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