なんで俺がヤリヤリカップルのお悩み相談に乗らなきゃならんのだ

 そうしてライフガードを購入してコンビニを出た直後に、なぜかよれよれになってる私服の真尋に遭遇した。


「よう、おばさんが心配してたぞ。遅くなるならちゃんと連絡すれば?」


「あ、優弥……」


 なんだろうな。千尋に優弥って名前を呼ばれるたび、そこに『ヒョロガリ』というルビが振られているかのように思えてしまう。ああトラウマですよ。

 まあいいや、ほっといて帰宅しよう……と思ったら、くいっと真尋にシャツの裾をつかまれた。


「何よ?」


「あ、あの、相談に乗ってほしいんだけど……」



 ―・―・―・―・―・―・―



 というわけで、帰る途中の公園に寄って設置してあるベンチに離れて座り、真尋の話を聞かされるハメになった。こんなハメ技は勘弁してほしい。どうせなら松葉崩しとか駅弁とかのハメ技にしてくれ。


 本格的に付き合うつもりはサラッサラのサラ〇ーティレベルで持ち合わせてない。とっとととととと終わらせてライフガードを一気飲みしたあと満足げにゲップしたいんだ俺は。


 ……ということはつまり、今の真尋の存在は、俺にとってゲップ以下というわけか。笑える。ゲップだかリボ払いだか知らんが、マッハで終わらすに限るな。


「で、相談って何?」


「う、うん。あのね、なんか、最近、遊助と……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「なんも言わないんなら、帰るわ。じゃあな」


「あ、ちょ、ちょっと待って!」


「……わかったよ」


「うん、ごめん。あの、あのね、それで、最近、遊助と、一緒にいても、なんだか、いいように扱われている気がして……」


「……もっと具体的に言ってくんない?」


「あ、だから、あの、遊助と、いっしょにいても、その、アレ……ばっかりで」


「……ああ」


「それが、なんだか、わたし、都合のいいヤレる女、みたいに、なってるのかな、って」


 ふんふん。


「つまり、真尋は橋爪が会うたびにセクロスばっかりしてくるから、本当に自分のことを好いていてくれるのか疑わしく思えてきたってわけか」


「そう、そうなの!」


「ふーん。で、そんな橋爪のことを真尋は嫌いになったんか?」


「……えっ?」


「もともと、真尋から迫って付き合うようになったんだろ? ならば一番大事なのは真尋が橋爪のことをまだ好きかどうかじゃないの?」


「……」


 塩対応になってしまうのは致し方あるまい。

 なんせ、真尋にとっては俺なんぞ男として対象外なヒョロガリにしか映ってないんだからな。だからこそこんな相談持ち掛けてくるんだろ。


 ああむかついた。


「ついでに言うなら、橋爪とセクロスすんの、真尋は嫌なんか?」


「え……」


「俺みたいなヒョロガリで男として見られないやつとセクロスするより、何万倍もいいだろうに」


「!!」


 真尋の顔色は、公園が暗いせいでよくわからない。が、そこで言葉を失ったことから、様子は察せる。


 ふん。聞かれて困ることなら、自分の口から言うんじゃないっての。


「いやなら拒否すればいいだろ。それをその場で拒否しないってことは真尋が同意したも同然。あとからいろいろグダグダいうのはルール違反」


「で、でも、もし拒否して嫌われたりしたら……」


「そのくらいで真尋を嫌うようなやつなのか、橋爪は?」


「……」


 そこで夜の公園の静寂がひときわ目立った……かと思ったら、どこからともなく切なそうな声が聞こえてきて反射的にツッコんでしまう。


「クソ誰だよこんな住宅地のど真ん中にある公園でアオカンしてるバカップルはよ!!」


『とっても大好き(はぁと)』


「なんだネコの交尾か」


『ツルっとカメが入っちゃう~』


「カメはマンねんですな」


 猫(仮)の鳴き声が自己完結したせいで我に返った。これ以上ここにいても仕方ない、帰ろう。


「……何も言うことがないなら、これで。じゃあな、真尋も早く帰っておばさんに謝っといたほうがいいぞ」


「あ、うん……ありがと」


「どう板橋区」


 ちょっと呆然としている真尋をベンチに残し、俺はライフガード片手に家へ向かった。


 あと、真尋。忠告しておくが、ネコの交尾はのぞき見しないほうがいいと思う。



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