見た目の変化は男で決まる

「あたたた……」


 まるでケソシロウのような声を上げつつ、少林寺拳法の道場をあとにして帰宅する俺。うん、いままでのーみそ一発で学校という荒波を乗り越えてきた俺に向いてないことくらいは百も承知だ。


 ま、なんつーか、半分くらいは意地だな。いつか北斗神拳をマスターしたら、まずはあのモブA子とモブB子を穴だらけにしてやりたい、ってだけ。

 目指せ、カースト最底辺からの下剋上。


「……ん?」


「あ、優弥……」


 体内の乳酸を刺激しないよう、年寄りみたいにそろそろと歩いていると、家の近くで偶然真尋に出会った。

 しばらく見ないうちに制服のスカートが短くなっちゃってまあ。しかも髪の色まであか抜けてる。お、本当にピアス穴が開いてるぞ、耳に。


 もう俺が愛した純情そうな幼なじみはこの世にいないんだな、と思うと悲しさ半分こいつどうでもいいや半分ですってね。


 なので、いちおう捨て台詞。


「噂で耳にした。橋爪と付き合ってるんだって? おめでとうな、幸せになってくれ」


「う、うん! ありがとう! ちょうどいま、遊助の家から帰る途中で……」


 だれも真尋の今日の行動なんて聞いてないから。社交辞令ってもんを理解しろよ。いやまあそれはおいとくとしても、もう遊助って呼んでるし。はいはい、仲がいいんですね。それともナカがいいのかな?


「幸せそうで何より。つーか、なんか生臭いけど大丈夫?」


「え、ほ、ほんと!? やばいなあ、髪にかけられたの、一生懸命拭いたんだけど、やっぱとれないかあ……」


 ぐはっ。

 もうどうでもいいとか思いつつ、腹が立ってついついでまかせ言うんじゃなかった。心当たりがあったとは。なんとなくNTRというかBSSっぽいモヤモヤが心に浮かんできて、今日のGタイムがはかどりそう。


「……病気と妊娠には気を付けて」


「そこは気を付けてるつもりだから大丈夫。あ、あの、ママには言わないでね」


「……なにを?」


「遊助と、つきあってるってこと……」


 阿呆か。そこまで劇的な外的変化見せておいて、おばさんが気付かないわけないでしょーに。というか内緒にするのは付き合ってることだけでいいんか? 髪の毛におたまじゃくし飛ばされてることは言っていいんか?


「……話す機会もないし、言わないよ」


「うん、よろしくね。じゃあね!」


「……」


 ま、今が幸せの絶頂期に違いない。はたから見てると危ないことこの上ないけど。

 あるあるだよなあ、付き合う男の趣味で外見とか着る服が変わる女。


 しかしそこで思う。

 果たして真尋は、いつまで橋爪と付き合うつもりなんだろうか。いやだって冷静に考えて、橋爪って勉強はからっきしだから、おそらく高校卒業したらそのまま就職だろ? しかも素行の悪さからして、一流企業に就職とかハードル高いよな?


 ……いやいや、俺が心配することじゃないか。それは真尋が決めること。高校時代だけと割り切って付き合うだけなら、大体の黒歴史は青春の1ページでかたがつくのだから。


 まあこんなことを考えてる俺もたいがい失礼な奴であることは認める。

 だが、高学歴がすべてと刷り込みされた俺は、そう思い込むしかできないんだよ。





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