第34話 最強達の観光ゲーム
「それじゃあ、いつものやろうか」
ガンマさんが一声上げると、その場の全員が拳を前に突き出した。
「カイト、これ何なんだ?」
「観光と共にもう一つのお決まり。観光にかかった費用は、じゃんけんに負けた一人が全額支払う! みんなじゃぶじゃぶ金を使うから、負けたら大損だぞ~」
……やはり、Aランクはイカれた思考の奴が多いのか? じゃんけんの敗北者が観光費全額奢るとか常人の思考ではないだろう。
というか、風見原フーコ、お前は沢山金持ってるだろ。こういう時こそ貴様が奢れよ。
「よし、じゃあ行くぞ! さーいしょーはグー!」
全員が拳を前に突き出し、物凄い剣幕でにらみ合う。Aランクの剣幕の無駄遣い極まれりだな。
だが、ここで負ければ大損決定。金欠故、敗北だけは何としても避けなくてはならなかった。
……よし、我はグーを出そう。これに全てを賭ける!
「じゃーんけーんポン!!!」
全員一斉に高く上げた腕を振り下ろした。決死の戦いの結末は――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ん~! このソフトクリーム超おいしい!」
「今日はボロス君の奢りだから、沢山食べろよ!」
負けた。思いっきり負けた。
何なら初戦で全員に負けた。何で我以外全員パーなんだよ。皆我の事嫌いか?
「ボロス、ドンマイ……」
「負けてしまったものは仕方ない。お前も食べろ、カイト」
カイトが気を遣って話しかけてくれるが、その表情には「俺じゃなくて良かった~」という思いがにじみ出ていた。
まだ一店目、皆ソフトクリームしか食べていないが、七人分ともなれば中々の値段となる。
これはまだまだ前哨戦、これからもっと浪費することになるだろう……。
「ねぇねぇ、そろそろお昼だしさ、どこで昼ご飯食べるか決めない?」
十一時半を過ぎた頃、アンナが声を上げた。
「ワタシ寿司食べたいデース! 日本の寿司はベリーヤミー!」
真っ先にライトが寿司をオーダーした。自己紹介でも言っていた通り、相当寿司がお好きなようだ。
だが、横浜はどの店も値が張ると聞く。そんな中での寿司と来たら、一体何万円消し飛ぶのやら。正直、できれば遠慮したかった。
「俺は何でも良いぞ。皆が行きたい所で構わない」
「私はそうね~、フランス料理が良いわ! 勿論最高級の!」
「流石にあんまり高いのだとボロスの財布が辛いだろうから……、俺は遠慮してハンバーガーで良いかな……」
「……
待て待て待て。全員高そうな奴しか言わないじゃないか。コイツら、我の奢りだからって好き放題しようとしているな。
まだマシなのはカイトのハンバーガーとダイゴのうどんくらいか。だが、折角ならばここでしか食べられない物を食べたいという気持ちもある……。
……あ、そうだ。あそこがあるじゃないか。
「すいません! 丁度良い店を思い出したので、そこに行ってみませんか?」
高級店に決定される前に、我は急いで宣言した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「へいらっしゃ―――って、兄貴じゃないっすか! 本当に来てくれたんすね!」
咄嗟に思い出したのは、会場に行くときにお世話になった弟分ニキ—――風斗さんが営むという「豆腐専門店ふうと」だった。
豆腐屋という、普段は中々行こうとは思わないような変わり種であり、かつ値段も最小限に抑えられるはず。我ながらコブリン並の完璧な策と言ったところか。
「さっきのお礼も兼ねて来ました! あと、Aランク全員で来たんですけど、席空いてますか?」
「兄貴の頼みっす! まだ開店して間もないですし、今日は貸切にしますよ!」
風斗さんの計らいもあり、我らは無事に食事処を抑えることに成功した。
「トウフってあの白くて四角いヤツですよね? ワタシアレ好きです!」
「ボクも豆腐をメインで扱ってるお店は初めてだなー。何だか期待しちゃう!」
「……大豆加工食品」
ほぼ全員反応は良好みたいだ。ただし、例外が一人。
「豆腐って庶民の食べ物じゃないの? 私の口には合わないでしょ」
この女はいつも癪に障ることを言うな。本当に
「誰だ、豆腐を侮辱したのは……って、アンタは確か、風見原フーコことガチ恋ネキ! いっつも兄貴に粘着しやがって、現実でもネットでもリテラシーってもんが無いのか⁉」
「アンタまさか、弟分ニキ? 勝手に弟分を名乗るだけでみんなから持ち上げられて、それで楽しいわけ? アンタこそ、ボロス様に構ってほしいだけのカマチョの癖に!」
「何だと! お前豆腐だけじゃなく俺も侮辱したな! 侮辱罪で訴えるぞ!」
あぁ、弟分ニキとガチ恋ネキの喧嘩が始まってしまった。二人の相性悪そうだなと考えていたが、やはり相性最悪だったようだ。
その後しばらくして、フーコは店を追放され、出禁を喰らった。奴は放っておき、我ら六人で豆腐食を楽しむことにした。
「へいお待ち! 豆腐とじゃこのサラダに、豆腐ナゲット、豆腐ステーキだよ!」
風斗さんが全員に豆腐料理を振る舞う。全て同じ豆腐を使っているはずなのに、全く別の料理に昇華されていた。
「おお! このナゲット美味いぞ!」
「サラダもヘルシーなのにすごく美味しい!」
「このステーキ、最高デース!」
「……美味」
我も一口食べてみて、その美味しさを実感した。どれも美味しいのだが、それぞれベクトルが違うというか。同じ豆腐なのに個性が輝いていた。
風斗さんの手腕、恐るべし。
というか、ダイゴは顔にも鎧を着けているのにどうやって食べているのだ。一応口の部分は開いているみたいだが、流石に狭くないか?
「豆腐料理、正直侮ってました。安いし美味いとか、最高じゃないですか!」
「そう言っていただけて嬉しいです、ガンマさん!」
特にガンマさんは豆腐料理に激しく感化されたらしく、風斗さんと硬い握手を交わしていた。まあ、そこまでほれ込むのも分からなくはない。それ位の美味さがあった。
「風斗さん、ありがとうございました! めっちゃ美味しかったです!」
「こちらこそ! 兄貴に料理をほめていただけるなんて、俺今日で死んでもいいっす! 本当にありがとうございましたー!」
風斗さんへのお礼を言いながら、店を後にする。
その後、高級フランス料理店でパスタを啜っていたフーコを回収し、七人で横浜を観光して回った。
正直言って、楽しかった。新しい発見も色々とあり、人間について少し詳しくなれた気がした。
ちなみに、途中から奢りの事を忘れて散財しまくったため、出費が十万円を超えてしまったのは、また別の話である……。
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