第33話 最強達の集会

「それでは、今日は初めて集会に参加する新しいAランク冒険者もいるようだから、全員の自己紹介から始めようか。ちなみに私は、ギルド省大臣の宇賀神だ。よろしく」


 スーツの男―――宇賀神が名乗った。それに続いて、ガンマさんも立ち上がった。


「ボロス君はもう知ってるだろうけど、一応。俺は轟ガンマ、職業はダンジョン配信です。Aランクの代表として、今回の集会でも積極的に発言しようと思うのでよろしくお願いします!」


 ガンマさんは集会の場でも相変わらずだった。だが、周りの様子をうかがうに、やはり皆から頼られているように見える。


「次は俺っすかね。七海カイトです! 職業は冒険者の他に、ジェットスニーカーズというバンドのボーカルをしています!」


 カイトも続いて名乗りを上げ、その次に立ち上がったのは忌々しいあの女だった。


「私はボロス様に名乗るまでもないと思うけど、やっぱり将来の正妻になる女の自己紹介は聞いておきたいわよね? 私は風見原フーコ、ダンジョン配信者よ! そして言わずと知れた風見原財閥の令嬢! よろしくお願いしますわぁ!」


 やはり何度聞いても此奴の喋りだけは本当に気持ち悪い。そろそろいい加減にしてほしい。


「フーコ、ここは集会の場。言葉は慎みなさい」


 宇賀神さんも流石に問題に思ったようで、フーコに釘を刺す。それを聞いた彼女はむすくれた様子で席に座った。

 さて、ここからは初対面の冒険者達だな。


「初めまして。ボクは森崎アンナ! 冒険者と、新宿で花屋やってます! よろしくです!」


 薄緑と黄色が混ざった特徴的な色合いのショートボブをした、身長の低い女が名乗った。ぶかぶかのパーカーという服装も相まって、子供っぽい印象を受けなくもないが、そのオーラから確実に強者であると分かる。


「次はワタシでしょうか? ワタシはライト・ミラーです! 出身はアメリカです! 日本のダンジョンと寿司に憧れて来日シマシタ! ヨロシク!」


 次に立ち上がったのは、サラッとした濃い黄色の髪と透き通った青い瞳を持つ、長身の男だった。アメリカ出身の冒険者とは、珍しいな。

 海外には魔法や魔物こそ存在するものの、我のような魔物を従える知能の高い魔物がいなかったため、魔物は野生動物のような立ち位置にあると聞く。勿論、ダンジョンも無い。

 そのため、海外の人間の魔法練度は日本人には到底及ばないとされているが、珍しい者もいたものだ。

 そして最後の人間。全身に鎧を着こんだ、明らかに怪しい男だった。


「……荒岩ダイゴ。よろしく」


 全身を鎧に包んだその男は、それだけ言って黙ってしまった。とことん不気味な奴だ。


「それじゃあ最後、自己紹介を」


 宇賀神が最後の我に自己紹介を促した。我は立ち上がり、名乗りを上げる。


「はい。最近新しくAランク冒険者になりました、影山ボロスです。配信もしてるので、もう知っている方もいるかもしれませんが。新参者ですがよろしくお願いします!」

「ボロス君ね! よろしくー!」


 我が紹介を終えるとアンナが一声あげ、皆一礼した。


「さて、一通り自己紹介も済んだところで、集会を始めるとしよう。本日の特別議題は、この三つだ」


 宇賀神が予め用意されていたホワイトボードを我々に見せる。

 そこには、「影山ボロスと轟ガンマのSランクダンジョン攻略」「東京シティパークに出現したマシンゴーレム」「魔鉱石採掘場の怪しい影」という三つの内容が書かれていた。

 うむ、全部我が関与していると言っても過言ではないな……。


「では最初の議題。大々的にニュースになったから知らない者はいないと思うが、ここにいる轟ガンマと影山ボロスが、先日史上初のSランクダンジョン攻略を達成した。まずは感想を聞こうと思う。二人とも、Sランクダンジョンはどうだったかな?」


「やはり、かなりの難関でした。俺も、ボロスがいなければ死んでいたと思います。ですが、ギルドによるとあのダンジョンの魔物は魔鉱石により強化されていたらしいので、本来のSランクダンジョンの難易度と聞かれても、上手くお答えできません」


 ガンマさんがSランクダンジョンの概要を述べた。宇賀神はそれを聞き、少し考える様子を見せたが、すぐに語りだした。


「その件は私も聞いている。魔鉱石により厳密な難易度は測定できなかったものの、Aランクの最強格二人で、その強化されたSランクダンジョンを攻略できることが分かった。通常のSランクダンジョンならば、君達が手を組めば攻略可能ではないかと思っている。Sランクダンジョンは挑戦者がいないせいで参加費が支払われず、管理が大変だと魔王政府も言っている。これからは二人以上でSランクに挑むことも視野に入れておいてほしい」


 ここで最初の議題は終わったようだ。この集会は、情報共有とAランク同士の交友の目的が強いのかもしれない。


「では次だ。先日、東京シティパークにて突如魔物が出現した。その魔物はギルドの調査の結果、魔王政府が保持しているマシンゴーレムだと判明した。偶然現場にいた影山ボロスと七海カイトにより鎮圧されたが、これにより魔王政府の管理体制の甘さが露見した。またいつこのような危険な魔物が現れるか分からない。Aランクの皆には、警戒を強めておいてほしい」


 はいはい、その件は大変申し訳ございませんでした。

 でも、多分それをやったのは父上だ。未だに面会のアポは取れていない。平和友好条約の件もあるし、早く直接話したいのだが。


「では最後の議題。まあ、これも注意喚起に近いのだが。最近、立ち入り禁止になっている魔鉱石の採掘場に、怪しい男の影があったという。件のSランクダンジョンがそうだったように、魔鉱石をダンジョンの魔物に食べさせる者が現れるかもしれない。そうなった場合、ダンジョンのパワーバランスが崩壊し、冒険者を危険に晒すことになる。有事の際は、君達にそのダンジョンの平定に向かってもらうから、頭に入れておいてくれ」


 これで、特別な議題は終了したようだ。その後は通常の議題という事で、ダンジョンの踏破状況や、ダンジョンの監視担当を決めたりして、Aランク冒険者定例集会は幕を閉じた。


「これで集会は終わりだ。お疲れ様。この後は自由にしれくれて構わない」


 そう言って、宇賀神が部屋を去っていった。


「じゃあ、いつものやりましょうか!」

「そうだな。やるか!」


 突然アンナがそう宣言し、全員が活気づいた。


「こ、これは一体?」

「定例集会の後のお決まり。Aランク全員で観光するんだよ!」


 困惑する我に、カイトがこっそりと教えてくれた。

 成程……、ここからが本番という訳だな!

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