第29話 史上初の快挙

『うおおおおおお! ホントに倒した!』

『Sランクダンジョン、史上初攻略じゃん!』

『【50000】すげぇ! 二人ともおめでとう!〈赤スパの悪魔〉』

『お二人とも、流石っす!〈弟分ニキ〉』


 この瞬間、今まで一度たりとも攻略された事の無かったSランクダンジョンが、初めて踏破された。

 人間たちにとっては歴史的な瞬間だろう。その証拠に、今の同接人数は千万人を超えていた。この配信は伝説となって、これから語り継がれてゆくことになるのだろう。


「ボロス君! 勝ったか! やったな!」


 我の勝利を確認したガンマさんもヘロヘロと歩いてきて、我の近くに倒れ込んだ。


『【50000】二人ともお疲れ様です! もう色々と凄かったです!〈レイ〉』

『【50000】歴史に残る瞬間だぞ! みんな、赤スパで名を刻めぇ!』

『【50000】兄貴サイコーっす!!!〈弟分ニキ〉』

『【50000】二人とも強ぇ……、俺も頑張らないとな!〈カイト〉』

『【50000】ナイスファイトでしたよ!〈博識ニキ〉』

『【50000】俺も混ぜろォ! 赤スパで目立ちたいんだァ!〈中二ニキ〉』

『【50000】ちょっと! 一番目立つべきはこの私でしょ!? ね、ボロス様!?〈ガチ恋ネキ〉』

『【50000】お前ら投げすぎだろwww まあそういう俺も投げるんだけどw』


 コメントは最早お祭り状態だった。物凄い量の赤スパが飛び交い、コメント欄が赤一色になる。

 これはとんでもない収益が見込めそうだ……!


「皆さん、大量のスパチャありがとうございま———」


 そこまで言いかけたところで、一瞬意識が飛びそうになる。

 あれだけ激しい戦闘をしたのだ。無理もないか。思えば、我が奥の手を解放せずに倒せたこと自体、奇跡に近いのかもしれない。

 そういう事情もあって、我はこの史上初の快挙にとても達成感と充実感を感じていた。


「ふぅ……、流石にあんな化物と戦ったので、かなり体力が削られましたね……。今日の所はこれで終わりにします。事後報告とかはまたやると思うので、チャンネル登録等お願いします。では、また会おう!」


 数多の歓声と投げ銭に包まれながら、我は配信を終了した。


「ボロス君……、これを見ろ! 凄い事になってるぞ!」


 ガンマさんがスマホの画面を見せながら、興奮した様子で語っている。


「マイッターのトレンドが俺達の配信の関連ワードで独占されてる! 地上波のニュース速報でも報道されたみたいだ! バズなんて物じゃないぞこれは!」


 そのとんでもない情報を聞き、我も自分のスマホを確認する。そこではマイッターやマンスタの通知が溢れかえっており、「ボロスちゃんねる」「轟チャンネル」共に登録者数が千万人を超えていた。


「これは……! とんでもない事になった!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 その後の我らの身には、多忙という言葉では物足りないくらいの出来事が起きた。

 ダンジョンから出てすぐに出口で待ち構えていた風見原フーコに捕まり、我らはそのまま気絶。気が付いた時には病院にいた。

 数日間の入院を言い渡されたが、我らの病室にはマスコミが詰め寄って来た。

 記者たちの質問に答えていたら、入院期間はあっという間に終わってしまった。

 退院して病院を出た瞬間に再びマスコミに包囲され、そこで三時間近く取材を受けた。

 ようやく解放されてギルドに向かおうとしたら、今度は何故か我とガンマさんのファンクラブが出来上がっていて、そのクラブの者たちに包囲されてしまった。

 二時間ほど適当にファンサをして、そしてようやくギルドにたどり着いたのだった……。


「お二人とも、まずは史上初のSランクダンジョン踏破、おめでとうございます。この度は冒険者の歴史を変える快挙を達成されたという事で、我々ギルドより報酬五千万円を支給させていただきます」

「ご、五千万……!」


 その超高額な報酬に、我は思わず叫んでしまった。

 五千万もあれば、少しはこの前の遊園地襲撃事件の賠償金の足しになるだろう。いやー、ありがたい!


「そして、史上初の快挙を成し遂げられたという事で、お二人には記念品の盾を、ギルド省から贈呈します。明後日に式典を行いますので、東京記念ホールに来てください。お二人とも、今回は本当におめでとうございます!」


 職員が言うと、ギルドにいた者達が一斉に拍手を送りだした。


「皆さん、ありがとうございます!」


 それにガンマさんが誇らしげに答えたので、我も同じように右腕を上げて声援を受ける。


「……あともう一つ、大事なお話なのですが」


 歓声が鎮まったタイミングで、職員が新たな話題を切り出した。


「まだ何かあるんですか? もしかして追加の報酬とか……」

「あー、報酬の話ではないですね……」


 我は期待して聞いたが、どうやら違ったようだ。残念だ。


「実は、お二人が挑戦したSランクダンジョンを調査したところ、大量の魔鉱石が発見されまして……。気づいていたかとは思われますが、あのダンジョンは通常の状態よりも遥かに危険になっていました。それをお二人は攻略されたわけです」

「つまり……?」


 ガンマさんが緊張した眼差しで職員を見る。その口から、驚くべき内容が語られた。


「———影山ボロスさん、轟ガンマさん、お二人を史上初のSランク冒険者として承認する案が上がっています」

「Sランク、冒険者……!」


 それを聞いたガンマさんの表情が一気に明るくなった。


「やった……! まさか、Sランクになれるなんて……! やったよ……!」


 そんなに嬉しかったのか、ガンマさんは膝から崩れ落ちて泣き出した。


「……ガンマさん、良かったですね」


 我はガンマさんに寄り添い、その肩をそっと叩いた。

 彼に何があったのかは分からないが、彼にとって「強くある事」はとても大事な事なのだろう。今回共にダンジョンに挑み、彼の人間性が見えてきた気がする。

 我らはしばらくの間、自分たちに起きた怒涛の出来事の喜びを一つずつ噛みしめていた。

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