第28話 二人の必殺技

 我はスピノドラゴンと真正面からにらみ合う。

 一方のガンマさんは、早速魔法発動の準備をしていた。


「ボロス君、ここの鉱石の価値は無くなるけど、今は生存が最優先だよな!?」


 ガンマさんがそう言うと、この部屋に埋まっていた鉱石から何かが漏出し、それが彼の元に集まっていっていた。

 一体どんな大技だ?

 彼は強い。そんな強者の大技に、我も期待してしまっていた。


「そこのトカゲ! 我はガンマさんの大技が見たいんだ! 邪魔はさせんぞ!」


 我の宣戦布告を聞き、スピノドラゴンはすぐさま攻撃の体勢に出た。我の炎魔法に対して優位を取れると思ったのか、水流のブレスの構えを取っていた。


「ほう、そう来るか。ならば我も面白い物を見せてやろう。ダークバキューム!」


 容赦なくブレスを放つスピノドラゴンに対し、我は闇を自身の前に展開し、それを盾にしてブレスを防いだ。

 闇の中には、深淵の手と同じく空間が広がっている。その中に水のブレスが溜まったのを確認し、我は次のステップに移る。

 ブレスの魔力が大量に詰まった闇を具現化し、そこに我の魔力も加えて質量攻撃の構えを取る。


『ボロスって闇魔法にも適正あったのか……!』

『闇魔法って一番難易度高い魔法だろ? それをここまでの練度で……』

『やっぱ異次元だわw』


 我は闇を再び展開し、スピノドラゴンの方へ向けた。


「貴様の魔力、利用させてもらうぞ! ダークバキュームショット!」


 先程のブレスのほぼ全てを吸収してため込んだ闇を一つの塊として速度をつけて放ち、スピノドラゴンにぶつける。

 その圧倒的な質量にスピノドラゴンは大きなダメージを受け、かなり息が上がっているようだった。


「グ、アァァァァァァ!」


 スピノドラゴンは咆哮を上げ、爪に電気を纏わせて我に突っ込んできた。


「トカゲ! こっちだ!」


 我もできるだけガンマさんから奴を遠ざけるため、反対方向に誘導する。だが奴は、我を無視してガンマさんの方に走っていった。


「マジかよッ、このクソトカゲが!」


 我は大急ぎでスピノドラゴンの方に飛んでいき、その体にしがみついてゼロ距離で魔法を放った。


炎魔幻骨インフェルノラッシュ! ギリ間に合った!」


 我のゼロ距離魔法を受け、本当にギリギリでスピノドラゴンの軌道は逸れた。だが、まだガンマさんとの距離が近い。なんとか遠ざけなければ……。


「いや、それでいい! ボロス君、奴をその場所に固定してくれ!」


 間も無くチャージが終わるのか、ガンマさんが我に向かって叫んだ。その手の中には緑色に輝くエネルギーが圧縮されているようだった。


『ついにチャージ完了か!?』

『ガンマ様の新技、楽しみ!〈ガンマ親衛隊〉』

『いけー! やっちまえ!』


 スピノドラゴンが壁に衝突して動きを止めている僅かな隙に、我は奴の足元に深淵の手を発動し、奴の右足を影に落とした。

 流石に全身を落とせるほどの影を作る時間は無かったが、奴をその場に固定するには十分だった。


「ボロス君、すぐにこっちに! 君も巻き込まれる!」


 ガンマさんは本格的に発射体制に入ったようだ。我はすぐに彼の背後まで退避した。


「申し訳ないが、俺を支えてくれないか? 多分、物凄い反動が来る」

「了解です。頼みましたよ、ガンマさん!」


『ガンマ、頼む!』

『アナタだけが希望だ!〈赤スパの悪魔〉』

『ガンマさんの本気を見せてください!〈カイト〉』

『ガンマー、行けー!』


 我とコメントの声援を受け、ガンマさんは覚悟を決めたようだった。


「喰らえ……、雷神荷電粒子砲ライジングアルティメットキャノン!」


 彼の手元に圧縮されていた緑のエネルギーが大量の電気を帯びる。そして、一瞬スピノドラゴンに向けて電気の道筋が走ったと思ったその瞬間。

 その大量のエネルギーが一気に放たれた。

 轟音を轟かせながら、地面ごとスピノドラゴンの体を抉っていく。

 その反動はあまりにも大きく、我が全力で支えていないと二人とも壁に衝突して死んでしまうほどだった。


「ボロス君、もう少し耐えてくれ……!」

「ガンマさんこそ……!」


 何秒経っただろうか。もしかしたら一瞬だったかもしれない。緑の砲撃が通った地面は綺麗なほどに跡形もなくなっており、スピノドラゴンの体も半身が大きく抉れている状態だった。

 ガンマさんもほぼ魔力を使い果たし満身創痍だったが、宣言通り奴に大ダメージを与えることに成功していた。


『すげぇ……!』

『威力が桁違いすぎる!』

『流石はAランク最強……、格が違う!〈カイト〉』

『すごい……! それしか言葉が出ない!〈レイ〉』

『でも、あんな状態になってもまだあのドラゴン動いてるぞ……!?』


 そう、魔鉱石の影響か、こんな状態になって尚、スピノドラゴンは戦闘態勢を維持していた。

 ここまで来ると、奴が少し可哀そうになってきた。

 何者かに戦闘兵器として好き勝手利用され、死にそうになって尚、戦いの運命を強いられる。

 此奴を解放することが、魔王としての我の責務だと感じた。


「ボロス君! とどめを!」


 ガンマさんが叫ぶ。言われずとも、すぐにとどめは刺すつもりだった。


「ガンマさん、今すぐこの部屋の外に出てください。今から俺は、炎魔弓と同等の火力の技を撃ちます。でもその技は、炎魔弓よりも範囲が広い。魔力をほぼ使い切ったアナタが余波に巻き込まれたら大変な事になる」

「……分かった。後は君に任せる!」


 ガンマさんが部屋から出たのを確認し、我は三度スピノドラゴンと向かい合う。


「お前はよく頑張った。頑張りすぎなくらいだ。……お疲れ様、今自由にしてやる」


 奴を魔鉱石から解放するには、この技の火力が必要だろう。幸い、奴の動きは鈍っていたため、チャージは無事に完了した。


「悲しき戦いの運命は終わりだ、炎魔隕石インフェルノメテオ!」


 ボスの部屋の天井から、この部屋全体を埋め尽くすほどの大きさの炎を纏った隕石を、最大まで加速して撃ちだす。

 隕石はすぐにスピノドラゴンに着弾し、その圧倒的質量で押しつぶした。我も防御魔法を張っていなければ大ダメージを負っていただろう。

 隕石が消え去った時、巨大なクレーターと化したその部屋に残っていたのは、力尽きたスピノドラゴンと、彼から溢れ出た大量の魔鉱石だけだった。


「ガンマさん、視聴者の皆さん、ボスを倒しましたよ!!!」


 我は脱力して床に倒れ込み、皆に向かってそう勝利宣言した。

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