第27話 絶望のボス戦、開幕!
我とガンマさんでボスへの扉を開く。
少し開いた瞬間に、物凄い瘴気が部屋の中から溢れ出てきた。
「やっぱり、悪い予感が当たってたみたいですね……」
このダンジョンのボス、それはこのスピノドラゴン。スピノサウルスに近い形の特徴的な背びれを持ち、ドラゴンの中でも抜きんでた俊敏性を持つ五メートル級の魔物だ。
我らの予想通り、スピノドラゴンの体は異常なほどに赤黒く染まっており、その目は正気を失っているかのようだった。
『やべぇ……コイツは流石にやべぇ!』
『二人とも早く逃げろ!』
『兄貴! ガンマさん! 自分の身の安全を第一に考えてくださいっす!〈弟分ニキ〉』
スピノドラゴンと我らの目が合った。それを認識した時には、もう既にスピノドラゴンは動き出していた。
「ボロス君!」
我よりも早く反応したガンマさんが、咄嗟に我を庇いながら高速移動して回避した。
我らを仕留めそこなったことを確認したスピノドラゴンは、怒りの眼差しをこちらに向けていた。
「クッソ、いくらなんでも速すぎる……!」
「だが、攻撃しなくては勝てない!
ガンマさんが魔法の構えを取るが、その時には既にスピノドラゴンは我らの目の前にいた。
「———は?」
あまりの速さに我らは一切反応できず、尻尾で薙ぎ払われてしまった。
そしてまた、スピノドラゴンは追撃の構えを取っていた。
「ガンマさん、避けて!」
「くッ……!」
我らはギリギリで攻撃を避けたが、相手は既に次の攻撃に移っていた。
速い。いくらなんでも速すぎる。恐らくこの速度、本気の我をも上回っている。
Aランク最強のガンマさんと二人がかりでも、絶対勝てるという自信が無かった。
「クッソ、どうしてこんな事になったんだ!」
迫りくる鋭い爪を前にして、我は叫び散らかした。
「サンダーショック!」
だが、その爪はガンマさんの魔法によりはじかれた。一瞬の隙の内に、我はスピノドラゴンの横に回り込み、反撃に出る。
「
我の連撃を真横から喰らい、スピノドラゴンは横倒しになった。
「ガンマさん、ありがとうございます!」
「礼は後で良い。それよりも、今はコイツをどう倒すかだ」
『二人とも、スピノドラゴンの体を見てください!〈博識ニキ〉』
突然の事だった。コメント欄から指示が飛んできたのだ。
『おいおい、しょうもない事して足引っ張ろうとするなよ』
『良いから見てください。多分、そこが弱点です〈博識ニキ〉』
博識ニキが随分と自信気に言うので、我らもそこを確認してみる。
スピノドラゴンの体をよく見ると、赤黒い体表に、ところどころ石のようなものが突出しているのが分かった。
「あれは……!」
『多分、スピノドラゴンが取り込んだ魔鉱石の量が多すぎた結果、体外に溢れ出てきたんだと思います。そこを叩けば、奴に大きなダメージを与えられるかもしれません〈博識ニキ〉』
博識ニキの言う事には一理ある。魔鉱石を過剰に取り込むと、一部が体外に露出するというのはどこかで聞いたことがあった。
『博識ニキ、お前やるじゃねーか!』
『その名に違わず博識だ!』
『お前英雄だよ』
博識ニキの助言により、叩くべき場所は分かった。あとは奴の高速攻撃をかわしながら、そこに攻撃を打ち込めば良い。
起き上がったスピノドラゴンは早速動き出した。大きく口を開き、そこから青色を帯びた魔力が見えた。
「ガンマさん、下がって!」
我は咄嗟にガンマさんを後ろに下がらせ、防御魔法を展開した。
次の瞬間、スピノドラゴンは口から高速の水のブレスを放っていた。
「ガンマさん、ブレスが終わるまでは俺の後ろから出ないでください!」
「ああ。恩に着る!」
予想通りの水のブレスだった。ガンマさんが扱う魔法は電気に関するもの。水に濡れれば、自分が感電する危険性も出てくる。
だが、感電の危険性をはらむのはあちらも同じだ。
「ガンマさん!」
「了解!
ブレスが終わった瞬間に、ガンマさんは雷の槍を生成してスピノドラゴンの口内に投げ込んだ。
先程まで水のブレスを放っていたため、その口内は非常に濡れている。そこに、高電圧の雷の槍が放り込まれたのだ。
スピノドラゴンは感電し、その動きが一時的に止まった。
「ボロス君! 一気に叩くぞ!
「
ガンマさんは雷撃で、我は大量に生成した炎の針で、スピノドラゴンの露出した魔鉱石を集中攻撃した。
「どうだ、流石にこれは効いただろう……?」
ガンマさんがそう言うが、魔鉱石には僅かなキズしかついていなかった。
「魔鉱石の魔力が漏出して、体を守っているのか……!」
スピノドラゴンの圧倒的な硬さに驚愕している間に、相手は既に回復しているようだった。
今度は学習したのか、水の魔法は使わずに雷のブレスを放ってきた。高速で放たれたブレスが、我とガンマさんの間に炸裂する。
「やっぱりあの俊敏性は雷魔法を使ってたのか! それにしてもこの速さと硬さ、強すぎるッ……!」
「ボロス君! 俺に策がある!」
ガンマさんが突如叫んだ。
「策って、一体!?」
「まだ実戦で使ったことはないが、成功すれば奴に大ダメージを与えられる大技がある! だが、それを使うにはかなりのチャージ時間が必要だ! ボロス君、君にはそのチャージ時間の間、奴を引き付けてほしい! その技が決まれば、奴の防御力は大きく削がれるはず。その隙に君の
ガンマさんの言った策は、かなり危険なモノだった。チャージ中のガンマさんに攻撃の矛先が向いたら、チャージから魔法への切り替えが間に合わず、彼は一瞬で殺されてしまう。チャージ中、我が完全に奴の攻撃を受けきらなければならない。
だが、この状況を打破するには、どちらかが囮に徹し、もう片方の大技のための時間を稼ぐしかない。
ガンマさんとスピノドラゴンを一対一でぶつけるのはあまりにも危険だ。ここは我が引き受ける他ないだろう。
「分かりました! 俺が奴を引きつけます!」
「ボロス君……、頼んだ!」
早速スピノドラゴンの爪が迫っていたが、我は魔法でそれをはじき返した。
「貴様の相手は我だ、さあ来い、図に乗ったトカゲ!」
『戦闘狂モードキター!』
『ボロス、ガンマさん、勝ってくれ!〈カイト〉』
『そんなトカゲ、二人の敵じゃないだろう!? やっちまえ!〈赤スパの悪魔〉』
『二人とも、頑張って!〈レイ〉』
コメントの声援を受け、我はスピノドラゴンと対峙した。
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