第25話 風見原フーコ、現る!
「何故、お前がここに……?」
あまりにも唐突な風見原フーコの登場に、ガンマさんも唖然としていた。
『まさかの風見原フーコキター!』
『なにこれ、サプライズコラボ!?』
『Aランク三人が集合したw しかも全員上澄みの実力者w』
コメントも想定外の盛り上がりを見せていた。そしてどうやら、噂をかぎつけた風見原フーコのチャンネル『フーコの部屋』の視聴者もこの配信に現れ始めたようだ。
「なんでって、決まってるでしょ? ボロス様がSランクダンジョンに挑むって聞いて、ギルドの職員に金を渡して挑戦するダンジョンを教えてもらったのよ。風見原財閥の力を舐めないでくれる?」
風見原フーコはAランク冒険者であると同時に、日本を支配する財閥の一つ、『風見原財閥』の令嬢でもあるのだ。もしかしたら、財政難の魔王政府より金があるのではないか?
そんなことよりも、此奴今『ボロス様』って言ったよな。この喋り方、まさか……。
「なんでそこまでしてボロス君に会いたがってるんだ!? 君も同じAランク、定例会議で会えるだろう?」
「愛しのボロス様に会うチャンスなのよ? そんな悠長に構えてられるわけないじゃない! 恋愛で何よりも大事なのはスピードよ!」
『おい、この喋り方まさか……w』
『いやでも、そんな事あるか?』
『これボロスも勘づいてるだろw』
『ボロス、聞け!』
コメント欄の者は大半が察したようだ。
……確証を得るためにも、聞くしかないか。
「あのー、風見原フーコさん。その喋り方、もしかしてアナタ、ガチ恋ネキですか?」
「ええその通り! 私こそアナタの正妻になる女、ガチ恋ネキこと風見原フーコよ!」
『マジかよwww』
『あのキモイ奴フーコだったのかwww 笑いが止まらねぇwww』
『マジか、俺の推し配信者三人目が同じコメント欄にいたなんて……!〈赤スパの悪魔〉』
『というかリアルでもその喋り方なのかよwww』
どうやら真実のようだ。受け入れるしかない。
あの厄介ファンの正体が、Aランクナンバー2の実力者だった。というか、こんなのがナンバー2とは、Aランクも落ちたものだ。
「ボロス様、顔色が良くないようですが如何されました? もしかして、私の色気にやられちゃいました?」
うるさい。コメントの時から思っていたが、現実だと余計うるさい。というか、コメントにいる時とほぼ同じ喋り方なのが余計に腹立たしい。
「フーコ君、ボロス君に迷惑だ。それに、ここはSランクダンジョン。ギルドの許可なしに立ち入るのは違法だぞ。しかも配信中だ。Aランク冒険者たるもの、行動には気を使え」
ガンマさんが釘を刺すが、それでもフーコは止まらなかった。
「……私が迷惑? ボロス様、もしかしてあの女にやられたんじゃないでしょうね? あんな弱い奴よりも私の方が絶対良いですから! 惑わされてはいけませんよ!」
『あー、言っちゃったな』
『本人見てるのにそれはタブーだよ……』
『あの、ボロスさんは私の恩人です。別にそういう関係じゃないですから!〈レイ〉』
『あれ、これ意外と……?』
フーコは我に体を摺り寄せながら聞いてきた。本当に気持ち悪い。というか若干の恐怖さえ感じた。
だが。
「……おい、貴様が我をどう思おうと勝手だが、レイさんを侮辱する事だけは許さん。次に同じことをしてみろ、タダではすまさんぞ」
レイさんを『弱い奴』と罵ったことは許せなかった。
彼女は弱くない。人の為に戦う勇気を持っている人だ。それを、こんな下衆に卑下されるのは耐えられない。
「チッ、あの女……。まあ良いわ。ボロス様と私が結ばれる事は既に確定している。そして風見原財閥の財力を総動員して超豪華な結婚式を挙げるのよ! 子供も四人以上は欲しいわね……! あと、毎晩寝る前にキスをして、週末には二人でデートに……」
「……フーコ君。流石に口を慎め。これ以上はAランク冒険者の信用に関わる。まだダンジョンの入り口だ、今戻ればそこまで重罪にはならないかもしれない。それでも戻らないというのならば……」
気色の悪い発言を繰り返すフーコに対し、ついにガンマさんの堪忍袋の緒が切れたようだ。肉体から魔力が漏出し、周りに静電気が漂い始めている。
「何よ、やる気なの? 私はボロス様と一緒にいられるんだったら、アンタと殺りあってもいいのよ? でも、アンタにそんな度胸あるの?」
「フーコ君、前々から思っていたが、君にはAランク冒険者として相応しくない所がある。Aランク冒険者は、全ての冒険者の憧れであり、市民を守る英雄でなくてはならない。その自覚が君には足りていないのだ。今一度、その性根を叩きなおす必要がある」
「あっそう。随分ときれいごとが好きなのね。Aランクナンバー1だからって粋がってるんじゃないわよ! すぐにでもそこから引きずり降ろしてやるわよ!」
ガンマさんとフーコの言い合いが加速する。フーコの側も、漏出した魔力で風が吹き始め、両者完全に臨戦態勢といったところだ。
流石に配信中に大喧嘩が始まってしまってはシャレにならない。何とか止めなければ。
「深淵の手!」
我は地面に触れ、フーコの下に影を発生させた。次の瞬間にはフーコはその影の中に沈んでいった。
「ちょっと! 何するんですか、ボロス様!」
「安心しろ。その影はダンジョンの外に繋げてある。ダンジョンから出たら大人しくしておくんだな。次は本当に容赦しないぞ」
完全に沈むまでの間、あーだこーだと喚く声が聞こえたが、やがてそれは完全に聞こえなくなった。
「……ふぅ、やっとうるさいのがいなくなった」
『ボロスお疲れ……。アイツはAランクの中でも変わり者だからね〈カイト〉』
『Aランク、まともな奴だけじゃないんだな……』
『フーコの部屋から来たけど、流石に今のはキモかったわw』
『私はあきらめないからね! ボロス様、次に会う時は婚姻届提出できるように印鑑携帯しといてくださいね!〈ガチ恋ネキ〉』
『うわでたwww』
『こりねぇなぁwww』
どうやら今度はコメント欄に出現したようだが、現実にいないだけ遥かにマシである。
「ガンマさん、一悶着ありましたけど、進みましょう……」
「そうだな。視聴者の皆さん、見苦しい物をお見せして申し訳ありませんでした」
視聴者に謝罪し、我らは再びダンジョンの奥へと進んでいくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます