第24話 いざSランクダンジョンへ!
「おかえりなさいませ、魔王様。ガンマさんと過ごした夜はいかかでしたか?」
魔王城に戻るなり、コブリンがいきなり聞いてきた。
「まさか、ガンマさんがあそこまでゲーム強いとは思わなかった。この我が全敗するとは……!」
「あのー魔王様、大変申し上げにくいのですが、あれは多分ガンマさんが特別上手いのではなく魔王様が下手———」
「おい、それ以上言ったら分かっているな?」
コブリンが不敬な事を言おうとしていたので、剣を抜いて黙らせた。
全く、配信でもそうだったが、何故人間たちは我がゲームが下手だと言うのだろう。我がことごとく負けているのは相手が悪いから。それだけだ。
「ところで魔王様、そろそろ時間ではないですか?」
「おお、そうだったな。コブリンよ、編集はもう既に終わっているのだろうな?」
朝八時。昨日の配信でボロスちゃんねる側で行われるコラボ内容を発表すると告知した時間だ。
「もちろん済んでおります。プレミア公開の用意もバッチリです」
あと三十分。三十分後には世間が大騒ぎしているだろう。
その瞬間を楽しみにしつつ、我はコブリンにあることを聞いた。
「……そういえばコブリンよ、父上との面会のアポは取れたのか?」
この前のマシンゴーレム襲撃事件。その真相を確かめるべく、ダメ元で父上との面会を頼むことにしたのだ。
「それが、襲撃事件の事を口に出した瞬間に断られてしまいまして……。ですがやはり、あの事件は別邸の誰かがやった事として見てよいでしょう」
……一体、父上は何を考えているのだろうか。
「人間と馴れ合うな」という教えを破った我に対して怒っているのか? それとも、本格的に人間政府を倒し、魔物の時代を到来させようとしている?
どちらにしろ、今の我は肯定できなかった。レイさんやカイト、ガンマさんなど、人間にも良い人はいると知ったから。彼らを自らの手で葬ることなど、絶対にできないだろう。
……どうやら我も、随分と変わってしまったようだ。
「魔王様、まもなく始まります」
考え事をしているうちに、公開まで残り一分になっていたようだ。
プレミア公開の待機人数は既に三十万人を超えていた。ボロスちゃんねると轟チャンネルのコラボという事で、かなり大きな注目を集めているのだろう。
「……始まりました!」
画面が切り替わり、コブリンが作った予告映像が流れ始める。そしてそこに映し出された、『Sランクダンジョンに挑戦!』という文言。
世間はとんでもないリアクションを見せていた。
動画のコメント欄だけではない。マイッターのトレンド上位が我ら関連のワードで埋め尽くされ、マンスタでも一気に拡散された。
さらにはニュース速報にも取り上げられ、この告知動画の再生数は早くも五千万回を突破しようとしていた。
「ままま魔王様! 物凄い反響ですよ! ボロスちゃんねるの登録者が四百万人を突破、轟チャンネルも五百万人を突破しました! 革命が起きてますよォ!」
コブリンは早くも両手に酒を持って宴会気分でいた。
「落ち着けコブリン。これはまだ序章に過ぎん。Sランクダンジョンを攻略した時には、これとは比べ物にならない程の反響があるだろう。宴会はその時までお預けだ」
Sランクダンジョンに挑むのは四日後。それまでに、コブリンとはダンジョン内の状態をどのようにするかを話し合っておく必要がある。我はともかく、あまり強すぎる魔物を設置してしまうとガンマさんの身に危険が及ぶかもしれない。
我らは十全に話し合いを行い、最も配信を盛り上げられる最高のダンジョンを作り上げたのだった。
そしてついに、配信当日がやってくる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「みなさん、こんにちは! ボロスちゃんねるのボロスと!」
「轟チャンネルの轟ガンマだ!」
午後二時。Sランクダンジョンの前に立ち、我らは配信を開始した。
『こんちは!』
『頼むから二人とも死なないで……!』
『歴史が変わる瞬間を見られるかもしれないのか……!』
『【50000】お二人とも、頑張ってください!〈弟分ニキ〉』
『【50000】俺の推し配信者が二人もいるなんて、こりゃ赤スパがはかどりそうだぜ〈赤スパの悪魔〉』
『ガンマさん、ボロス、頑張れ! 応援してるぞ!〈カイト〉』
『二人とも頑張ってください! 私も応援してます!〈レイ〉』
いきなり十万円もの投げ銭が飛んできた。序盤から飛ばすな、コメント欄よ。それでこそだ!
そしてどうやらカイトとレイさんも来てくれているようだった。これはますます、盛り上げるしかないというものだ。
「今回は告知した通り、我々でSランクダンジョンに挑んで、史上初の攻略を目指します!」
我はそう宣言し、早速ダンジョン内に入っていった。
早々に現れたのはデスライガー。強靭な脚で素早く動き回り、その大きな口で獲物を嚙みちぎる、ライオンに似た魔物だ。
「早速魔物がいますね。まあでも、まだ序盤ですし、せいぜいAランク上位くらいでしょう! フレイムキャノン!」
デスライガーに向けて、我は挨拶代わりの一撃を放つ。
が、流石はSランクと言うべきか。序盤の敵であるにも関わらず、一撃で倒すことは叶わなかった。
「流石にしぶといな……!」
「ここは俺に任せろ! サンダーショック!」
迫ってくるデスライガーに対し、ガンマさんが魔法を放つ。彼の手の先にチャージされた電気が、デスライガーの頭部目掛けて一直線に放電された。
それを受けたデスライガーは、一瞬で倒れてしまった。
『やっぱガンマさんの魔法やべぇ……!』
『本当にどっちが強いのか分からなくなるわ』
『流石ガンマ様! 最高です!〈ガンマ親衛隊〉』
『↑現れたか、ガンマの厄介ファンw』
『……あれ、そういえば今日ガチ恋ネキいなくね?』
『確かに』
コメント欄の言う通り、今日はあの厄介ファン、ガチ恋ネキが姿を見せていないようだった。まあ、奴はうるさいからいない方が良いのだが。
「流石にSランクの魔物は強いですね。気を引き締めて行きましょう!」
我がそう言ってダンジョンの奥に進もうとした時だった。
「やっぱり、二人ともここにいたのね!」
突如、我らの後ろから女の声が聞こえてきた。
振り返って確認すると、そこには緑の長髪で、セレブ感あふれる冒険服を着ている女がいた。
「お前は……、風見原、フーコ!?」
その姿は、Aランクナンバー2の女によく似ていた。
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